[鼎談 VOL.1]松蔭浩之×中原昌也×村尾泰郎が語るジェームス・チャンス
"ポストNYパンクのカリスマ"の魅力とは?
1970年代のノー・ウェイヴ周辺から語り尽くす
痙攣と爆発を繰り返すヴォーカルとサックス・プレイ、そしてトレードマークのリーゼント姿で音楽シーンを唖然とさせたジェームス・チャンスが2016年1月に5年ぶりの来日、ブルーノート東京には初登場となる。ここでは現代美術家の松蔭浩之氏、ミュージシャン中原昌也氏、そしてライター村尾泰郎氏とともに、1970年代に起こった潮流"ノー・ウェイヴ"まで遡りながら、ジェームス・チャンスの魅力をご紹介していきたい。
村尾 お二人はジェームス・チャンスの音楽とどんな風に出会われたんですか?
松蔭 大学生の頃にコントーションズの『バイ』を中古で買ったんですよ。その前に『ノー・ニューヨーク』(※)は聴いていて、NYのアンダーグラウンドなシーンに興味を持ってたんです。当時はイギリスのニュー・ウェイヴが盛り上がってたけど、『ノー・ニューヨーク』の音はもっと乾いてて、生々しくて。そのなかで、ジェームス・チャンスとリディア・ランチに特に惹かれたんですよね。
中原 僕も最初に聴いたのは『ノー・ニューヨーク』で高一の時に買ったんですけど、全部のバンドが型にはまってない感じがすごいしましたね。そのなかで、コントーションズは一番直球。しかも、いちばん最初に入ってるから、どうしてもやっぱりインパクトがあった。
松蔭 そう。針を落として1曲目からこのスピード感というかなんというか、ちょっとパンクにもないようなリズム感っていうんですかね。
中原 ゴミが満載した大八車が勝手に坂を転がって行くみたいな(笑)。なんかやけっぱちな感じ。ロックじゃないのは確かですね。
松蔭 そこはジャズの要素ってことなのかな。
村尾 フリージャズのアナーキーさとファンクの躍動感がカクテルされているというか。その雑多な感じがノー・ニューヨークっぽい。
中原 そうですね。僕は『ノー・ニューヨーク』の前にポップ・グループを聴いていて。あっちもフリーキーでサックスが入ってたりして、ちょっとパンクとは違うネクストレベルのものがある。そこに繋がってる感じが僕のなかにはありましたね。まあ、向こうのほうが楽器巧いですけど。ジェームス・チャンスってサックスのフレーズはほぼ同じじゃないですか(笑)。
松蔭 ずっとサックスのソロが続くのかと思ったら突然歌い出したりしてね(笑)。吹けるとか吹けないとか関係ないみたいな。
※ノー・ニューヨーク
70年代後半に発生したジャンル"ノー・ウェイヴ"のきっかけとなった作品がこの『ノー・ニューヨーク』(1978)。パンクロックやポストパンクや現代音楽、クラフトワークなどの電子音楽といったさまざまなジャンルの影響によって成立したロックの一ジャンル"ニュー・ウェイヴ"に対し、商業目的でない自由なスタイルで表現したのが"ノー・ウェイヴ"。作品のプロデューサーはブライアン・イーノ。アルバムにはジェームス・チャンス&ザ・コントーションズをはじめ、アート・リンゼイ率いるDNA、他Teenage Jesus And The Jerks、Marsといった4組のアーティストが参加している。
★James Chance & The Contortions - Dish It Out
作詞・作曲 ジェームス・チャンス
★Teenage Jesus And The Jerks - Burning Rubber
作詞・作曲 リディア・ランチ
★Mars - Helen Fordsdale
作詞・作曲 ナンシー・アーレン、チャイナ・バーグ、マーク・カニンガム、サムナー・クレーン
★D.N.A. - Egomaniac's Kiss
作詞・作曲 ロビン・クラッチフィールド、アート・リンゼイ
村尾 でも、ジェームスは7歳くらいからピアノを学んでて、音楽学校にも通ってるんですよ。中退してますけど。
松蔭 そうなんだ!?
