〜vol.3〜 公演直前インタビュー、ハーブ・アルパート
>> [vol.1] 今もなおオリジナルを求め続ける重鎮、新作リリース目前に48年振りの来日公演
>> [vol.2] 情熱が生み出したティファナ・ブラスのサウンド〜A&Mレコーズ成功の秘密
輝かしいヒット曲の誕生秘話〜
来日公演への高まる期待
数々のナンバー1ヒットやグラミー賞受賞を誇るハーブが、その輝かしいヒット曲の中からベスト3(+1)を選び、それぞれの貴重な秘話を語ってくれた。
「1曲目は"The Lonely Bull"だね。A&Mレコーズを始めて最初にリリースした曲で、トップ10入りもした。ドイツのある女性から手紙を受け取ったんだけど、感謝してくれね。(メキシコの)ティファナでやったショウに来て、わたしたちの音楽を聴いてくれた。海を越えてやって来てくれたんだ。人を大陸横断させてしまうような音楽を作るって、なんてパワフルなことだと思ったよ。
2曲目は"A Taste of Honey"かな。 レコードのB面としてリリースされたんだけど、パートナーはA面の"3rd Man Theme"を売り出したがった。でも毎回コンサートで演奏する度に、みんな"A Taste of Honey"ですごく盛り上がってくれたんだ。そこでパートナーに電話して、「わたしたちは選択を間違えた。B面の曲を売り出そう」と持ちかけた。ダンスできないし、スロウだし、途中で止まるけど、だからみんな好きなのかもしれないよ、分からないけどさ。その後ついに宣伝する曲を取り替えたことで、ティファナ・ブラスの扉が大きく開いたんだ。
それから"This Guy's In Love With You"だね。バート・バカラックとハル・デヴィッドが作った曲だ。TV番組に出演して演奏したんだけど、その2週間後に全米ナンバー1になった。
それからもちろん、1979年の"Rise"もね。他の曲と違うところが好きなんだ。この曲を書いた甥のランディは、最初この曲を120bpmのダンスレコードにしたがった。でもわたしは同意できなくてね。メロディがいいからスロウな曲にしたかったんだ。そこで100bpmにスピードを落として、だんだんあのレコードが仕上がっていったんだ。美しい曲だ。ブルーノートでも演奏するよ」
"Bittersweet Samba"という曲が、日本の人気ラジオ番組「オールナイトニッポン」のテーマ曲として親しまれてきたことは、ハーブも既にご存知だろう。
「話には聞いているよ。こんなに長い間聴てもらってるなんてとても嬉しいよ。『Whipped Cream & Other Delights』というアルバムの収録曲で、ソル・レイクが書いたんだ。ティファナ・ブラスにも何曲か書いてくれた人だよ」
1967年から使われてきたあの曲は、日本人の成人の多くの世代にとって、「深夜の大人の国歌」といっても過言ではないほど特別な曲だと思うと伝えると、それまで静かに語っていたたハーブが、度胆を抜かして「なんだって!?!? オーライ!(笑)」と嬉しそうに反応していたところが、またチャーミングだった。
仲の良いアーティストから、日本のこと、ブルーノート東京のことは色々聞いていたというハーブ。そして日本との接点を尋ねると、実に貴重な逸話が飛び出した。
「わたしたちのドラマー、マイケル・シャピロがセルジオ・メンデス&ブラジル'66とプレイしていて、ブルーノートで何度もプレイしているんだけど、彼がいつも言うんだ。「俺たちもブルーノートでプレイしようよ。とにかく行かなくちゃ。素晴らしいよ。彼らは俺たちをとても親切に扱ってくれるし、食事は美味しいし、サウンドは素晴らしいし」って具合で、とにかく根気強く説得した。 結局成功したよね(笑)。
日本とは60年代には接点があったよ。タッツって知ってるかな? 音楽出版社でプロモーターのタッツ・ナガシマ(永島達司:ビートルズを呼んだ男としても知られる伝説の呼び屋)だよ。彼はとっても特別な男で、日本に行くといつも親切に扱ってくれたし、わたしとパートナーのジェリーも彼ととても親しかったんだ」
(16mmフィルム付きジュークボックス(スコープティオン)の映像。映画監督ロバート・アルトマン作品)
来日中に日本で行ってみたい場所を尋ねると、ハーブが36年前の日本で体験した、強烈かつ愉快なエピソードを、実に楽しそうに語ってくれた。
「先ずどんな天気になるかを見てからだね。前回行った時に京都に行ったんだけど、驚くべきことに蜂の揚げ物(蜂の子の天ぷら?)を食べたんだ(笑)。でも結構美味しかったよ。天ぷらスタイルの蜂だった。ははは! 京都は間違いなくまた訪れたいね。桜の季節に行けなくて申し訳なかったね。前回(4月)病気にならなかったら完璧なタイミングだったのに。また次回だね」
最後に、彼のライブ演奏を心待ちにしている日本のファンのみなさんにメッセージをいただいた。
「日本にまた行けることにとてもワクワクしているよ。ぜひわたしたちに会いに来て欲しいな。がっかりさせないよ。"Bittersweet Samba"がそんなにも多くの人たちの心に触れたなんて、非常に光栄だよ。絶対に演奏するよ。他にもみんなに聴き覚えのある曲と一緒にね」
photography = Yuri Hasegawa
interview & text = Keiko Tsukada
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- 塚田桂子(つかだ・けいこ)
- 音楽の背景にある、人、文化、社会、政治を追うジャーナリスト。1995年渡米、NY居住を経て、現在LAを拠点に活動中。ヒップホップを中心に、インタビュー、リリック対訳、CDライナーノーツなど執筆多数。ブログ: hip hop generation (kokosoul.exblog.jp)