ランキン・タクシーと工藤Big'H'晴康、スライ&ロビーを語る
[ランキン・タクシー×工藤Big'H'晴康]
僕らにレゲエを教えてくれた
スライ&ロビーとジョニー・オズボーン
ジャマイカ音楽の歴史に残る数々の名曲を世に送り出してきたリズム隊/プロデューサー・チーム、スライ&ロビー。70年代よりシーンの一線で活躍し続けてきた名シンガー、ジョニー・オズボーン。まさにジャマイカ音楽界のレジェンドによる奇跡の来日公演が実現する。70年代から彼らの活動に触れてきた日本レゲエ界の重鎮、ランキン・タクシー&工藤Big'H'晴康のお2人にその見所を解説していただこう。
――お2人が初めてスライ&ロビーの存在を意識するようになったのはいつごろですか?
工藤 1979年にカリフォルニアでピーター・トッシュのライヴを観たんですよ。そのときバックをやっていたのがスライ・ダンバー(ドラムス)とロビー・シェイクスピア(ベース)。しかもロビーのベース・アンプの真ん前で観てしまったので、ただただ圧倒されました。それまでレゲエのリズム隊といえば、ボブ・マーリーのバックをやっていたバレット兄弟。そこからいきなりスライ&ロビーのタイトでロックなリズムに触れたものだから、本当に衝撃的だった。
ランキン 70年代からチャンネル・ワンとかバニー・リーの音源で彼らの演奏は耳にしてたと思うんだけど、ナマで体験したのは(スライ&ロビーがバックアップした)84年のブラック・ウフルの来日公演。凄かったね。あまりに強烈でクラクラしました。スライ&ロビーのチームとして意識するようになったのはそれ以降ですね。
工藤 ブラック・ウフルも凄かったよね。明らかに<新しいレゲエが出てきた>という感覚があった。スライはSIMMONSのシン・ドラム(電子ドラム)を使ってて、あれがまず新しかった。
――80年代前半、スライ&ロビーはローリング・ストーンズやボブ・ディラン、グレイス・ジョーンズなど非レゲエ・アーティストの作品にも数多く関わりますね。
ランキン リズムがレゲエじゃなくても、なぜかスラロビがやるとレゲエに聴こえる。そのセンスそのものがレゲエで培われたものなのかもしれませんね。
工藤 彼らはどんなパターンを演奏しても全部レゲエに聴こえるんですね。スライのプレイは手数が多いほうですけど、それに合わせるロビーも結構弾くほうなんです。(ボブ・マーリーのバックを務めたベーシスト)アストン"ファミリーマン"バレットは間を活かしながら弾いていく<抜き>のベーシストですけど、ロビーはどんどん弾いていく。
ランキン 昔、みんなでよく話してましたよ。スライが引っ張ってるのか?ロビーが引っ張ってるのか?って。
――90年代頭に入ってからのスライ&ロビーは<Bam Bam>のような打ち込みのダンスホール・トラックも量産していきます。
工藤 決定的だったのはスライがAKAIのサンプラーを使い出したことですよね。でも、彼は実際に自分が叩けるリズム・パターンしか作らない。技術的には革新的な打ち込みの時代が始まるわけですけど、音源を聞くと<やっぱりレゲエだな>と思わされるわけです。
ランキン 90年代のスラロビはスティクリ(スティーリー&クリーヴィ)といい勝負してたよね。スティクリがいい仕事を連発してたから、悔しかったんじゃないかな(笑)。
――2000年代以降になると、UKのシンガーであるビティ・マクリーンだったり、モンティ・アレキサンダーやアーネスト・ラングリンといった重鎮たちと共にたびたび来日公演を行います。
工藤 この5、6年ぐらいスライがまた生ドラムを叩き始めたんですよね。それが嬉しい。この前Blue Noteで約30年ぶりにスライのプレイを至近距離で観たんですけど、昔と変わっていなくてびっくりしましたね。いまだに音が大きいし、抜けがいい。
ランキン 身体も動かなくなってきてるはずだけど......私とほぼ同い年なんですよ(笑)。私たちはあの人たちからレゲエを学んだようなものですから。<やりすぎないけど、やるときはやる>っていうレゲエの美学を。
