【来日直前インタビュー】LOS VAN VAN / Samuel Formell | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【来日直前インタビュー】LOS VAN VAN / Samuel Formell

【来日直前インタビュー】LOS VAN VAN / Samuel Formell

不動の人気を誇るキューバのサルサ・バンド
ロス・バン・バン、13年ぶりの来日に期待が高まる!

 世界中で熱狂的な支持を受ける"キューバの弾丸列車"ことロス・バン・バン。待望の来日公演を目前に控え、リーダーのサムエル・フォルメルへの貴重なインタビューが実現。50年以上にわたる長い歴史を持つ世界的なサルサ・バンドの魅力を、キューバと繋がりが深い写真家/文筆家、板垣真理子がお届けする。

interview, text & photography (*except main photo) = Mariko Itagaki

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 ハバナ郊外の緑豊かで閑静な住宅街の一角。ここが現在のバン・バンのリーダー、サムエル・フォルメル氏の住居だ。

 門扉の横のベルを鳴らすとすぐに、扉が反応した。玄関前に自ら迎えに出てくれたサムエル氏。キューバ人らしく、どこまでも気さくでにこやかだ。広い敷地に広くて綺麗な住居。室内の壁にはたくさんの写真や、アルバムのジャケットになった絵画などが並ぶ。ひと際目を引くのは、バン・バンの創始者でありサムエル氏の父上である、ファン・フォルメル氏の写真である。この事が象徴するように、続く話もずっと父親に対する尊敬の念と愛情から離れることがなかった。

「この家はね、以前住んでいた家と交換して移り住んだのだよ(キューバでは家の交換ということをよくやる)。以前ここは一人ぼっちの子供たちのための施設だったんだけど、僕はこの地域が好きだからそうしてもらったんだ」

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 通訳さんが以前からの知り合いであったせいもあり、すぐに話しが弾む。私は本当は広くて大きなテーブルに動画用のカメラを設置して話したかったのだけれど「僕は楽器の前にいるのが好き」、とどんどん自分でアレンジしてしまった。そして実際、話している途中でもピアノを弾いたりパーカッションを鳴らしたりして、音楽の音そのものでも説明してくれる。「ホントに音楽が好きで、楽器を鳴らすのが好きなんですね」「うん・・・確かに」と笑う。事前に渡してあった質問表について「あれは全部忘れちゃったよ」と言ったのに、こちらが質問始める前に、それに沿って話してくれた。本題に入ろう。

「僕たちのバンドの命名は砂糖黍刈りの最中だった。バンドの結成は1969年(サムエル氏は3歳)だが、最初は名前がなかった。父とピアノのプピが休憩時間に話していて突然この名前が閃いた。それは、誰もかれも音楽家さえもが1970年には駆り出されていて、1000万トンの収穫を目指すキャンペーンの言葉からヒントを得た。“バン・バン(行け、行け) ”てね。でも、断っておくけど父はけっして政府と密着していたり、フィデルと格別親しかったわけじゃない。勝手にそういうことを言うやつもいるけど、それは想像の産物。僕は父から直接聞いたことしか話さないからね!」

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左:象の絵はアルバム「Fantasia」のカバー。2017年グラミー賞ノミネート。

「同じ年にはすでに出来立てのバンドのバン・バンが大阪万博に招待された。その理由は、父の編み出した新しいスタイルの音楽が素敵でカッコ良かったからだよ。それは何かというと、ひとつは電気楽器の導入だった。当時は世界中でそういう斬新な音楽が広がっていた。父も、バンバンを始める以前は、オルケスタ・レベにいたのだけどなにか新しいことをやりたかった。父の妻、つまり僕の母は才能あるタップダンサーで、一緒になにかやりたい気持ちもあったという。万博に行く以前は、父は初めて自分たちの音楽を聴く人が受け入れてくれないのではないかという心配をしていたらしいが、まったくその危惧は必要ないものだったし、しかも当時の日本の新しいテクノロジーから学ぶことも多くて、音楽面での進歩も素晴らしかったという。

 そうして父はバンドの創始の頃から一貫して、伝統的なものをふまえながら新しいことをやる、という姿勢を通してきた。伝統的なものとは、レべや、ニコ・サキ―ト、ベニ・モレ、それらの音楽の上に新しいものを追及した。新しいものとは電気楽器だけではなくて、さらに重要なのはハーモニーの変化だった(とピアノを弾く)。

 また、父は〈ベースを歌わせた男〉としても知られている。ベースが鳴って歌えば、それに続いてコーラスが入る、というのを皆が理解した。コール&レスポンスみたいに。これは、〈la Candera〉〈Sandungueira〉の曲にも生きている」

