デヴィッド・フォスターが見出したシンデレラ!ブレナ・ウィテカー
BRENNA WHITAKER2016 3.18fri.─3.20sun. デヴィッド・フォスターが見出したシンデレラ!
その歌声はスティーヴィー・ワンダーやクインシー・ジョーンズをも魅了し、
デヴィッド・フォスターが育成からプロデュースまで全てを手がける。
ミュージックシーン全体が熱い視線を注ぐ新星、ブレナ・ウィテカーが初登場!
ハリウッドにあるスタイリッシュなWホテルで、毎週日曜日の夜9時から『Sunday Jazz Nights』というイベントが開催されて、2010年のホテル開業時から大盛況を誇ってきた。現地メディアが"煽動的なショウ"と報じたイベントをプロデュースし、8人編成のザ・リトル・ビッグ・バンドを率いて出演していたのがブレナ・ウィテカーだ。
本人は、「LAの5年間で、私はとことん絞られ鍛え抜かれた」と語っているが、時には女性ダンサーがカクテルグラスを片手にセクシーに踊るショウの注目度は、時間とともにどんどん熱を帯びていき、スティーヴィー・ワンダーやクインシー・ジョーンズ、マイケル・ブーブレといったアーティストも足を運び、ブレナのファンになっていった。ステージに飛び入り参加し、彼女とデュエットしたことがあるマイケル・ブーブレは、「僕ら世代の最高峰のシンガーのひとり」と称賛している。彼女のパワフルな歌とグラマラスなパフォーマンスは、世代やジャンルを超えて、ホテルに集まるあらゆる人々を魅了した。
そんな彼女の原点は、カンザス・シティにある。1920年代から30年代の禁酒法時代に特例の都市として繁華街が栄えて、ナイトクラブなどで毎晩ジャズが演奏されていた。ブルース、ラグタイムから始まり、独自のビッグ・バンド・サウンドが確立された中西部の街で、ブレナは生まれ育った。幼い頃から音楽に夢中になり、11歳でプレゼントされた女性ヴォーカリストを集めたコンピレーション・アルバムが彼女の人生を決定づけた。アニタ・オデイらの歌に聴き惚れて、ジャズに恋した。とりわけ影響を受けたのはルース・ブラウン、ペギー・リー、キャブ・キャロウェイ、エタ・ジェイムスといった往年のシンガーだが、このラインナップを見てわかるようにインプロビゼーションやスキャットを駆使する熱唱型ジャズ・シンガーではなく、R&Bやポップも含むアメリカのスタンダード・ナンバーに心奪われてきた。これが彼女の音楽の核にあるもの。
また、17歳でニューヨークに向かい、ブロードウェイの舞台に立つべく歌と演技のレッスンを重ねた後、やはり大好きなジャズに打ち込みたいと考えた彼女は、帰郷の道を選ぶ。そして、20代前半は、バンドを率いて地元で活動するが、現在のカンザス・シティは、観光地化されていて、ジャズ・ファン以外の観光客もナイトクラブを訪れる。そういう人達をも楽しませるためには、曲間にどんなトークをしたら盛り上がるだろうか。エンターテイメント性を追求する日々がブレナのパフォーマンスを磨いていき、地元でやるべきことはやったと納得した時に今度は、西海岸のロサンゼルスに向かった。それがWホテルのショウにつながっていく。
その『Sunday Jazz Nights』の噂を聞きつけ、見に行った人の中に大物プロデューサーのデヴィッド・フォスターもいた。現在ヴァーヴ・レコードの会長を務める彼は、ブレナの才能に惚れこみ、2013年にいち早く契約を交わす。それから1年以上の時間をかけて、デビューの準備およびレコーディングを進める。デビュー・アルバム『ブレナ・ウィテカー』のプロデュースを担当しているが、フォスターが発掘から育成、プロデュースまで全面的に関わる新人は、マイケル・ブーブレ以来のこと。力の入れ具合からも彼女への評価の高さ、期待度が伝わってくる。
さて、そのデビュー・アルバムは、多彩な選曲にまず彼女の個性が反映されている。収録13曲中9曲がカヴァー・ソングだが、いわゆるミュージカル生まれの有名なスタンダード・ナンバーではなく、前述したようにアメリカが誇るヒット曲や名曲が中心。それに独自の解釈を加えることで、新たな生命を注ぎ込み、歌のストーリーをドラマティックに歌い上げている。たとえば、ペギー・リーが1946年に共作した『イッツ・ア・グッド・デイ』は、オールディーズというジャンルに分類される歌をドラムのリズムやホーンの演奏をフィチャーしつつ、洒脱なハッピー・ソングに仕上げたり。他にもレズリー・ゴーアやルース・ブラウンの古い曲を取り上げる一方で、アルバムのオープニングを飾るのはサム・スパローの2008年のヒット曲『ブラック&ゴールド』だったりと、時代とジャンルを超えた選曲になっている。
4曲ある自作曲、新曲のなかには"Sayonara, Adios, Goodby"と日本語、スペイン語、英語の別れの言葉を並べたキャッチーなサビが耳から離れなくなる『サヨナラ』という曲もあり、いつの間にか一緒に歌ったり、楽しさに思わず体がつられて踊ってしまったりと、そんな曲がいっぱい。
初来日公演にはレコーディングに参加したリンドン・ロシェル(ds)も同行する。熱気を帯びたレコーディング、『Sunday Jazz Nights』の煽動的なパフォーマンスが再現されるゴージャズなコンサートになるに違いない。女性にとっては、たっぷりとしたブロンドヘアーにぴったりの50年代風のクラシカルで、エレガントなファッションも見どころのひとつになるだろう。セルフ・プロデュースの能力が問われる時代にきっと鮮やかな手腕で魅せてくれるはずだ。大いに期待したい。
- 『ブレナ・ウィテカー』(ユニバーサル ミュージック)
※2016.1.27発売 - 13曲中9曲がカヴァー・ソング。スタンダード・ナンバーではなく、アメリカが誇るヒット曲や名曲が中心で、多彩な選曲に彼女の個性が全開に盛り込まれている。
column DAVID FOSTER
グラミー16冠に輝くプロデューサー、
デヴィッド・フォスター
今年創立60周年を迎えるヴァーヴ・レコードの会長。これまでにバーブラ・ストライサンド、セリーヌ・ディオン、マイケル・ブーブレ、アンドレア・ボチェッリら実力派シンガーのプロデュースを多く手懸け、ジョシュ・グローバンといった新人発掘にも尽力してきた。それによりグラミー賞で16回も受賞し、そのうち2回は最優秀プロデューサー賞に輝く。これまでに関わった作品のトータル・セールスが5億枚を超えるというヒットメーカーだ。また、カナダ出身のフォスターは、1998年カルガリー大会、2010年バンクーバー大会と2回の冬季オリンピックの音楽監督を務める。
text = Tsuyoshi Hayashi
photo = Takuo Sato
- 服部のり子(はっとり・のりこ)
- レコード会社勤務を経て、音楽ライターになる。女性誌や新聞を中心に執筆しており、現在『マリソル』(集英社)や毎日新聞でアーティストや新作などを紹介している。また、JALの機内オーディオ放送の企画、制作等もしている。