和田アキ子さん、公演直前インタビュー
私の持つすべてを歌にこめて披露します
デビュー46年。R&B、ソウルの女王、和田アキ子がブルーノート東京のステージに立つ。
レイ・チャールズ、サム・ムーアとも共演を重ねた彼女に
シンガーとしての強く熱い思いを聞いた。
7月17日、18日の2日間、"シンガー和田アキ子"がブルーノート東京のステージに登場する。
「この2日は私にとって間違いなく特別な夜になります。10代からリスペクトする偉大なアーティスト、レイ・チャールズと初めて会ったのが実はニューヨークのブルーノート。生涯忘れない出会いでした」
ブルーノートは和田の個人的"聖地"になった。
「レイと出会ったブルーノートで、いつか私も歌う」
思い続けてきた。
「だから、私のブルーノートのステージへの思いは、ほかのアーティストのかたがたよりもきっと強いはずです」
この5年間、実は密かに声に磨きをかけてきた。
「ヴォイストレーニングにそれまで以上に力を入れました。すると、いくつもの発見がありました。長く歌ってきた私の曲にも微妙なピッチのずれが見つかったり。それを1つ1つ修正していきました。何千回も歌ってきた『あの鐘を鳴らすのはあなた』も『古い日記』も『夢』も全部です」
気づかなかった歌の景色が見えてきた。
「音楽って不思議で、仕事やプライベートでの出会いや別れ、いろいろな体験の大切さが歌うことで身にしみるようになるんです。その気持ちがまた歌に反映される。20代の私よりも、今の私のほうが1曲1曲の歌詞を深く理解して、皆さんにお届けできるはずです」
リスナーとしての和田が魅力を感じるのも、心と身体のすべてを歌にこめるシンガーだという。
「心に響く歌は、技術や声質が優れているだけではありませんよね。バラードでも、アップテンポでも、自分の持つすべてで歌うシンガーが、私は好きです」
そんな和田が愛するシンガーとは―。
「ニーナ・シモン、サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルド、オーティス・レディング、エタ・ジェイムズ、ダイアナ・ロス、レオン・ラッセル、ベッド・ミドラー......。特にニーナ・シモンの『フィーリング・グッド』『アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー』、レイ・チャールズもカバーしたレオン・ラッセルのバラード『ソング・フォー・ユー』、映画『ローズ』でベッド・ミドラーが歌い上げた『男が女を愛する時』はずっと聴き続けています」
夢であったアポロ・シアターのライヴは芸能生活40周年を迎えた2008年のこと。ステージ袖では緊張のあまり震えがとまらなかったというエピソードもあり、ブラックミュージックへの思いは強い。ステージではゲストとして友人でもある伝説のソウル・マン、サム&デイヴのサム・ムーアも駆けつけた。
R&B、ソウル、ブルース、ジャズ、ロック......と多岐に渡って聴き、ブラック系が多い。
「音楽が欲しくなるのは、お酒が身体に入った時。選ぶ曲はその時の気持ちによって違うし、酒量でも違いますね。お酒が一定量を超えると、たまらなくレイ・チャールズが聴きたくなります」
リスナーとして聴いた曲にシンガーとしてインスパイアされることもあるのだろうか―。
「そういった意味では、先日、ティナ・ターナーのライヴDVDを観たんですよ。パワフルでした! もう70代でしょ? それでもあれほど迫力あるステージをやれるとは。私もまだまだ頑張らなくては! 刺激になりました。そう、ニューヨークのブロードウェイで観たミュージカル『キンキー・ブーツ』にも圧倒されました。実在する紳士靴ブランド『W. J. Brookes Ltd』をモチーフにした経営者の奮闘劇です。この舞台に登場する役者たちの歌のうまさといったら、半端なかった! アフロアメリカンは生まれつき身体に音楽がしみ込んでいると思った。それがうらやましくて、悔しくて。最高の体験でした」
そんな和田アキ子のシンガーとしての積み重ねが、7月のショーでいよいよ披露される。このインタビューは、その選曲をしているさなかに行われた。
「セットリストはアイク&ティナ・ターナーの『プラウド・メアリー』、ジョージ・ガーシュウイン作曲の『サマータイム』など洋楽の曲も多数考えています。私のオリジナル曲ももちろん! 皆さんを最高の気持ちにして帰します」
- 神舘和典(こうだて・かずのり)
- 1962年東京出身。『音楽ライターが、書けなかった話』『ジャズの鉄板50枚+α』(新潮新書)『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。『ゲーテ』(幻冬舎)では音楽記事を連載。