最も注目されるフレンチアイコン、ルー・ドワイヨン | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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最も注目されるフレンチアイコン、ルー・ドワイヨン

最も注目されるフレンチアイコン、ルー・ドワイヨン

LOU DOILLON2016 1.20wed.-1.21thu. 最も注目されるフレンチアイコン、ルー・ドワイヨン

 母は女優のジェーン・バーキン、父は映画監督のジャック・ドワイヨン
アートの申し子というべきサラブレッドが、2ndアルバムを携えブルーノート東京のステージに立つその存在を、ワン&オンリーのディープ・ヴォイスを、手の届くような距離で体感したい

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 2015年秋に発表された『Lay Low』は、あらゆる呪縛から抜け出し、アーティスト、ルー・ドワイヨンの誕生を宣言したような清々しさに溢れたアルバムだ。

 「女優、歌手のジェーン・バーキンを母に、映画監督のジャック・ドワイヨンを父に持ち、義姉には女優、歌手のシャルロット・ゲンスブール、写真家のケイト・バリー」......ルー・ドワイヨンについて語られる際に、必ずと言っていいくらいに用いられるのが、これらの枕詞。恵まれたアーティスティックな家庭環境に生まれ育ったこの事実は、反面で彼女にまとわりついたコンプレックスの根源でもあった。

 父、ジャック・ドワイヨンの監督作品をはじめ女優としてのキャリアを積んできたルーが、シンガーとしてのヴェールを脱いだのは2012年のこと。母ジェーン・バーキンとの親交も深かったエティオンヌ・ダオをプロデューサーに迎えて誕生したファーストアルバム『PLACES』はフランス国内で高い評価を受ける。実に30万枚を売り上げ、フランスのグラミー賞ともいわれる「ヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュージック」で最優秀女優アーティストの座に輝いた。

 

©Zélie Noreda

 「シャントゥーズ(シンガー)」としての地位を固めたかのように思われたルーだが、それだけで満足出来なかったのは、やはりその「血筋」のせいだったのかもしれない。その成功のうしろに少なからず母ジェーンとの所縁の深いエティエンヌ・ダオの存在があったことで「母の影」から抜け出せない自分に苦悩したようだ。

 その反動か、「アーティスト」としての自己表現の欲求を満たすべく、新たなアルバムの準備を始めたのは、翌2013年のこと。

 自分の音世界を追求するためのパートナーとして、彼女が発見し、ラヴコールを送ったのがカナダのテイラー・カークだった。

 テイラー・カークはインディペンデント・フォーク・グループ、Timber Timbreの首謀者。Timber Timbreはファイストやブロークン・ソーシャル・シーンらをかかえることでも知られるカナダ、トロントのレーベル〈Arts & Crafts〉から何枚かのアルバムをリリースしている。少々土臭い、フォーキーでサイケデリックな音像は、実は彼女が幼い頃から父の影響で愛聴してきたというニック・ドレイクやレナード・コーエンに通じるものがあったのだろう。

 

©Bertrand Rindoff/gettyimages

 母ジェーン・バーキンと。義理の姉シャルロット・ゲンスブールも誰もが知るミューズ的存在で世界的に最も有名なファミリー。その中でルーは、音楽を通じてアイデンティティーを確立してきた。

 テイラー・カークは当初、このパリジェンヌからのラヴコールを断っていたのだという。それでもあきらめずにオファーを続けたルーの熱意に負けて、アルバムの前面プロデュースを買って出る。ただし事は順調に運ばなかった。2013年の暮れ、突如襲った姉ケイト・バリーの死という悲劇。それは不慮の事故だったのか故意だったのかも釈然としないままの喪失。ルーはテレラマ誌(9/16号)へのインタビューで告白している。その時期、皮肉にもルーがすでに書いていた数曲は自殺に関するもので、その悲劇は全てをストップさせてしまったという。

 それでも前に進めることが出来たのは、姉ケイトこそがルーの音楽に対して最も熱心に興味をもって勇気づけてくれていた存在だったからこそ、とも語る。

 書いておかなくてはいけないのは、ルーにとってもう一人の義姉、シャルロット・ゲンスブールの存在。女優としても歌手としても、一足先に評価を受け、さらに父の「ゲンスブール」というあまりに大きな影にも負けない存在感をもった姉をルーが意識しないではいられなかったのは明白だ。ケイトは、そんな事情をすべてのみこんだ上で、彼女をやさしく後押ししていたに違いない。

 そんな中、2014年、エディ・スリマンによってサンローランのミューズとしてフックアップされたことは彼女に良い転機を与えた。彼女の奔放なスタイルとサンローランの掲げるしなやかに強い女性像は完全に時代とリンクしたようにも写った。

 そして発表された『Lay Low』。

 先述のテレラマ誌の中の発言で、「なぜもっと早く音楽の世界に入らなかったのか?」という問いに彼女はこう答えている。─「私には何も言うべきことなんてなかった。もし18歳でアルバムを作っていても、ただ叫んでいただけ。私の何かが壊れた時でないと本性は姿を現さないの。このアルバムがうまくいったのは、自分の弱さを暴き出すことが怖かった時期に、それをありのままにさらけ出す度胸が私にあったからよ」

 自ら撮影したというジャケットのくしゃくしゃに乱した髪の奥から見つめる目はまっすぐ正面に向かっている。そしてその唇から放たれるのは、自身の偽りのない言葉なのである。

LOU DOILLON(ルー・ドワイヨン)
1.20 wed., 1.21 thu.
Open6:30pm Start8:00pm ★本公演は1日1ショウのみ
1982年、フランス・パリ生まれ。女優/モデル/ミュージシャン。父は映画監督のジャック・ドワイヨン、母はジェーン・バーキン、義理の姉妹にケイト・バリーとシャルロット・ゲンスブールという芸能一家に育つ。テレビと映画を中心に経験を重ねつつ、近年はパリのスタイルアイコンを代表する存在。
※詳しくは公演詳細ページまで
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『Lay Low』(Rambling RECORDS)
カナダのTimber Timbreのメンバー、テイラー・カークが全面的に参加。フォーキーで懐かしい音色のロックを披露している。

text = Tsuyoshi Hayashi
photo = Takuo Sato

梶野彰一(かじの・しょういち)
フォトグラファー/著述家。音楽、映画、アート、ファッション、あらゆるフランス・カルチャーに溺れるセラヴィスト。ジェーン・バーキンやフェニックスといったアーティストや、サンローランなどのモードをフォローする。
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『ロフィシャル ジャパン』 No.31・2月合併号(¥690)発売中
〈COVER STORY ルー・ドワイヨンの告白〉
http://www.lofficiel.jp

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