【スペシャル・インタビュー】AVISHAI COHEN
新日本フィルとの共演は僕の人生を
意義深く紡ぐ手段であり、まさに夢の世界だ
現ジャズ界きってのベーシストであるアヴィシャイ・コーエンの、秋の来日ホール公演は新日本フィルハーモニー交響楽団の共演となる。この特別制のコンサートに彼はどんな意図を込めるのか。これまでの活動と合わせて、2024年4月ブルーノート東京に出演した際に彼の本意を聞いてみた。
Interview & Text = Eisuke Sato
――アヴィシャイさんはトップ級にブルーノート東京に近しいアーティストだと、ぼくは感じています。物理的な出演回数も多いですが、あなたはいつも自然発生的に観客からスタンディング・オヴェイションを得てしまう最たるアーティスト。とくに、終盤での観客との一体感は本当に素晴らしいです。
「ありがとう。お客さんに心から楽しんでもらうのが目標だし、それこそが僕の使命だと思っている」
――今回のトリオ公演は、2023年2月と同じ顔ぶれです。今、ピアノのガイ・モスコヴィッチとドラムのロニ・カスピを起用している理由を教えてください。
「彼らは僕の曲にストーリー、そして得難い経験を与えてくれるんだ。演奏してすぐに一緒に溶け合うような域に達することができるのが、まさにガイとロニ。彼らには知識や勇気があり、世代ならではの若々しさもあり、そして潜在能力が非常に高い。そんな2人の技量を、僕は確信をもって賞賛できる。素晴らしいエネルギーと恐れを知らない若い魂、それらが僕の持つ資質と一つになったときにより大きな形に変化し、それは正の音楽して結実するんだ。そういう意味では、彼らに会えて僕は本当にラッキーだと思っている」
――このトリオで、次作のレコーディングをしているとお聞きしましたが。
「はい。このトリオが核となって、他のミュージシャンも何人か加わっている。独特なメロディの曲も演奏していて、どれもエキサイティングで、かなり質の高い仕上がりになった。彼らと一緒にやると本当に天井知らず、どんどん上に上がっていくことができる。そういう結果を、新作では聞いてもらえると思う」
――アルバム・タイトルは決まったのですか。
「『ブライトライト』、だね」
――なるほど、とても楽しみです。2022年には『シフティング・サンズ』というトリオによるアルバムを出しており、ロニ・カスピとガイはそこにも参加しています。今振り返ると、『シフティング・サンズ』はどういうアルバムだと思っていますか。
「『シフティング・サンズ』にはやっぱり成長を一番感じる。ここ数年、ロニも私も経験豊かになっているし、それが出ていると思う。曲作りを計算ずくでするのではなくて、それまでの経験が僕のなかから湧き上がってきたものを皆さんに自然体で届けたいと思っており、それができたと思う。次作もロニとガイという2人とやったからこそのエネルギーがあり、音楽とはこんなにも高揚感があるものなんだということを示せるはずだ。2人には私の譜面をただ読み上げるのではなくて、それを解釈して音を発してほしかった」
――NYサルサ界の辣腕コンガ奏者/シンガーであるアブラハム・ロドリゲスJrとの2023年双頭作『Iroko』は興味深くも、味わい深い仕上がりでした。また、昨年は小曽根真とデュオ公演もブルーノート東京でしたりもし、あなたの活動は枠を定めずに魅力的に広がっていると思わずにはいられません。
「ああ、一つの所に留まることは決してしたくないと思っている。音楽こそは人生を豊かなものにし、崇高さを与えてくれるもの。それゆえ光を放ち続け、人々に新たな人生の輝きもたらすような創作をぼくはしていきたい。それも、"楽しい行き方"でしていきたいと思っている。そして、それを導き出してくれるのが様々な他者の存在であり、彼らと共演することなんだ。たとえば、ロニとガイは僕を違う世界に誘ってくれる。それをもたらす2人は天才と思えるほどに素晴らしい。アブラハム・ロドリゲスJrは路上に根ざしてこそのミュージシャンだけど、僕はマンハッタンの通りを超えて出ていく価値のある音楽家だと思ってきた。だから、彼を多くの人に知ってもらうということが僕の役割だし、もしそれができたならこんな光栄なことない」