工藤 そういえばね、大昔にとあるジャズのドラマーの方とスライ&ロビーのことを話したことがあって。その方は<スライのプレイのどこがおもしろいかっていうと、ジャストのタイム感だ>と言うんですよ。スネアにせよ何にせよ、ピッタリのタイミング、ヘタしたら少し前ノメリに入ってくる。ジャズのドラマーからしてみると、そこがものすごく面白いんですって。ジャズは間とかタメを大事にする音楽じゃないですか。でも、スライは小気味いいぐらいジャストで入ってくる。<これは俺には叩けない>と言ってましたね。
ランキン・タクシー(左)が手にしているのは、スライ&ロビーがバックを務めたバニー・ウェイラーの1982年作『Hook Line & Sinker』(Solomonic)。工藤BIG'H'晴康(右)は、左からスライ&ロビーの1982年作『Syncopation』(Joe Gibbs)、スライ&ロビーの最新作『Underwater Dub』(Groove Attack)。
――今回の来日公演はジョニー・オズボーンというこれまたレジェンダリーなシンガーも連れてきます。
工藤 ジョニー・オズボーンはダンスホールの親分でしたね。ただ、ラスタのルーツの歌も歌えばラヴソングも歌うし、サウンドボーイの歌も歌う。なんでも歌えるんですよ。
ランキン 典型的なダンスホール・シンガーだよね。オリジナル。70年代から歌ってたけど、80年代のジャミーズ以降で爆発した人ですね。声に存在感がある人です。
――スライ&ロビーとジョニー・オズボーンの組み合わせってちょっと意外ですよね。あんまり一緒にやってるイメージがないというか。
ランキン そうだよね、あんまりイメージないよね。
工藤 ただ、そのぶん期待感がありますよね。どんなことやるんだろう?っていう。
――来日公演の会場にやってくるみなさんに向けてメッセージがあればお願いいたします。
工藤 まずはまっさらな気持ちで観てほしいですね。先入観なく、フラットな状態でおもしろさを感じてほしい。今回はしかもジョニー・オズボーンというトンでもないシンガーと一緒ですからね。
ランキン 演奏が歌を盛り上げるのか、歌が演奏を盛り上げるのか。ベースが引っ張るのか、ドラムが引っ張るのか。そういう緊張感ある駆け引きを楽しみたいですね。
工藤 人間国宝みたいな人たちが揃って、どういう駆け引きを見せてくれるのか。本当に楽しみですよね。
photography = Great The Kabukicho [ cross talk portrait ]
text = Hajime Oishi
cooperation = 新宿OPEN
RANKIN TAXI
レゲエ・ムーヴメントの牽引役であり、60歳を迎えた今も現役で活躍。日本のレゲエ・シーンを刺激し続ける、ジャパニーズ・レゲエ界のオリジネーター。1984年からレゲエDJとして活動し始め、そのレゲエに対するアプローチは、真摯かつユーモアに溢れているが、ときに過激でもあり、まさにレベル・ミュージックの体現者としての一面も持ち合わせている逸材。
http://rankintaxi.com/
工藤BigH晴康(くどう・BigH・はるやす)
日本有数のサウンド・システムを誇るレゲエ・クラブ=新宿OPENの"校長"。レゲエ評論家、アーティスト、DJとして、すでに35年以上のキャリアを持つ。K.B.B.(工藤ブラザーズ・バンド)のVo.&G.としても活躍中。
OPEN
大石始(おおいし・はじめ)
旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」ライター/エディター。著書や編著書は「関東ラガマフィン」「大韓ロック探訪記」「GLOCAL BEATS」など多数。2015年には日本の祭に関する単著も刊行予定。