スペシャル対談 松尾 潔 × 林 剛 "チャカ・カーンが不動の地位を築いた理由" | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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スペシャル対談 松尾 潔 × 林 剛 "チャカ・カーンが不動の地位を築いた理由"

スペシャル対談  松尾 潔 × 林 剛 "チャカ・カーンが不動の地位を築いた理由"

スペシャル対談 松尾 潔 × 林 剛
"チャカ・カーンが不動の地位を築いた理由"

ブルーノート東京で22年ぶりにライヴを行うチャカ・カーン。チャカのどこが魅力的で、
何が圧倒的だったのか? 若き日に在籍したルーファスの話も含めて、R&B好きのふたりが
下北沢のLittle Soul Cafeで繰り広げた濃密ソウル・トーク。その一部を来日記念として披露しよう。

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松尾 チャカ・カーンのライヴは、もう何回観ただろう? 僕は海外も含めていろんな場所で観ているけど、いまだにときめくんですよね。どう転がってもスターというか、何をやってもチャカになるっていう絶対的な強みがある。ある意味、スティーヴィ・ワンダーに近い存在ですよ。

 彼女が在籍していたルーファスでは、スティーヴィが書き下ろした"Tell Me Something Good"を歌っていましたけど...そもそもルーファスは前身がアメリカン・ブリードというシカゴ近郊のポップ/ロック・バンドで、その面々と渡り合えたチャカは柔軟というか。

松尾 チャカはシカゴのサウスサイド育ちでしょ?

 そうですね。去年の7月にシカゴのサウスサイド付近の通りが〈Chaka Khan Way〉と命名されました。で、個人的にルーファスは後追いなのですが、リアルタイムでは84年のアルバム表題曲"I Feel For You"(プリンス名曲のカヴァー)がチャカ初体験で。これ以降のチャカってスクリッティ・ポリッティとコラボしたり、ニュー・ウェイヴとかロック的なエッジがあって、当時、僕の中ではソウル・シンガーという印象が薄かったんです。

松尾 僕はルーファスでの"Ain't Nobody"(83年)が最初。ブレイクダンス映画『Breakin'』のサントラにも入ってて。でね、チャカのヴォーカル像が立体的にわかったのが『I Feel For You』のアルバム。ロック的なエッジを表現するためにはパワー・ヴォーカルであることが必要だという道理も含めてね。でも、例えばフォープレイと共演した時に最後までシャウトせずに歌う、そういうスタイルも後に彼女の芸になっていくんですよね。

 それは例えば...僕はルーファス時代では『Ask Rufus』(77年)が一番好きなアルバムなのですが、そこに入っていた"Hollywood"のようなソフト路線の延長線上にある芸ですね。初めて"Hollywood"を聴いた時、まだ見ぬハリウッドの景色を想像させてくれました(笑)。

今もライヴを観に行って失望することがない。楽器としてのボディが優秀なんですよ
---------- 松尾 潔

優れた女性歌手にしか使えない"ディーヴァ"という称号がぴったりくる人ですよね
---------- 林 剛

松尾 行ったこともないどこかへ連れて行ってくれる音楽...それこそが極上の音楽ですよね。僕は、ルーファスでは『Masterjam』(79年)が一番好きなアルバムで...よく言うんだけど『On The Wall』、つまり"裏『Off The Wall』"。クインシー・ジョーンズが(マイケル・ジャクソンの『Off The Wall』と)同じ時期にプロデュースして、同じ人(ジョン・ロビンソン)がドラム叩いてたりするんだから。ファンク・バンドとしてのアイデンティティを守りながら、時代の流行を取り入れたバンドの音という色合いを出してたバランスの妙が素晴らしい。

 その頃にはチャカもソロ作を出していて、ルーファスにおいても、それまでは"フィーチャリング・チャカ・カーン"と表記されていたのが"&チャカ・カーン"と対等な関係になって、存在が大きくなっていましたね。

松尾 力関係がね。で、彼女のどこか圧倒的だったのか考えてみると、チャカ以降に"チャカ・カーンっぽい"って言われた人はヴェスタとかたくさんいたけど、チャカは(ヴォーカル・)スタイルの創始者であったこと。彼女が出てきた時は、後にエリカ・バドゥが出てきた時と同じようなインパクトがあったのかもしれない。そのエリカもライヴ(盤)ではルーファスの"Stay"を歌っていて、クールな女性シンガーの代表格であるエリカがライヴでは声を張り上げて歌うことにも驚いたけど、その時に歌う曲がチャカなんだなと。

