公演直前、クリス・ボッティにインタビュー | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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公演直前、クリス・ボッティにインタビュー

公演直前、クリス・ボッティにインタビュー

ジャンルを超え、世界で活躍する
詩情豊かなトランペット・プレイヤー

ジャズ、フュージョン、ロック......。さまざまな音楽のフィールドでキャリアを積み上げ、いよいよ脂が乗りきってきたトランペット奏者、クリス・ボッティ。2017年2月、彼が9年ぶりにブルーノート東京のステージに立つ。その来日前、ブルーノートNYで年をまたいで1か月公演を行っているさなかのクリスがインタビューに応じてくれた。自分の演奏や楽器の強みやカラー、そしてマイルス・デイヴィスやスティングへの思いもありのまま語る貴重なメッセージだ。

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interview & text = Kazunori Kodate PR coordinator / Artist = Kei Kato

マイルス、ハービー、バカラック......。
巨匠たちに導かれてきたキャリア。

 世界中からツーリストが集まるニューヨークの年末年始、西3丁目の"ジャズの名門"ブルーノートで12年間続いているエンタテインメントがある。クリス・ボッティのショウだ。2016年12月12日から`17年1月8日もNYで演奏するクリスだが、その熱りも冷めぬ2月、ブルーノート東京のステージに上がることになった。2月3日から7日までの5日間10公演。9年ぶりの出演になる。

「ブルーノート東京は完璧だ。客席と至近距離で演奏できる空間は大好き。わくわくしているよ」

 クリスはメッセージを寄せてくれた。彼のトランペットはとても表情が豊か。力強くブロウしたかと思えば、情緒的な演奏も聴かせてくれる。バラード曲での音色は、マイルス・デイヴィスの後期、『TUTU』あたりの響きも感じさせる。

「僕がジャズミュージシャンになろうと思ったのは12歳の時。きっかけはマイルスのライヴ盤、『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』だった。1曲目のタイトルチューンの導入部、あの3音を聴いて、僕はトランペットで生きると決めたんだ」

 クリスはマイルスと同じモデルのトランペット、マーティン・コミッティをずっと愛用している。

「マーティン・コミッティは、僕の体と瞬時に共鳴して、ずっと追い求めている丸み、深みのあるリッチな音が生まれる。お気に入りだよ」

 そして、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」はクリスにとって特別な曲であり続けている。2005年にロサンゼルスのウィルシャー・シアターにバート・バカラックやグラディス・ナイトをゲストに招いたショーでも演奏した。ヴォーカルはスティング。DVD『クリス・ボッティ ライヴ!』に収録されているショウだ。そのMCで、クリスは「マイルスが僕たちを見守ってくれている」と語っている。

「この曲は'11年にバラク・オバマ前大統領がホワイトハウスに中国の胡錦涛前国家主席を招いた公式晩餐会で、ハービー・ハンコックとのデュオで演奏した。ハービーはマイルスの『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』の時のピアニスト。大統領の前での演奏はもちろん光栄だったけれど、自分にとって大切な曲をハービーとともに演奏できたことが何よりもうれしかった。子どもの頃の僕がよみがえって身震いしたほどだよ」

一流に育ててくれたのはスティング。
音楽のオンもオフも彼のツアーで学んだ。

「この曲は'11年にバラク・オバマ前大統領がホワイトハウスに中国の胡錦涛前国家主席を招いた公式晩餐会で、ハービー・ハンコックとのデュオで演奏した。ハービーはマイルスの『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』の時のピアニスト。大統領の前での演奏はもちろん光栄だったけれど、自分にとって大切な曲をハービーとともに演奏できたことが何よりもうれしかった。子どもの頃の僕がよみがえって身震いしたほどだよ」

 なぜクリスの音楽の表情が豊かなのか─。それはジャズに限らずさまざまなアーティストと共演を経ているからでもある。バカラックやグラディスのほかにも、ポール・サイモンやジョニ・ミッチェルなどビッグネームに愛されてきた。

「スタジオシーンにいた28歳の僕を世界へ連れ出してくれたのがポール。彼のツアーで、音楽との向き合い方を教わった。ステージでマイケル・ブレッカーの横に立った時、夢がかなったことを感じたほどだ。ジョニとのツアーはわずか6週間だったけれど、ブライアン・ブレイド(ドラムス)とラリー・クレイン(ベース)のリズムを体験できたことは大きい。そして何よりも、ジョニの声と芸術性は素晴らしい。今も大ファンだよ」

 そんな彼のキャリアで欠かせない存在は、やはりスティングだろう。アルバム『ブラン・ニュー・デイ』のナンバー「パーフェクト・ラヴ」でミュートの効いた演奏を聴かせ、ツアーにも参加した。後にオープニングアクトも務めている。

「僕を一流に育ててくれたのがスティング。サポーターで、友人で、兄のような存在だ。彼からもとても多くを学んだ。ステージでは大々的にソロのチャンスを与えてくれて、経験を積むことができた。教えられたのは直接的な音楽だけではない。日常生活でのパッション、バンドと旅をする際のコミュニケーション、ヨガでの体調管理......。彼と時間をともにすることで僕は育てられてきた」

 スティングがジャズを愛していることはよく知られている。ポリス結成前は、ラスト・イグジットというジャズ・ロック・バンドに参加していた。ポリスもサウンドチェックではウェザー・リポートの曲を演奏していたと伝えられている。そして、ポリス解散後はブランフォード・マルサリス(サックス)、ケニー・カークランド(ピアノ)、ダリル・ジョーンズ(ベース)、オマー・ハキム(ドラムス)ら、当時のジャズシーンの若き腕利きとともに『ブルー・タートルの夢』をレコーディングしてワールドツアーを行った。

「スティングのバンドでは一瞬でバシッ! と決める演奏を身に着けた。ロックは大音量なので、ブロウも力強くなり、情熱的な演奏になったよ」

 後にブランフォードをインタビューした時に、そうふり返っていた。

 そんなスティングが、ブランフォードやケニーの次に注目したジャズマンがクリスだったのだ。

 クリスの演奏は"歌"だ。ハートに秘めるものが、呼吸器官を経て、トランペットのボディを経て、オーディエンスに語り掛ける。

「僕はいつも可能な限り詩的に、そして美しく演奏することを心がけている」

 そう語るクリスに「自分の音楽を色に例えたら?」という質問を投げかけててみた。

「それは青だよ。僕の好きな青」

 即答だった。2月のブルーノート東京の空気も、情緒的な青になるに違いない。

神舘和典(こうだて・かずのり)
音楽ライター。1962年東京生まれ。'90年代後半にはニューヨークを拠点にジャズの取材を重ねる。『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』(新潮新書)『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)』『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。

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