【来日直前インタビュー】HOLLY COLE | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【来日直前インタビュー】HOLLY COLE

【来日直前インタビュー】HOLLY COLE

Interview & Text = Yo Nakagawa
Live Photo = Yuka Yamaji

"昼間にはまったく見えなかった月がもたらす美しさ。
私は、この謎に魅せられました"
ホリー・コールの新作『ダーク・ムーン』に込めた想い

 世界的な人気ジャズ・シンガー、ホリー・コールが約7年ぶりにブルーノート東京 / 日本に帰ってきます。しかも、デビュー時から一緒にバンドを組んできたアーロン・デイヴィス(p)らと共にライヴ・レコーディングした新作、『ダーク・ムーン』(2025年1月ユニバーサルよりリリース)をお土産に、その世界をブルーノート東京で再構築するというのです。
カナダに生まれ、現代の女性の声を代弁するホリーの歌の数々。「コーリング・ユー」のヒットなどにより、日本は彼女にとって第二の故郷と言っても過言ではありません。そのホリーに、来日直前の心境を伺いました。

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――久しぶりの日本になりますね。

「間が空いてしまいましたが、気持ち的に日本から離れたことはありません。私にとって日本は、デビューの頃から応援してくださる方々が大勢いる、温かい場所なのです。そしてブルーノート東京!お客様の耳が世界一なんじゃないでしょうか。いい耳をもつお客様に満足していただけるよう、今もステージのアイデアを練っているところです」

――貴女の日本でのデビューは、1992年のアルバム「コーリング・ユー」の大ヒットをもたらしました。

「映画『バグダット・カフェ』で使われたのが<コーリング・ユー>のオリジナルですが、日本では私の歌をオリジナルだと思ってくださる方が多いという現象を引き起こすほどのヒットになりました」

――デビュー直前、ホリーさんは交通事故にあい、医師は「残念ながら貴女が再び歌うことはないでしょう」と言ったといいます。何が、ドクターの言葉をくつがえしたのでしょうか。

「それは、ドクターの宣言を信じず、自分の力を信じたからです。アゴも怪我していましたから、自分で厳しい自主トレを組んで、歌えるまでに回復しました。キャリアの初期に負った怪我でしたし、心身ともに深刻でしたが、今はもう痛みを感じることはありません。今も、事故直後の一時期について、よく思い出すんですよ。再び歌えるようになったことに、とても安堵しました。そして事故以前よりも、むしろ強くなったと思いますね。今も、こうして皆さまに歌を届けられることに、心から感謝しています」

――貴女が特に日本の女性ファンに愛されたのは、スタンダード・ナンバーの意味をツイストして、ちょっとひねって"現代の歌"にして届けたからでした。最新作は、貴女の13作目に当たりますが、『ダーク・ムーン』とは、またホリーさんに相応しいタイトルです。

「ありがとうございます。私は昔から夜を愛していて、幼い頃から夜型でした。子供の頃、ハリファックスという土地で育っていたころのことで、最も古い記憶の一つなのですが、私はひどい咳に悩まされるクループ症によくかかりました。咳で夜中に目が覚めたときのことです。私は熱もあり、喉の痛みとひどい咳に苦しんでいました。母が成人用のアスピリンを砕いて、缶詰の桃に混ぜてくれ、それを食べた後、父が私を暖かく毛布で包んで、おんぶして、真夜中、近所を歩いてくれました。私が目にした風景は決して忘れられないものでした。見慣れていたはずのご近所が、魅惑的で神秘的な、人気のない場所に変わっており、魅力的な月の光だけが辺りを照らしていました。昼間にはまったく見えなかった月がもたらす美しさ。私は、この謎に魅せられました。
周りには人がまったくいなかったので、聞こえるのは父の足音だけでした。そして、ノバスコシア州の涼しく湿った海の空気が喉を和らげ、咳を癒してくれるのを感じながら、私は父の背中から近所を見ていましたが、月明かりの中ではすべてが魔法のように思えました。そして家に帰る頃には、私は信じられないほどの秘密を知ってしまったと思ったのです。
それ以来、私は月に惹かれ続け、創作プロセスのインスピレーションになっています。これが『ダーク・ムーン』の背景にある物語です」

――ホリーさんは、今もノバスコシアに住んでいると聞きましたが、自然の中で生活することが好きなのですか。

「はい、自然、カナダの大自然が大好きなんです。正確に言えば、今は年の半分をトロント市で暮らし、残りの半分をノバスコシアで過ごしています。トロントは文化的に活気のある街ですし、長い間住んでいたので、友達や家族が大勢市内にいます。今回ライヴ・レコーディングした会場もトロント市内にあり、レコーディングを完成したのもトロントです。
そして故郷ノバスコシアに行くと、都会とは異なる体験が待っているんです。私は自分のルーツに帰り、自然の中で歌い、歩きます。ノバスコシアの中でも、私は開けた海、大西洋のすぐ近くに住んでいるので、周りにはほとんど人がいないんですよ。私は海の香りがとても好きで、特に波の音が大好きなのです」

HOLLY COLEの画像

――ジャズ・シンガーとして、日常生活で気をつけていることはありますか。

「最近、鳥の鳴き声にとっても惹かれているんです。ノバスコシアではもちろん、トロントでも朝外に出て、鳥の鳴き声を識別できるか、空を見上げ、耳を澄ましています。鳥の声はほんとうにヴァラエティに富んでいて、美しいですね。東京でもこのバード・ウォッチングをとても楽しみにしています」

