【JAM vol.232】Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024
気鋭から重鎮まで、贅沢すぎる顔ぶれが集った2デイズ。
音楽ファン垂涎のフェスが待望の復活!
国内屈指のフェスティヴァル「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」が、8年の歳月を経て復活。9月21日と22日、東京・有明アリーナを舞台に合計10種のプロジェクトが個性を競った。
9月21日のオープニングは、堂本剛によるクリエイティブプロジェクト.ENDRECHERI.(エンドリケリー)。ジョージ・クリントンを総帥とするファンク・スタイル"Pファンク"に感銘を受けてスタートし、作品のリリースはもちろん、音楽番組やフェスの主催などでも精力的な活動を繰り広げてきた。この日はリリカルな英語曲「LOVE VS. LOVE」から始まり、徐々にヒートアップしていく形のステージで魅了。昨年の野外フェスで共演したジョージ・クリントンとの共作「雑味 feat. George Clinton」の初披露も会場を沸かせた。"雑味"という言葉は"That's me"とのダブルミーニングとなっていて、歌詞には"ありのままの自分"でいこうというメッセージがこめられている。さらに後半部分では.ENDRECHERI.のライヴの名物であるフリー・セッションを展開。各メンバーの即興演奏やスキャットに応じて、曲想がどんどん変わっていくところもスリルにあふれていた。
続いては、音楽の街ニューオーリンズを拠点とするタンク・アンド・ザ・バンガスが登場した。フロントパーソンの"タンク"ことタリオナ "タンク" ボールは、ノラ・ジョーンズも大ファンを公言する要注目の存在。ヴォーカル、ポエトリー・リーディング、ラップ調などなど、"声を用いる表現の超スペシャリスト"という印象を個人的には受けている。加えてベスト・ドレッサーであり、ダンスも巧みだ。ミクスチャーの快感を伝える音作りの中から、タンクのしなやかで豊かな歌声が飛び出していくさまは、まさに快感。途中、ボトムの強く利いたリズムに乗って飛び出したのは、「Remember」という楽曲。アーヴィング・バーリンが1925年(つまり約100年前)に作詞・作曲し、モダン・ジャズの人気サックス奏者、ハンク・モブレーがアルバム『Soul Station』A面のオープニングに名演を刻んだ。こうした曲を見事に現代に蘇らせたり、2022年の楽曲「Black Folk」とファラオ・サンダースの「Love Is Everywhere」をマッシュアップしたりと、バンドが持つ"音楽の名料理人"ぶりも存分に味わわせてくれた。
黄金のコンビネーションが、「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」に戻ってきた。MISIA & 黒田卓也 BANDのステージだ。幅広い声域を駆使して歌詞のひとことひとことをしっかり歌いこむMISIAと、黒田卓也のトランペットをはじめとするミュージシャンたちの輝かしいソロ・プレイ、3本の管楽器が織りなす彩り豊かなホーン・アンサンブルに唸らされるばかり。「来るぞスリリング」、「真夜中のHIDE-AND-SEEK」、「Everything」など"この曲をこのメンバー、このアレンジで聴きたかった!"的チューンに、マイケル・ジャクソンのカバー「Thriller」も加えた圧巻のパフォーマンス。"歌と伴奏"的な段差を感じさせない、計7人の音楽家が一体となって創り出すグルーヴの快感に酔わされた。
セットチェンジの間に、驚くほど多くの楽器やマイクがバンドスタンドに並ぶ。パーラメント・ファンカデリック FEAT.ジョージ・クリントンのパフォーマンスだ。私は彼らの演じるファンクの根っ子にドゥーワップ等のヴォーカル・グループ・ミュージックの要素をみる。そこがジェームス・ブラウンのファンクとの際立つ違いのひとつだと思っているのだが、この日もヴォーカル+ラップ担当者が7人もいるだけあって声のパートがとにかく分厚い。御大クリントンも歌、掛け声、オーディエンスへの煽りなどで忙しく動き、ギターのマイケル・ハンプトン、トロンボーンのグレッグ・ボイヤーなど70年代から在籍する面々も生き生きしたプレイを聴かせた。Pファンク健在なりを強く印象付けたセット、といっていいだろう。
ヘッドライナーを務めたのは、"キング・オブ・MC"ことナズ。エミネムのバックDJを務めたこともあるグリーン・ランターン、ドラマーの"ヘイズ・アメイズ"ことハズモン・エイブラハムIIとの白熱のステージだ。リリース30周年を迎えた名盤『Illmatic』からの「NY State Of Mind」や「The World Is Yours」、近作『King's Disease II』からの「40 Side」などを、まるでひとつの組曲であるかのように滑らかに、雄大な響きをもって届けた。またラストでは、9月10日に亡くなったファンク・バンド"ザ・メイズ"の創設者フランキー・ビヴァリー(晩年のマイルス・デイヴィスも「メイズ」という曲を捧げた)への追悼コメントも。これに心をなおさら熱くして帰路についたブラック・ミュージック・ファンは私だけではないはずだ。
