古き良きジャズを現代に蘇らせる、ザ・ホット・サーディンズ
ホットでスタイリッシュな N.Yの人気グループが再来日!
ジャズ100年の歴史を明るく陽気に、身も心も揺らされながら俯瞰したいのであれば"パリ・ミーツ・ニューヨーク"な香りがただよう、彼ら8人衆のライヴ演奏がお薦めだ。大恐慌も世界大戦も9.11の悲劇も、その旋律の強度で乗り越えてきた名曲の数々をロマンチックなピリ辛風味で歌い奏でるTHE HOT SARDINES。昨秋の興奮を再び!
text = Anri Suetsugu
photography = Takuo Sato
昨秋の楽屋での取材時。「HOT SARDINEの和訳は?」と訊かれたので即答したら、その後のMCで「ピリ辛(鰯)!」を連発していた、紅一点の"ミズ・エリザベス"ブージュロル(vo.washboard)。リーダー格のエヴァン"ビブス"パラッツォ(p)と出逢って、二人は意気投合。出演者募集中のオープンマイク店の告知に導かれ、メンバー集めとバンド名の必要性にかられたという。「近所のスーパーでエリザベスがピリ辛鰯の缶詰を指さしたんだ。それが名前の由来(笑)。ホット・ジャズの全盛期も"HOT"を冠したバンド名が多かったので丁度いいなって」(エヴァン)。二人が大好きなサッチモやジャンゴやファッツ・ウォーラーらが活躍した時代の音楽(=フット・ストンピング・ジャズ)を"餌"に、さっそく仲間探しの竿を垂らしてみた。「面子を釣り上げた? いや、僕らの場合は網を置いといたら、そこに魚のほうが勝手に飛び込んできた感じだね(笑)」。
折しも古き良き時代のジャズ再評価が若い音楽家たちの間で起きていたのが幸いし、大漁よろしく3管もリズム隊も俊英が出揃った。ところが彼らが最重要視し、最初に釣り上げたのはタップダンサーだった。「エリザベスも僕もフレッド・アステアやジーン・ケリーが大好きでね。アステアに至ってはタップばかりか歌もピアノもドラムも叩くオールラウンドな人だよね。僕らも、このテの音楽を知らない人たちにも届けるという意味合いで、タップダンスが醸すビジュアル面の活力要素がとても大きいと考えていたからいの一番でゲットしたんだ」(エヴァン)。
そう、ザ・ホット・サーディンズを生で愉しむ醍醐味の一つがこの、自在で絶大なタップ効果とアナログな存在感なのだ。彼らの舞台中央には控えめな椅子が置かれ、足元には専用マイクが鎮座している。登場時のACリンカーン(tap)はおそらく、そのマイクと軽く戯れる程度だろう。が、彼が一たび立ち上がるや堰を切ったような勢いで魔法が起きるに違いない。なぜ、タップ担当の確保が重視され、最優先されたかの謎が解けるだろう。
メジャーデビュー後のデッカ盤2作はいずれもエリ・ウルフ(=ノラ・ジョーンズやエルヴィス・コステロとの仕事でも知られる敏腕)のプロデュースに委ねられ、ウィズ・ストリングス仕様で彼らのエレガントさが際立つ仕上がりになっている。そんな音盤上の気品さと、タップで際立つライヴ時の野性味―その相違を味わうのも一考である。百聞は一見に如かず、その感動を余さず堪能するには少しでも良い席の確保がお薦めだ。
マリリン・モンロー主演の映画『お熱いのがお好き』の挿入歌である〈RUNNING WILD〉や、ザ・ピーナッツのヒット曲でも知られる〈PETITE FLEUR〉などを選曲し、「基本8人を中核に」奏でて歌う彼らのサウンドは「レトロ・スウィング」と区分けされたりもする。が、エヴァンは「十羽ひとからげの流行系バンドの中の一つにはなりたくない」「100%ピュアに20年代~30年代のジャズを再現するのではなく、それ以降に出てきた沢山の音楽を良い意味で無節操なくらいにミックスしたかったんだ」と語り、ドアーズやU2の名前もあげる。横から「私はフランス育ちなのでピアフやグラッペリやシャルル・トレネからも影響されているわ。もちろんプリンスもJBも、ドビュッシーも好きだし」と、エリザベスが補足する。「じぶんらが新しさを持ち込める曲であれば、それをやりたいと思っているんだ。つまりオーセンティックではあるけれども、フレッシュに響くようなものにしたいわけさ」(エヴァン)、「どんなかたちにも変えられるのが名曲の名曲たる所以よね」(エリザベス)。そんな彼女の提案からニック・マイヤーズ(ts)がアレンジしたアルバム収録曲が〈ADDICTED TO LOVE〉、邦題「恋におぼれて」で知られるロバート・パーマーの名曲だ。エヴァンの解説がこのバンドの個性と志向性を簡潔に物語る。「あの曲は、カウント・ベイシー+ジョー・ウイリアムス+レイ・チャールズがちょっと入ったようなヴァイヴに仕上がっているよね」
経済誌フォーブスは「今のニューヨークで最もイケてるバンド」と評し、「タイムレスな音楽に揺り動かされる感情とその想い出」を主題としたドルチェ&ガッパーナの2017年春夏ミラノメンズコレクションには彼らの生演奏が招聘された。
さて、貴方はどんな服で聴きにいく?
OPEN 2:30pm START 3:30pm
小学生、中学生、高校生はミュージック・チャージが半額に!
●演奏時間 60分/●フロア前方にダンス・スペースをご用意
●演奏終了後 サイン会/撮影会を予定
こどもの日や夏休みの期間に合わせて開催する企画。
親子で一緒にジャズとライヴの醍醐味を味わえる
スペシャル・プログラムです。
ウォッシュボード(洗濯板)やタップダンスなどを取り入れたグループ、ザ・ホット・サーディンズと一緒にジャズ100年の歴史を辿りましょう。ジャズのスタンダード曲はもちろん、よく知られているポピュラーな曲も演奏予定です。
『French Fries & Champagne』
(Decca Crossover)
- 末次安里(すえつぐ・あんり)
- 女性誌/男性誌/写真誌のアンカーを経て、音楽誌(out there,jazz today)の発行兼編集人を歴任。現在はネットTVチャンネル「zappa tokyo」主宰。多彩なゲスト陣を招くメイン番組「LINX」ではMCも担当中。