【スペシャル・インタビュー】ルイス・バジェ&綾戸智恵 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【スペシャル・インタビュー】ルイス・バジェ&綾戸智恵

【スペシャル・インタビュー】ルイス・バジェ&綾戸智恵

Photo:森岡一郎

"音楽の越境者"綾戸智恵とルイス・バジェによる
キューバン・ジャズの新たな躍動

 キューバ出身の凄腕トランぺッター、ルイス・バジェを中心にしたバンド"ルイス・バジェ&アフロキューバミーゴス!"。そして、「テネシーワルツ」「アメイジンググレイス」などの名演で知られるジャズピアニスト/シンガーの綾戸智恵による公演「LUIS VALLE & AFRO-QBAMIGOS! featuring CHIE AYADO」が1月21日(火)にブルーノート東京で開催される。異なるバックグランドとルーツを持つ二人が生み出す、ジャンルを超越したコラボレーションを堪能できる一夜になりそうだ。

Interview & Text = Tomoyuki Mori

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 ルイス・バジェと綾戸智恵は2024年の秋、アルバム『Afro Cafe』(ルイス・バジェ&アフロキューバミーゴス! feat.綾戸智恵)を発表した。「Moliendo Cafe」「Besame Mucho」といったラテンの名曲、「My Way」「Summertime」などのスタンダードナンバーなどが収められた本作。本場のラテンジャズを軸にしたアレンジメント、名うてのミュージシャンたちによる質の高い演奏、そして、さらに深みを増した綾戸のボーカルが響き合う、珠玉のラテン・ジャズ・アルバムと言えるだろう。

 2017年からレコーディングやライブを通して音楽的な交流を行ってきたルイスと綾戸。お互いの印象について二人は、こんなふうに語る。

「綾戸さんはテクニカルな演奏よりも、そのときのフィーリングを大事にしている印象があって。セッションにも決まり事はなく、"自由にやっていいよ"と新しいドアを開けてくれる感覚があるんです」(ルイス・バジェ)

「ルイスは一緒に音楽をやっててラクなんですよ。すごくオープンで、"それ以上入ってきてもらったら困る"みたいなことがぜんぜんなくて。そのときの感覚で演奏して"こんなのが出た"という感じも私に似てるかなと(笑)。トランぺッターとしても一人前やけど、私はただ楽器が上手い人より、"ええ人間"としたい。若いときは多少人格に目をつぶることもあったけど、この年になったら"この人に会えてよかったな"という人と演奏したいと思うようになりましたね。ルイスはそういう人の一人。私が歌ったものを一生懸命受け止めてくれはるから、こっちも"応えなあかんな"と思うわね」(綾戸智恵)

 ライブに近い"一発録り"のスタイルでレコーディングが行われた『Afro Cafe』。ラテンジャズ、サルサ、チャチャチャといった南米由来の音楽を取り入れながら、ミュージシャンの個性を活かした、躍動感にあふれるサウンドが体現されている。キャリアを通し、ほぼ全ての楽曲を英語で歌ってきた綾戸が日本語で歌唱する「Moliendo Cafe」も本作の聴きどころだ。

「(日本語の歌唱は)苦労した! 最初は英語で歌ってみたんやけど、どうもピタッとこなくて。スペイン語は難しいし、選択肢は日本語しかなくて。西田佐知子さんの歌で耳馴染みがあっていいかなと思ったんやけど、歌い出し("昔アラブの偉いお坊さんが")の"む"を"MU"と発音するのが大変で。やっぱり英語のほうがラクやわ(笑)」(綾戸)

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 ファンキー・ジャズ、ハード・バップのシーンで活躍したホレス・シルヴァーの楽曲「Song for My Father」も素晴らしい。カーボベルデ人の父親に捧げたこの曲はホレスの代表作であり、ジャズスタンダードとして広く知られている。

「『Song for My Father』は綾戸さんからのリクエストですね。僕も曲は知っていましたが、ライブで演奏したことはなくて。前半はラテンの"チャチャチャ"のリズムやジャズのコード進行、後半はアフロのリズムでのアレンジになってます」(ルイス)

「"歌もん"のジャズはあまり聴いてこなかったんやけど、この曲は前から好きで。ホレスの音楽は、陸地の境目を感じるんですよ。一歩踏み入れたら違う国という感じだったり、アメリカど真ん中ではなくて、アフリカとかラテンとかいろんな音楽の影響があって。デューク・エリントンもそうやけど、そういう作曲家が好きなんですよね」(綾戸)

 遠慮や妥協はまったくなく、お互いが持てるものをぶつけ合うことで、奔放にして豊かな音楽へと結びつけた本作。「"こういうアレンジは自分ではやらんな"という曲もあって、それが楽しかった」と語る綾戸にとっても大きな経験になったようだ。

「ルイスのバンドは本場のラテンだし、スペイン語でコーラスが聴こえてくると、ただで南米を旅してるような気持ちになって(笑)。そういう芸術のなかの経験はやっぱり面白いし、自分の枠を超えるよね」(綾戸)

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Photo:森岡一郎

 そう、キーワードは"自分の枠を超える"。幼少期からジャズやハリウッド映画の音楽を聴きながら育ち、17才のときに単身渡米。40代になってからジャズピアニスト/シンガーとしてブレイクを果たした綾戸智恵。そして、キューバ屈指の名門校・国立アマデオロルダン音楽学校のトランペット科を卒業し93年兄弟4人で『ユムリ・イ・スス・エルマーノス』を結成し、プロデビューを果たした後、さらに音楽の幅を広げるために日本に渡ったルイス・バジェ。音楽人生を通し、常に自分の枠を超え続けきた2人の邂逅は、まさに必然だったと言えるだろう。両者が生み出すケミストリーはもちろん、ブルーノート東京の公演でも存分に発揮されるはずだ。

「綾戸さんのファンの方、ラテン音楽のファンの方、"ルイスの髪型、面白いな"と思った方など(笑)、いろんな人に来てもらいたいなと。キューバミーゴス!の世界、綾戸さんの世界が混ざり合うところを味わってほしいし、最後は皆さん『踊るしかない!』という感じになるはず。体でリズムを取ったり、手拍子したり、自由に楽しんでほしいですね」(ルイス)

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Photo:森岡一郎

LIVE INFORMATION

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ルイス・バジェ&アフロキューバミーゴス!
featuring 綾戸智恵

2025 1.21 tue.
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/luis-valle/

<MEMBER>
綾戸智恵(ヴォーカル)
ルイス・バジェ(トランペット、フリューゲルホーン、ヴォーカル)
アンディ・ウルフ(サックス、コーラス)
奥山勝(ピアノ)
小泉哲夫(ベース)
藤井摂(ドラムス)
今福健司(パーカッション)
鈴木千恵(ヴィブラフォン、マリンバ)


森 朋之(もり・ともゆき)
音楽ライター。 1990年代の終わりからライターとして活動を始め、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。主な寄稿先に、『音楽ナタリー』『リアルサウンド』『アエラドット』『ビルボードジャパン』など。

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