二日目のオープニングは、オランダが誇る"ファンキー・サックスの女王"キャンディ・ダルファーが飾った。ジャパン・ツアー最中の登場ということもあるのか、バンドのまとまりはまさに鉄壁。ふたりのヴォーカリスト、ふたりのホーン・セクションを従えて、キャンディは広いバンドスタンドをフルに使いながらサックスを吹き、歌い、オーディエンスに呼びかける。重鎮ウルコ・ベッドのギターもフィーチャーされた「Lily Was Here」、大定番の「Pick Up The Pieces」など、場内の熱気は高まる一方だった。
続いては、エレクトリック・ベース&シンセ・ベースの達人であるマイケル・リーグ率いるスナーキー・パピーが、2015年の初回出演以来「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」に帰還。キーボードのボビー・スパークスとビル・ローレンス、ヴァイオリンのザック・ブロック、パーカッションのネイト・ワースなど鬼才ぞろいの顔ぶれで、「Bet」や「Take It!」など目下の最新力作『Empire Central』収録のナンバーから、初期の人気曲である「Shofukan」や「Lingus」まで、有無を言わせぬプレイで圧倒した。ミュート・トランペットやフルートの繊細な吹奏から、ドラムのパワフルな打撃まで、尋常ではないダイナミクス(メリハリ)を持つサウンドを、実にクリアに会場に響かせていたPAスタッフにも敬意を表したい。
2023年度のグラミー賞「特別功労賞生涯業績賞」に輝く"ダンス・ミュージックの帝王"ナイル・ロジャースは、音楽的なマザーシップであるシックを率いて登場。「Le Freak」などシックの定番に加え、「Like A Virgin」(マドンナ)、「Let's Dance」(デヴィッド・ボウイ)、「I'm Coming Out」(ダイアナ・ロス)、「Get Lucky」(ダフト・パンク)など、彼が携わった、まさに一世を風靡した楽曲を、目の前で次々とプレイした。しかも「Good Times」にはマーカス・ミラーが飛び入りし、熱の入ったスラップ奏法で、ナイルのギター・カッティングと猛烈な応酬を繰り広げた。
次に登場したのは、そのマーカス・ミラー率いるユニット。サックスとトランペットのメロディアスなテーマ・メロディ吹奏を生かしたステージは、どこか現代版ファンキー・ジャズといった印象も与える。ジャコ・パストリアスに捧げた「Mr. Pastorius」では各人のアドリブがたっぷりフィーチャーされ、後半では5月に他界した盟友のサックス奏者デヴィッド・サンボーンに捧げて「Maputo」、「Run For Cover」をプレイ。閃光のようなスラップ奏法から地を這うような重低音のラインまで、エレクトリック・ベースの魅力を満喫させてくれた。
「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」の大トリは、全世界で1億2200万枚のセールスを誇るシカゴが飾った。スクリーンに映し出されたおなじみのロゴ・マークや"57 years"という文字に早くも会場から歓声が起こり、スタンディング・オヴェイション状態に。起伏に富む歴史を持つ同グループだが、前身バンド"ビッグ・シング"の頃から在籍するオリジナル・メンバーのロバート・ラム、リー・ロックネイン、ジェイムズ・パンコウが健在なのは本当に嬉しい。2018年からリード・ヴォーカルを務めるニール・ドネルの高音は冴えわたり、しかもドラムスは元サンタナのウォリー・レイエスJr.なのだから、管楽器、リズム、キーボード、ヴォーカル、どれをとっても聴きごたえ満点。加えて演奏曲目は、「Saturday In The Park」、「25 Or 6 To 4」(長い夜)、「Hard To Say I'm Sorry」(素直になれなくて)など、彼らのベスト・オブ・ベストというべきものだった。鳴りやまない拍手に応え、「また必ず戻ってくるよ!」と呼びかけたジェイムズ・パンコウの満面の笑顔も忘れ難い。グルーヴ・マスターたちが世代・性別・国籍を超えて東京に集った2日間。次回の「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」が早くも楽しみになってくる。
LIVE INFORMATION
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024
2024 9.21 sat., 9.22 sun.
https://bluenotejazzfestival.jp/