――この秋にはそのロニとガイも伴い、新日本フィルハーモニー交響楽団とのコンサートをやることになっています。
「新日本フィルハーモニー交響楽団との共演というのは僕の新たな世界を示すものであり、もう一つの世界を具現できるまたとない機会。ベースを弾くこと、歌うこと、作曲することは、僕にとって不可欠なもの。そして、オーケストラと共演する壮大な表現というのも、僕の人生を意義深く紡ぐ手段であり、まさに夢の世界だと言える」
――あなたは<アン・イヴニング・ウィズ・アヴィシャイ・コーエン>と題した"自己トリオ・ウィズ・オーケストラ"によるライヴ・プロジェクトをやってきましたし、日本では2018年8月に<アヴィシャイ・コーエン・トリオ with 17 ストリングス>と題したホール公演も成功させています。秋のコンサートでは、そうした蓄積が活かされたものになるのではないかと思います。
「その通り。この秋の公演も、そうした経験が全部入ったものになる。僕がじっくり積み上げてきたものが、新たに実を結ぶんじゃないかな。僕はクラシック音楽をよく聞いてきたし、勉強もしてきた。ベートーヴェン、モーツァルト、バッハ、ブラームス......。僕はそうした作曲家から大きな影響を受けており、それらを愛好するなかで培ったものがオーケストラとの公演で花開くと思っている」
――その際の新日本フィルハーモニー交響楽団のスコアは、アヴィシャイさんが書くのでしょうか。
「オーケストレーションをやる編曲者に僕が指示を与えて完成させる。僕にとってもこれは非常にやりがいのあることであり、本当に楽しみ。もちろん、これを成功させるのは生半可なことではなく、恐れがないわけではない。でも、居心地のいいことだけをやっていても駄目で、チャレンジをやめたくない」
――こうして話を聞いていても、アヴィシャイさんは音楽の力、そして自分の音楽人生をものすごく信じていると思ってしまいます。また、その結果として、音楽の魔法を生み出すことを謳歌しているとも感じます。
「うん、信じている。人々はそれぞれに容易じゃない人生を生きている。大丈夫だろうかと危惧することも次々あると思う。そうしたなか、やれることを一つ一つしていくしかないと思っているし、それを続けられることがハッピーなんじゃないか。音楽こそは、日々の僕を救ってくれている。そして、僕を助けてくれる音楽によって他の人々も助けたいとも思ってしまう。僕の表現を皆さんとも分かち合うと、そこからポジティヴな反応がまた僕に返ってくる。そういう実のある循環が起きているんだ」
LIVE INFORMATION
An evening with Avishai Cohen "Two Roses"
Avishai Cohen meets New Japan Philharmonic
2024 10.5 sat. すみだトリフォニーホール 大ホール
https://www.triphony.com/concert/detail/2024-03-007246.html
<MEMBER>
アヴィシャイ・コーエン(ベース、ヴォーカル)
ロニ・カスピ(ドラムス)
ガイ・モスコヴィッチ(ピアノ)
中田延亮(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
AVISHAI COHEN TRIO
"BRIGHTLIGHT"
2024 10.6 sun. ブルーノート東京
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/avishai-cohen/
2024 10.7 mon. 山形テルサ
https://yamagataterrsa.or.jp/concerts/avishai-cohen-trio/
<MEMBER>
アヴィシャイ・コーエン(ベース、ヴォーカル)
ガイ・モスコヴィッチ(ピアノ)
ロニ・カスピ(ドラムス)
佐藤 英輔(さとう えいすけ)- 1986年から、音楽の文章を書く仕事に。ライヴ好きで、ブログは、https://eisukesato.exblog.jp。9月20日にリーットーミュージックから、「越境するギタリストと現代ジャズ進化論」という単行本を刊行します。400ページを超えちゃいました。