「またバンバンは、ソンゴという独特のリズムも打ち出し、この他の斬新なリズムやハーモニーも編み出した。これは父はもちろんのこと、ピアノのプピとパーカッションのチャンギートを始め、多くのメンバーの力も大きい。僕は実際にバンバンと演奏を始めたのは1993年からだけど、うんと幼い頃、もの心ついた頃からずっとバンバンの演奏を身近で聴いてきた。これはものすごく大切なことだ。バンドに入るのは、ただ単に上手いだけではだめなんだ。そのバンドのコラソン(心) とフィーリングを掴んでいないと。そうしながら、新しいことも発見していく。よく父の言っていた言葉は〈いつも同じ道を進んでいるが、乗っている船が違う〉だった。2016年に父が他界してから僕が跡を引き継いだわけだけど、今の僕もその姿勢はまったく同様だ。

 また、こうして50年以上もバンドを続けていくのに大切なことは、バンドのメンバーの気持ちや考えていることを常にお互いにやり取りすることだ。まるで家族のように一人一人の意見に耳を傾けてる。バンド創設以来、父は常に芸術のプロセスに全員を統合する、という哲学を実践してきた。

 また、バンドのメンバーだけではなく、聴衆の気持ちにも耳を傾けてきた。〈人々が何を望んでいるか〉、ね? それは、人々の言葉であり、時には求めているリズムでもあった。

 たとえば歌詞の中ある、僕たちはマンゴー(若くて美しいものの象徴) ではなくてマメイなのだ、というようにね。マメイもとても美味しくて素晴らしい果物なのだよ。また〈Van Van es cosa golda〉という歌詞もあるけど、golda はなにか大きくて立派なものを表す言葉。これは、バン・バンが、キューバのアイデンティティで造られていることを表しているんだ。僕たちは、常に人々と一緒にいる。これからもずっとね」

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左:バン・バン創始者である父ファンの写真の前で。

「今の時代を象徴する歌詞?そうだな。。。以前、90年代初頭、キューバが大変な状況になったときに、父は〈No es Facil〉(簡単ではない)という歌を作ったよ。これはなにもネガティヴな内容ではなくて、それでも皆、元気に前向きにやっていくんだ、という内容だった。僕も今の状況の中で、そういった曲をつくれば興味深くいい曲になるだろうね。でも今はそれはしない。何故なら、今は皆、本当に一生懸命なんだ。だから、楽しんでもらうことが先。なによりも、楽しいことが大切なんだ。日本にも、なにより楽しさと元気を運んでいくよ。だから、思いっきり楽しんでね」

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左:寛いでビール。右:ホテル・ナシオナルのバー。

LIVE INFORMATION

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LOS VAN VAN
"¡Vívela! Salsa Tour 2023" at Blue Note Tokyo

2023 8.29 tue. ブルーノート東京
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/los-van-van/

<Member>
サムエル・フォルメル(ディレクター、ドラムス)
バネッサ・フォルメル(ヴォーカル)
マイケル・ガルシア・ゴンザレス(ピアノ)
ロベルト・エルナンデス(ヴォーカル)
アブデル・ラサール(ヴォーカル)
アルマンド・カンテロ(ヴォーカル)
アルバロ・コリャード・マルチネス(トロンボーン)
アムセル・ウー・サンチェス(トロンボーン)
イヴァノヴィ・ガルソン・タバレス(トロンボーン)
イルヴィング・フロンテーラ・リコ(ヴァイオリン)
リカルド・ラブラダ(ヴァイオリン)
ボリス・ルナ(キーボード)
ロベルト・バスケス(ベース)
ホルヘ・レリエブレ・ソルザノ(フルート、エレクトロニックサックス)
フリオ・ノローニャ(ギロ)
エドゥアルド・シルヴェイラ(コンガ)

後援:駐日キューバ共和国大使館

<TOUR>
8.27 sun. 福岡 能古島キャンプ村
"ISLA DE SALSA 2023"
https://isladesalsa.com/#hero

8.31 thu. 東京 Zepp Shinjuku
https://vivela.jp/ja/tokyo.html

9.1 fri. 名古屋クラブクアトロ
https://vivela.jp/ja/nagoya.html

9.2 sat. 大阪 246ライブハウスGABU
https://vivela.jp/ja/osaka.html




板垣真理子(いたがき・まりこ)
写真家、分筆家。アフリカ、ブラジル、キューバなどをめぐって写真と文章でルポを続ける。キューバには25年前から通う。(内、3年半在住) 音楽、踊りをこよなく愛しアーティストとの交流も多い。最新刊「キューバ ハバナ下町歩きとコロナ禍の日々」。
https://afrimariafrimari.wixsite.com/mariko-itagaki-photo

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