〜vol.2〜 公演直前インタビュー、ハーブ・アルパート | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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〜vol.2〜 公演直前インタビュー、ハーブ・アルパート

〜vol.2〜 公演直前インタビュー、ハーブ・アルパート

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情熱が生み出したティファナ・ブラスのサウンド〜
A&Mレコーズ成功の秘密

 8才の時にトランペットを手に取ってから、実に72年間吹き続けてきたハーブ・アルパート。キャリアを重ねてきたからこそ感じる音楽・ジャズの魅力、出せる音があるかと尋ねると、重鎮ならではのエピソードが飛び出した。

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 「トランペットの演奏が大好きなんだ。朝目が覚めると、トランペットを演奏することを考えてる。楽器を演奏することに特別な満足感があるし、常に上達しようと試みる。仲の良い友人のひとり、ディジー・ガレスピーがよく言ってたよ。「問題に近づくほど、より遠くに見える」ってね(笑)。彼が言いたかったのは、「どんなに練習を重ねても、もうこれで十分、もう練習の必要はない、ということがない」ってこと。楽器には退職というものがないんだ。
 ミュージシャンになりなかったらずっと練習を続けることだ。若いミュージシャンに「成功の鍵は何ですか?」とよく聞かれる。先ず自分のやっていることに情熱的でなければならない。もしも情熱的じゃなかったら忘れちまえ。君が眠っている間に、君と同じことを夢見る他の誰かは練習しているんだから(笑)。











 1951年に、レス・ポールとメアリー・フォードというアーティストが"How High The Moon"というレコードを演奏した。彼はギターの音でレイヤーを作ったんだ、テープマシーンを使ってね。おもしろいアイディアで、わたしはそれをトランペットでやってみた。自宅の小さなスタジオにある2台のテープマシーンを使って、最初に録音したトランペットの上から別のトランペットを録音した。何度も繰り返しているうちに、突然ティファナ・ブラスの起源とも言えるサウンドを見つけたんだ。



 それにヒットレコードを出すとみんなが話かけてくるから、より自分に自信が沸いてくる。そうやって少しずつ、楽器を通して自分の真の感情を出していった。それがひとつの鍵だと思うんだ。内気にならずにそれができれば、これはいい出来かな、ダメかな、マイルス・デイヴィス並にできたかな、子供の頃から聴いて育った偉大なプレイヤー並に弾けたかな、とか思うことなくね。その感情を乗り越えられたら、自分をミュージシャンとして表現できると思う。それがいつもうまくいくとは限らないけど、それが鍵だと思う。アーティストとして正直になることが鍵だよ」












 1962年にパートナーのジェリー・モスと共に設立したA&Mレコーズは、世界最大のインデペンデントレコード会社として、数々の才能を世に送り出してきた。その成功の秘訣をハーブが振り返る。

 「運がよかったんだ(笑)。ラッキーでタイミングがよくなくちゃね。それにお金が欲しかったわけじゃないんだ。どれだけ稼ぐかじゃなく、どれだけいいレコードを出せるかってこと。自分でも買いたくなるような魅力的な音楽をね。それが動機だった。ジェリーとわたしは握手でそれを始めたんだ。契約書も交わしていない。彼はわたしの友達だったし、それは今も変わらない。
 A&M以前にメジャーレコード会社で録音した経験があるんだけど、その扱われ方が気に入らなかった。自分のレコード会社を持つ機会があればもっと違ったやり方でやるのに、と思ってた。わたしがスタジオでレコーディングしている時、彼らはわたしを数字のように扱った。わたしのレコーディングっていうより、レコーディング325861番って感じさ。人との触れ合いがなかったんだ。レコーディングスタジオも冷たい真っ白の壁で、創造的な環境じゃなかった。

 だからわたしは人々がハッピーになれる環境、従業員がここは自分のオフィスなんだと感じられる場所を作りたかった。毎年恒例のピクニックをやったり、威厳を持って人々を扱いたかった。それに必ずしも全米ナンバーワンやトップ10じゃなくても、何か特別なユニークさを持ったアーティストを探していた。キャット・スティーヴンスやカーペンターズ、セルジオ・メンデス&ブラジル'66のようなね。当時アメリカで聴けるブラジル音楽と言えば、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトが出した『ゲッツ/ジルベルト』の「イパネマの娘」くらいしかなかった。だからわたしたちは常に興味深い音楽を作ろうとしたんだ。
 小さいレコード会社はヒット曲を出すと、そのヒット曲と大したことない曲を詰め込んだアルバムを出したがる。そのヒット曲を活用して資金化したいからさ。だからわたしたちはとっておきのチューンばかりを詰め込んで、聴き手が払うお金に相応しいアルバムを録音した。そしてアーティストを威厳を持って扱い、快適だと感じられる扱い方をして、それが成功に繋がったんだ」



photography = Yuri Hasegawa
interview & text = Keiko Tsukada

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塚田桂子(つかだ・けいこ)
音楽の背景にある、人、文化、社会、政治を追うジャーナリスト。1995年渡米、NY居住を経て、現在LAを拠点に活動中。ヒップホップを中心に、インタビュー、リリック対訳、CDライナーノーツなど執筆多数。ブログ: hip hop generation (kokosoul.exblog.jp)

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