〜vol.2〜 ブラジル発の新星ブラック・ヴォイス、エレン・オレリア
癒しの歌声で国中の喝采を浴びた
ブラジル現代のシンデレラ・ガール
エレン・オレリアのインタビュー 〜VOL.2〜
(本インタビューは世界の音楽情報誌「月刊ラティーナ」2015年9月号に掲載されたものです)
ーーあなたは2012年に、偉大な女性歌手たちを輩出するこの国で、「ブラジルの声」としての名声を得ましたね。このことをどう受け止めていますか?
いまだにそう呼ばれることがあります。とんでもないプレッシャーです。いままで、ここを目指して、このときを準備して待ってきました。サーファーがボードの上で、いい波を待つみたいに。その波はやってきたけれど、ものすごく大きい波だった。なんとか理想を描いてがんばるけれど、この波に乗りきれるのかどうかわからない。だけど、私の音楽に共鳴し私のことを「ブラジルの声」と言ってくれる人たちのために、私は常に最善のことをしたいと思います。
ーーブラジルの黒人女性歌手であることを意識するときはどんなときですか?
ブラジル人黒人女性歌手であるということは、道義心について語り、カテゴリーやアイデンティティについて語ることです。それはまさに私。人の意見は変えられることもあるけれど、持って生まれた先天的なものは変えられませんから、向き合うしかないのです。
ーー歌う準備はどのように行うのですか?
私が歌うとき、その曲を地図のように捉えるのが好きです。私が道程を知っている場所へ人々を誘っていくような。歌詞を咀嚼して、どこに鋭さを描くか考えて、地図をつくっていきます。その作業は、私の歌への解釈を促してくれます。でも、インプロヴェゼーションの余白もちょっと残しておきます。私が描いたその地図を身体全体に更新できたときに、すべて自然に流れ出します。
ーーあなたのスタイルについてもふれないといけないですね。スタイルはどのように考えられているのですか?
良きパートナーに出会えて私は幸せですね。私一人だったら、あまり考えずに草履でも履いて歌うところだけれど(笑)、どんな姿で人の前に立つのか、髪型やメイクはどうするのか、助言をしてくれるプロデューサーがついてくれていますからね。 (2013年にプロデューサーの女性と結婚している)
ーー新しいプロジェクト「アフロフトゥリスタ」は、どのような内容ですか?
私の夢です。政治的要素も含みます。私たちがどこからやってきたのか、ルーツについて考える。そして、これから歩んでいきたい道について考える。遺産として受け取ったものを、どのように継いでいくのか、過去にとらわれずにふりかえり、私たちが目指す未来について考える。このプロジェクトは、先人たちと私たちの望む未来をつなぐプロジェクトなのです。ブラジルの地方のリズムを刻む打楽器を取り込み、現代的なアレンジで表現しています。
ーー音楽的にはどのような内容ですか?
ブラジルの地方の先人たちから受け継いできた打楽器とのリズムがこのプロジェクトの筋骨となって力を与えます。サンバ、カリンボー、マラカトゥ、フォホー、あらゆるものから影響を受け、それらが混ざり合っています。音は、いままでより人工的で電子的です。アコースティックギターを少し手放し、ギターを弾くことに集中しています。
ーーレパートリーは?
しばらくは作曲をするぞと決めて、この「アフロフトゥリスタ」のために3年間作曲をしてきました。だから、9月にリリース予定の新しいアルバムは完全オリジナルの曲で、録音も最近終えたばかりです。
ーー日本でもこのプロジェクトを披露するのですか?
そうですね。ブラジルでもこのテーマでライヴをいくつかやりましたし、先日ロシアでもライヴをやりました。
ーーよりオルタナティヴな内容ですか?前回のアルバムよりもより本来のあなたの特徴が濃く表れていると言えますか?
以前の作品に私らしさがあまりでていなかったのかどうかはわかりません。ただ、今回の作品に関して言えば、たしかにとても私らしさがにじみ出ていると言えます。以前の作品は、複数の人がプロデュースに携わりました。今回は、フェリペ・ヴィエガスと私が一貫して制作しているので、私の存在感がとても出ているし、すごく自由にやりたいことができたと感じています。
ーー「アフロフトゥリスタ」というタイトルで表現していることは何でしょうか?
それを語るには、歌手で作曲家であるマテウス・アレルイアが〝アフロフトゥリズモ〟について言っていることを引用しなければなりません。「私たちは遺産なのだ。それと同時に、望みでもあるのだ」。このプロジェクトは、人それぞれの違いを乗り越えて平等の勝ち取るために闘った先人たちへの感謝を表するものでもあります。
interview = Diego Muniz