 チャカとエリカは"ジャズ"というバックグラウンドでも結びつきますね。チャカは『Echoes Of An Era』(82年)というジャズ名人との共演盤も作っていたりして、出自的にもゴスペルよりジャズな人って感じですね。

松尾 そういえば92年に出た『The Woman I Am』は、"Facts Of Love"が、キムタクが出演したトヨタRAV4のCMで使われてたことも印象に残ってますが、これ、亡くなったばかりのマイルス・デイヴィスに捧げたアルバムだったんですね。マイルスのことを"マイ・フレンド"って言えるR&Bの女性シンガーが他にどれだけいるかということを考えると、やっぱりチャカは特殊な位置づけですよ。

 確かに。あとはチャカの影響力。さっきのエリカもそうですが、特にメアリー・J・ブライジは、チャカの現時点での最新作『Funk This』(2007年)で共演していて、自身のアルバムでも"Sweet Thing"とか"Ain't Nobody"とか、ルーファスの曲を何度か取り上げてます。

松尾 真似される対象なんですよね。誰かがチャカの曲をカヴァーしたとか、影響を受けているとか、時間をかけて影響力の凄さを実感させる。この間、僕が出した本(『松尾潔のメロウな日々』)の中で使った表現で言うと、"長い時間をかけて驚くべき耐久性を証明した"っていうね。

 "I'm Every Woman"にしてもホイットニー・ヒューストンに歌われることによって生き延びたし、"Through The Fire"もカニエ・ウェストがサンプリングしたり、最近ではケリー・プライスがカヴァーしていたり...。

松尾 まあ、"Through The Fire"はビッグ・イン・ジャパンな曲でもあるから。だから、もし、"Through The Fire"だけでチャカを知っていた人が初めてライヴを観たら、"その先の凄み"を感じると思うんですよ。

 圧倒的な歌唱力に驚く、と。あと、不良上がりの可愛さにも(笑)。若い頃のキュートさを保ってますよね。

松尾 体重が多少増えても、顔立ちの可愛らしさは損なわれることがないし。既にレジェンド的位置を獲得していた25年くらい前のライヴで、余裕で声が出るなあと感動したものですが、今もライヴを観に行って失望することがないんですよね。これは凄いこと。楽器としてのボディが優秀なんですよ。圧倒的な歌唱力、スターのオーラ、複数のヒット曲、この三つがないと、いいライヴを観たとは思わせてくれないですけど、当然チャカは全て揃っている。ともすれば安っぽくなりがちな"天才"という名を使うことに僕は躊躇がないです。

 最も優れた女性歌手にしか使えない"ディーヴァ"という称号も、チャカの場合は唱法的にもイメージ的にも、そう呼んで一番ぴったりくる人ですよね。

松尾 歌ってなきゃ死んでしまう...ぐらいの、人生自体と歌が切り離せないということを感じさせる女性ですよね。

photography = Great The Kabukicho [ cross talk portrait ]
text = Tsuyoshi Hayashi
cooperation = Little Soul Cafe

松尾 潔(まつお・きよし)
音楽プロデューサー/作詞家/作曲家。EXILE、JUJUなどを手がける。NHK-FMの人気番組「松尾潔のメロウな夜」は放送5年目。今年5月にはR&Bへの深い愛情を綴った音楽エッセイ集『松尾潔のメロウな日々』を出版した。
林 剛(はやし・つよし)
R&B/ソウルをメインとする音楽ライター/ジャーナリスト。専門誌への寄稿やCDライナーノーツの執筆、ラジオ番組の選曲などを手掛ける。チャカ・カーンの来日公演期間中には、Little Soul Cafe の宮前氏と〈Bar BACKYARD〉でDJを行う予定。

ルーファスにはじまり、スターダムを駆け上がる! 名作6選

 

ルーファス:1. 『ラグズ・トゥ・ルーファス』('74)、2. 『マスタージャム』('79)、3. ライヴ盤『ライヴ/サヴォイでストンプ!』('83)/
チャカ・カーン:4. 『恋するチャカ』('78)、5. 『フィール・フォー・ユー』('84)、6. 『ファンク・ディス』(2007)
※1~5:ワーナーミュージック・ジャパン、6:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

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