ブルーノート東京初登場、黒田卓也さんにインタビュー
8.22 JUJU JAZZ LIVE 2014公演にて
メンバーとしてブルーノート東京に登場
USブルーノートと契約した初の日本人アーティストが
心意気を音にする凱旋公演
今年2月にアルバム『ライジング・サン』でメジャー・デビューを果たしたトランペッターの黒田卓也。USのブルーノート・レーベルと契約した初めての日本人ミュージシャンということでも話題になった彼のことを、ホセ・ジェイムズのライブやアルバムを通して知ったという人は多いだろう。
2011年にホセのバンドに正式加入してツアーとレコーディングに参加(ホセの2013年作『ノー・ビギニング・ノー・エンド』ではホーン・アレンジも担当)。『ライジング・サン』も、ホセが黒田の才能と個性をもっと広く世に知らしめたいという思いで自らプロデュースを買ってでて制作されたアルバムだった。
「それまで僕はNYのローカルでライブ活動をしていて、自主制作でアルバムも3枚出していたんですけど、行けるツアーと言えば日本ぐらいで。ホセに誘ってもらって初めて世界のジャズフェスのステージに立つようになったんです。それによって考え方が大きく変わりましたね。視野が広がったし、発奮もしたし、落ち込みもした。例えばインドネシアのジャズフェスでは前から憧れていたロイ(・ハーグローヴ)のあとの出番だったんですよ。で、ステージの横でロイを観ながら"いまから同じステージで同じお客さんに向けて同じ楽器を演奏するんだな"って考えてたら、頭がおかしくなりそうになって(苦笑)。NYに帰る飛行機の中でずっと考えてました。どうしたら憧れてた人たちと同じレベルでやれるようになれるのか、どうやったらもっと自分らしくなれるのか、と」
だがそうした経験を重ねるなかで、あるひとつの確信が見えたという。
「いま僕がやってることというのは、時代の一番先っちょに立って音楽を作ることなんだなと。それがいずれ過去のものになるとしても、それをやるべきというか。そう強く感じることができた。やっぱり世界に自分で出て行かないと見えない景色というものがあるんだなって思いましたね。特にこの1年くらいは、いかに地に足をつけてそれをやっていくかということをよく考えた。そうやっていろいろ気付けたのもホセのおかげですね」
ホセと話し合いながらかなり短時間で制作したというデビュー・アルバム『ライジング・サン』は、とりわけプロダクション、または音像に拘ったという。
「ビートが強くて、ちょっとエレクトリック。ドラムが前に出ていて、クラブでもかけられて、でも演奏のしっかりしたもの。ざっくり言うならディアンジェロの『ブードゥー』がジャズアルバムだったらどうなるかっていう、そういう狙いで作ったんですよ。音がカラダにあたったときの感じに拘ろうと」
そのように熱の感じられるアルバムであり、それを携えてのヨーロッパのツアーやフェスでは、だから若い人たちの反応がとりわけよかったそうだ。
「ノース・シー・ジャズ・フェスはこれまでホセと何度か立ってますけど、今年は僕の名前で出させてもらって。ステージに立つ前はさすがに緊張しましたね。でもやっぱりここが僕の戦いの場なんだってことを、その緊張が改めて感じさせてくれた。世界レベルで言うと僕はいきなりポンと出てきた新人で、まだまだ知られていない。でもヨーロッパでは若い世代の人たちが立って反応してくれてて、ジャズとは言ってるけど僕らのやってる音楽はこれからもっと世代もクロスオーバーできる可能性があるんじゃないかと思うことができました。すごくいい経験でしたね」
JUJU JAZZ LIVE 2014 with TAKUYA KURODA QUINTET from NY
2014 8.22 fri. - 8.27 wed. (8.25 mon. OFF)
JUJU(vo), Takuya Kuroda(tp), Corey King(tb), Takeshi Ohbayashi(p,key), Jeremy Most(b), Adam Jackson(ds)
そんな黒田は日本においても活動の場と枠を広げ、いまはブルーノート東京で行われているJUJUのJAZZ LIVEに自身のクインテットと共に参加。ミュージック・ディレクターも務めている(8月27日まで)。筆者も初日の1stショーを観たが、彼の手掛けたネオソウル的なアレンジはJUJU本来のヴォーカルの持ち味を改めて輝かせていたという印象だ。
また9月10日にはorange pekoeのヴォーカリスト、ナガシマトモコのソロ・プロジェクトであるNiaが1stアルバムをリリースするのだが、黒田はそのプロデュースも担当。ナガシマと黒田は実は18の頃からの友達だそうだが、黒田のジャズ~ソウル感覚によってorange pekoesとは異なるナガシマの音楽性がどう開花しているのかも楽しみだ。
そしてもう公演間近だが、8月28日にはモーション・ブルー・ヨコハマで凱旋公演が行われる。メンバーは黒田のほかに、コーリー・キング(tb)、大林武司(p、Key)、ジェレミー・モスト(b)、アダム・ジャクソン(ds)。息の合ったツアー・メンバーであり、JUJUのJAZZ LIVEでもバックを務めた面々だ。
「ヨーロッパ・ツアーなどを経てすごくあったまった状態のこのバンドの音をぜひ聴いていただきたい。カラダが自然に動いて、ライブが終わったらメンバーもお客さんも汗びっしょりになってるような音を出したいですね。ダイナミクスのある、ジェットコースターみたいなライブができたらいいなと思ってます。ぜひ観に来てください」
photography = Takuo Sato
interview & text = Junichi Uchimoto
- 内本順一(うちもとじゅんいち)
- 東京生まれ。情報誌の編集を経て音楽ライターに。ポップ、ソウルものなどのCDライナーノーツを多数執筆。プリンス、ストーンズを始め、これまで数百組のアーティストを取材。