ベルギー出身の彼は'40年代にジャズ・ギタリストとしてデビューし、'50年代にはハーモニカ、口笛でもレコーディングを開始。二刀流ならぬ三刀流でミュージック・シーンを輝かせたが、最も大きな功績としてあげられるのは、やはり「ハーモニカの可能性を広げた」ことであろう。自己名義のアルバムは70点超、共演ミュージシャンはクインシー･ジョーンズ、ミシェル・ルグラン、ビル・エヴァンス、ジャコ･パストリアス、パット・メセニー、エリス・レジーナ、スティーヴィー・ワンダー、スティング、ビリー・ジョエル、ジェイミー・カラムら、世代やカテゴリーを超えて広がっている。

6月12日にブルーノート東京、翌13日にコットンクラブで開催される「マイク・デル・フェロー presents "トゥーツ・シールマンス 100"」は、タイトル通り、この伝説的音楽家の生誕100年を記念する特別公演。音楽監督を務めるマイク・デル・フェローは、約10年間にわたってシールマンスのワールド・ツアーに参加するとともに、晩年の作品『One More For The Road』でも演奏したオランダ出身のピアニストだ。

マリア・カラスやレナード・バーンスタインとの共演歴もあるオペラ歌手レオナルド・デル・フェローを父に持ち、9歳でクラシック・ピアノの演奏を始め、17歳でジャズに開眼した。アムステルダム音楽院を経て、ケルン音楽舞踊大学ではボブ・ブルックマイヤー（トロンボーン奏者だが作編曲家としても著名）の教えも受けたという。ブルックマイヤーは後年、マリア・シュナイダーやダーシー・ジェイムズ・アーギューも指導しているので、マイクは彼らと「きょうだい弟子」ということになる。'80年代後半にフュージョン系バンド"フューチャー・ショック"で頭角を現し、90年代初頭にはサックス奏者フランク・ヴァガネと"ザ・デル・フェロー/ヴァガネ・グループ"を結成。99年に発表された初の単独リーダー・アルバム『Make Someone Happy』では、シールマンスをフィーチャリング・ゲストに迎えた。これまで117か国で演奏し、2010年代以降は、さまざま国の異なる文化に音楽の橋を架けるべく"Songs Inspired by Wandering the Globe"というプロジェクトを推進（現在まで5作品を発表）。後進の指導や、動画配信にも情熱を注いで現在に至る。

アムステルダムで行われた"トゥーツ・シールマンス 100"ではベテラン・ハーモニカ奏者のマックス・デ・アロエが客演したが、この日本公演には、インドネシア出身のハーモニカ奏者、レガ・ダウナがスペシャル・ゲストとして参加する。インコグニートのブルーイ率いる別ユニット"シトラス・サン"に起用されて脚光を浴び、マイクを「なんという、すごい才能の持ち主なのか」と感嘆させた気鋭である。マイクとレガの共演はすでにマイクのYouTubeチャンネルにアップされているので、ぜひご視聴をお勧めしたい。公演への期待がますます高まること、間違いなしだ。

ステージはトゥーツ・シールマンスの愛奏曲の数々に新たなアレンジが施されるとともに、その精神を受け継いだレパートリーで構成されるという。マイクの詩的なピアノ・タッチ、レガの卓越したハーモニカ吹奏はもちろん、マイクの盟友セバスティアン・カプテインの繊細なドラム・プレイ、日本ジャズ界のファースト・コールである楠井五月のベース・ワークにも、じっくりと耳を傾けたい。巨匠シールマンスへの限りない敬意とハーモニカ・ジャズの未来が照らし出される、音楽ファン必見の内容となろう。

LIVE INFORMATION

MIKE DEL FERRO presents "TOOTS THIELEMANS 100"
with special guest REGA DAUNA

2023 6.12 mon.　ブルーノート東京
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mike-del-ferro/
2023 6.13 tue.　コットンクラブ
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mike-del-ferro/

＜MEMBER＞
マイク・デル・フェロー（ピアノ）
セバスティアン・カプティーン（ドラムス）
楠井五月（ベース）
Special Guest：レガ・ダウナ（ハーモニカ）

Toots 100 Birthday Celebration

原田和典（はらだ・かずのり

音楽ジャーナリスト。元「ジャズ批評」編集長、米ジャズ誌「ダウンビート」国際批評家投票メンバー。東京建物バッグ ブリリア アート ギャラリーで開催中のART in MUSIC 「POINT OF JAZZ」展の一部プログラムの監修も手掛ける。