村尾 ジャズは若い頃から聴いてて、10代の時にジョン・コルトレーンやアルバート・アイラーを聴いてフリージャズに目覚めるんです。その後、ロック・バンドに入ってストゥージズみたいなガレージ・ロックみたいなのをやってたそうなんですが、ミルウォーキーじゃラチがあかないってことでNYに上京してきて、リディア・ランチがやっていたティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークスに〈俺を入れろ〉って無理矢理加入するという。
★John Coltrane - A Love Supreme
★Albert Ayler - Ghosts
中原 音楽学校に行ってたって意外ですね。サックスで同じフレーズしか弾かないのは狙いか(笑)。
松蔭 ティーンエイジ・ジーザス好きなんだけど、ジェームス・チャンスがいる頃の音源は残ってないのかな。聴いたことないんだけど。
村尾 最近、ティーンエイジ・ジーザスの『LIVE 1977-1979』っていうコンピが出たんですけど、そこにジェームスとフリクションのレックさんがいた頃のライヴ音源が2曲入ってます。
中原 それ聴きたいですね。
村尾 コントーションズを結成する直前くらいだと思いますが、即興で好き勝手に吹きまくってますよ。僕も初めてジェームスを聴いたのは『ノー・ニューヨーク』だったんですけど、得体が知れなくて不気味なアルバムだと思いましたね。とくにDNAとかマーズとかB面が恐い(笑)。
★Teenage Jesus and the Jerks - Race Mixing (live in NYC 1979)
TEENAGE JESUS & THE JERKS Live 1977-1979
中原 『ノー・ニューヨーク』って、なんかよくわかんないとこがあって。まだちゃんと読み取れてない気がする。
村尾 例えばイギリスのパンクってわかりやすいじゃないですか。労働者階級の怒れる若者達がパンク・ファッションに身を包んで体制に反抗するっていうパッケージ化されたところがあるんですけど、『ノー・ニューヨーク』の人達は存在自体が屈折してるというかニヒリスティックというか。
松蔭 その後、東京にも現れる倦怠とか憂鬱みたいなものを感じるね。(コントーションズの代表曲の)"コントート・ユア・セルフ"の〈コントート〉って〈歪ませる〉っていう意味じゃない? だからネジれてんだよ、連中は。
中原 そのネジじれ方が簡単には理解できないのかな。単なる反抗でもないし......。
村尾 そういうネジれ方って、イギリスだったらパンクというよりスロッビング・グリッスルとか、そういうノイズ系のグループに近い雰囲気もありますよね。
中原 アメリカだとジャンクとか、そういう流れにも繋がっていって。
松蔭 ソニック・ユースとかスワンズとかね。
★James Chance & The Contortions - Contort Yourself - Max's Kansas City 1980
★Swans - (Live in UK 1986)
1982年、Michael Gira(ギター/ヴォーカル)を中心に結成、70年代末から80年代初頭の混沌としたニューヨークのアンダーグラウンド・シーンを象徴するバンドとして、SONIC YOUTHと共にオルタナティヴ・シーンに君臨した。ジャンク・ロックと称された初期作品『Filth』『Cop』、当時隆盛したノー・ウェイヴ・シーンと激しく共振しながら、その余りにヘヴィーなサウンドと破壊的なライヴ・パフォーマンスも相まって瞬く間に注目を集めた。
[ブルーノート東京 B1フロア、バー]
Bar BACKYARD
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ジェームス・チャンス祝来日! 彼の音楽を愛するDJたちが3夜連続登場。
彼の恋人でマネージャーだったアーニャ・フィリップスによる写真展も同時開催。
【SPECIAL DJs 1.22 fri. - 1.24 sun.】
ミュージシャン、デザイナー、アーティスト...
"ノー・ウェイヴ"の渦中にいた彼らが贈る来日記念DJパーティー
★1.22 fri. 6:00pm~9:30pm
北村信彦(ヒステリックグラマー)、高橋盾(アンダーカバー)
★1.23 sat. 4:00pm~8:00pm
中西俊夫 (ミュージシャン/音楽プロデューサー)、中原昌也 (ミュージシャン/作家)
★1.24 sun. 4:00pm~8:00pm
伊藤桂司(イラストレーター/アート・ディレクター)、松蔭浩之(現代美術家)
【PORTRAITS OF JAMES CHANCE BY ANYA PHILLIPS 1.13 wed. - 1.24 sun.】
ジェームス・チャンスの恋人でマネージャーだったアーニャ・フィリップスが残したポートレート展
※期間中、展示写真の他、展示作品を含む約30点の写真を収めた写真集<BLACK & WHITE>を販売します。
協力:VACANT