【COTTON CLUB】来日直前!ドイツ出身のトップ・ドラマー:ウォルフガング・ハフナー、スペシャル・インタビュー!
ウォルフガング・ハフナーによる2つのプロジェクト!
新星ヴォーカリスト:アルマ・ナイドゥのお披露目とハフナー自身のマジック・バンドによるステージ
interview & text =Eisuke Sato
Special Thanks to intoxicate
ドイツ人ドラマーのウォルフガング・ハフナーが10月10日と11日に、プログラム違いの公演を丸の内・コットンクラブで行う。その公演紹介をする前に、まずはこの多彩な才を誇るドラマーのことに触れておこう。
1965年ニュルンベルグ近郊に生まれたハフナーは音楽好きの家庭のもと、すぐに楽器を手にできる環境で育った。最初の楽器はピアノ。だが、6歳のとき父親がドラムを買ってくれたことで、その後ハフナーはドラム一直線。最初はロック小僧だったが、父親がジャズのレコードを買って聴かせてくれたことで、彼はジャズにも興味を持つようになる。そんなハフナーは若くして注目の存在であったのだろう、18歳でドイツを代表するフリー・ジャズのトロンボーン奏者であるアルバート・マンゲルスドルフのグループに加入し、忙しい日々を送るようになった。
「音大には行っていない。僕の学校は"オン・ザ・ロード"、つまりツアーに出ることだった。1ヶ月に、25公演するのがざら。ラッキーだったしすごく感謝しているのは、様々な人から声をかけてもらったことだ。それはジャズに限らずポップスだったり、ファンクだったり、ロックだったり、ニュー・エイジだったり。そうしたいろんな現場を経験してきたからこそ、今ある自分の音楽が確立されたと感じている」
そんな彼をして、一番好きなドラマーはスティーヴ・ガッドであるという。
「一にも二にも、スティーヴ・ガッドしかいない。マイケル・フランクスのアルバムとかで一緒にレコーディングしたこともあり、その後も何度か会う機会を得たんだけど、彼が僕に教えてくれたのは、自分が何を言いたいかではない。曲が何を必要とするかを伝えてくれるから、それをしっかり聞きなさい、ということだった。そして、そのことを僕はいつも心に留めている。スティーヴ・ガッドが好きなのは、シンプルなところと、彼だけにしか出せない音色/ヴァリエーションがあるということだ」
彼は欧州だけなく、一時はアメリカの音楽界にも食い込み、とくに1995年から10年間ぐらいはドイツとアメリカを頻繁に行き来していたという。ハフナーはランディ・ブレッカー、ミッチェル・フォアマン、チャック・ローブ、ウィル・リーらとの双頭アルバムを出していたりもする。そんな彼はこれまで20作ほどのリーダー作を発表。ここ15年は同国のアクトから作品を出しているが、同社については「すごくやりやすい。アクトはこうしろとかああしろということは何も言わずに、自分の好きなようにやっていいよと100%サポートしてくれる」。もちろん、彼の2023年新作『Silent World』もアクト発だ。
「僕の人生と、今の状況がこのアルバムを作ってくれたと思っている。18歳からずっとツアーをしてきて、本当に僕は忙しく駆け抜けてきた。でも、コロナ禍になり、周りが静かになってしまった。そんな現実の"サイレント・ワールド"と自分の心の内の"サイレント・ワールド"の両方をかけて、このアルバム表題にした。パンデミックが始まってツアーがキャンセルとなり時間ができたとき、皆さんと同じように料理をたくさんしたりとかしたんだけど、その期間が過ぎてなんか作ってみようかとスタジオに入り最初に思い浮かんだメロディとビートが、アルバム冒頭の<Here and Now>という曲だった。そして、この曲を作っているときにこれはアルマに歌ってもらおうとか、ビル・エヴァンス(サックス)に吹いてもらおうとか、すぐに浮かんできた」
そうした成り立ちを伝えるように、現代的なジャズのパッションや技量の上に人間的な慈しみの情が溢れているところが同作のポイントだ。その様、情景的とも言えようか。そして、その『Silent World』の世界を披露する公演が10月11日(水)のウォルフガング・ハフナー・マジック・バンド名義のショウだ。そこにはピアノとキーボードのジモン・オスレンダー(彼もリーダー作もいろいろ出している)とベースのトーマス・スティーガーという『Silent World』に参加していたドイツ人奏者が入り、また同作4曲で魅惑的な歌唱を提供していたアルマ・ナイドゥも加わる。
日にちは前後するが、10日(火)のショウはそのアルマ・ナイドゥをフィーチャーする出し物となる。ミュンヘンを拠点とする新進シンガーである彼女は、指揮者の父とオペラ歌手の母を得てミュンヘンやロンドンの大学で音楽を学んでいる。と、書くとアカデミックな感じがしてしまうが、彼女の美点は"綺麗な放物線を描く"と形容したくなる、しなやかな歌と佇まいにある。どこかエキゾティックな部分を持つのも、接する者を誘いを与えるだろう。
彼女は2022年に『Alma』というデビュー・アルバムをリリースしているが、実はそれをプロデュースしたのがハフナーだ。彼はそこで音数を厳選しながらゆったりと漂うようなサウンドを作り上げ、確かなプロデュースの手腕を見せる。10日の公演は新しいドイツの歌姫の存在を伝えるとともに、ハフナーはブラシなども用い静的な奏法の魔法も見せてくれるはずだ。
「アルマはとても若いのにスタイルが確立されていて、作曲の才能も持つ。そして、何より純粋なすごく温かい声が特徴的だ。彼女はクラシック出身なので技術的にも長けているし、表現力もとてもある。これから、どんどん世界で求められていくと思うな」
蛇足だが、ハフナーは本当に心あたたかな好漢である。この2日間の公演からはそうした事実も伝わり。受け手をほっこりとさせてくれるのではないだろうか。
「これまで、日本には10回来ている。一度を除いては、ライヴで来ているよ(直近だと、2019年6月にトリオでコットン・クラブに出演している)。日本は本当に大好きな国なんだ。子供の頃、チープ・トリックの『ライヴ・アット・武道館』が大好きだった。他にも、武道館で録られたライヴ・アルバムはあるよね。それで僕は武道館に憧れ、そこに行くのがかつての夢だった。日本の観衆は世界のなかで一番真剣に音楽を聞いてくれるので、本当に感服しているよ」
LIVE INFORMATION
2023 10.10 tue.
WOLFGANG HAFFNER introducing ALMA NAIDU
ALMA NAIDU with WOLFGANG HAFFNER TRIO
https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/alma-naidu/
<MEMBER>
Alma Naidu (vo)
Wolfgang Haffner (ds)
Simon Oslender (p,key)
Thomas Stieger (b)
2023 10.11 wed.
WOLFGANG HAFFNER MAGIC BAND
- Silent World Tour -
https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/wolfgang-haffner/
<MEMBER>
Wolfgang Haffner (ds)
Simon Oslender (p,key)
Alma Naidu (vo)
Thomas Stieger (b)
佐藤英輔(さとう・えいすけ)- 音楽評論家。来日ミュージシャンのライヴがほぼほぼ途絶えていることもあってか、ここのところは映画を見ることが多くなっている。長年書いてきたブログの提供元が3月で終わるというので、おおあわて......。