――日常の食事で気をつけていることはありますか。

「はい、私は長年、ケトジェニックダイエットを続けています。ケトジェニックダイエットは、ある種、糖質制限に似ていますが、糖質を減らすだけではなくて、タンパク質・脂質・炭水化物のバランスを意識した食生活を指すんです。
もともと新鮮な野菜が好きなもので、ケト・ライフスタイルにとても合っていたんでしょうね。健康に寄与してくれますし、体型を維持するのにも役立っています。それから、水をたくさん飲むようにしています。これは、私の声にとって、とても大事なことなんです」

――長年の歌唱経験を経て、どのような点が歌うことを容易にし、どのような挑戦が増えましたか。

「年々、オーディエンスとの関係がより良くなっていると感じています。これは、幸せなことですね。自分と観客の繋がりが常に温かく、より個人的なものになっている実感があるんです。
私は、いつもいらしているお客様を見て、それからショーを組み立てるようにしていますが、アルバムを作れば作るほど、それが難しくなってきました。ライヴでレパートリーは、レコーディングした曲から主に選んでいますが、その選択肢が増えるわけですからね。『ダーク・ムーン』は、私の13枚目のアルバムになります。どの曲を選ぶか、ちょっと複雑になってきました(笑)」

――ホリーさんのレパートリーは、いつも興味深いですね!スタンダード・ナンバーをちょっとひねって、貴女自身が伝えたいことを伝える。レパートリーをあまり変えない理由を、教えてくださいますか。ある曲に対して作ったアレンジを変えない方が、お客様も喜ぶからでしょうか。

「私たちは、数々の曲のアレンジをとても誇りに思っています。全体のサウンドの中でも大きな役割を果たしていますから。ただ、同じアレンジを使い続けるということはしていなくて、しばしば特定のサブテキストに合わせてアレンジを洗練させています。それが私たちのスタンダードの解釈を独自のものにし、成功させている要因だと思っています」

――例を挙げてお話ししたいのですが、例えば「ガールトーク」は、ホリーさんの初期のレパートリーですが、新作『ダーク・ムーン』では成熟を感じました。貴女の歌は、ホリーさんと共に成長しているというわけですね。

「はい、私の歌は私と共に成長しています。歌声も同様です。
今の曲選びやスタイルの選択は、今の特定の時期(ロシアとウクライナが戦争下にあり、中東問題も混迷を深めている今)、少し内省的になっていると思います」

――ホリーさんは、初期に、当時の雅子皇太子妃に「ケセラセラ」という曲を捧げていました。「さまざまな困難がおありだろうに、チャレンジしていらして、同じ女性として強く応援したい気持ちでいっぱいです」とおっしゃっていました。その「ケセラセラ」は「なるようになるわ」と歌って、「うまくいくわ」というニュアンスを伝えているのですが、その雅子さまも今は皇后陛下。今また、異なるニュアンスの「ケセラ」を捧げていただきたいと思いますね。

「雅子皇后陛下に<ケセラセラ>を捧げられたら、とても嬉しいですね。カナダからの印象でも、とても素晴らしい方だと思いますからね!」

――新作の中で、1曲、どんな意味づけを貴女が施したか、お話しくださいますか。

「ヨロコンデ! <ムーンリバー>は、『ダーク・ムーン』の中でもお気に入りの1曲です。これは愛の歌ですが、伝統的な意味での愛の歌としては歌っていません。私はこの曲を"女性が、好きな人に向けて歌っているのではなく、自分自身の冒険心や未来に向けて歌ったものと理解しました。その点に強く魅せられたんですね。曲と歌詞の中に、純粋さがあり、とても感動的なのです。良いヴァージョンが作れたと自負しています。ぜひ、聞きにいらして下さい」

――貴女の歌は「現代女性の気持ちを代弁している」と言われますが、"フェミニスト"なのでしょうか。

「以前は、自分のことをフェミニストだと言っていました。ですが、今はその言葉が何を意味するのか、分からなくなってきましたね。もし、フェミニストという言葉が(男性と女性が平等であり、そのように扱われるべきだ)と信じている人を指すのなら、私はフェミニストです。」

――最後に伺います。シンガーとしての目標をどのように描いていますか。

「私の目標は、素晴らしいミュージシャンと共に、意義ある作曲、作詞、編曲、レコーディングを続けることです。そして、もちろん、彼らと共にライヴで世界に届けたいと思っています。
今回もブルーノート東京に帰ることができる機会をいただき、とても嬉しいです。大勢の皆さまにお目にかかれることを、心から楽しみにしています!」

LIVE INFORMATION

HOLLY COLEのバナー画像

HOLLY COLE
2025 3.7 fri., 3.8 sat., 3.10 mon., 3.11 tue.
3.7 fri., 3.10 mon., 3.11 tue.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
3.8 sat.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm

https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/holly-cole/

<Member>
ホリー・コール(ヴォーカル)
アーロン・デイヴィス(ピアノ)
ジョージ・コラー(ベース)
ジョン・ジョンソン(サックス)

中川ヨウ(なかがわ・よう)
音楽評論家、ジャズ研究者@慶應義塾大学アートセンター。
'80年代から、ジャズを核にジャンル、国境を超える音楽の応援で高い評価を得てきた音楽評論家/ ジャズ研究者。21世紀の"グローカル"(グローバル+超ローカル)な音楽についての知見も深い。慶應義塾大学アートセンター、油井正一アーカイヴ【拡張するJazz公開研究会】で学生、一般の音楽愛好家とジャズ考察を続けている。洗足学園音楽大学名誉教授、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。
#JazzMovesOn

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