今年の夏もジョイスが、サンバ新世代を代表するペドロ・ミランダと来日!
ブラジルを代表するシンガーソングライター
新世代の歌い手とサンバ100年を祝う
ブラジル音楽の巨匠、ドリヴァル・カイミの名曲を歌った新作を携えて今年の夏もジョイス・モレーノが来日する。ゲストはジョイスとの共演経験もあるサンバ新世代を代表する歌手/パーカッション奏者、ペドロ・ミランダ。"サンバ誕生100周年記念"と題するスペシャル・ライヴの聴きどころをチェックしていこう。
interview & text = Jin Nakahara
photography = Leo Aversa
20年以上にわたり毎年、欠かさず来日してライヴを行なっているジョイス・モレーノは、リーダー・アルバムも積極的にリリースし続けている。昨年のアルバム『パラーヴラ・イ・ソン~言葉と音~』は全曲、自身のオリジナル曲で、シンガー/ソングライターとしての今を体現していた。一方、彼女には表現者の顔もあり、これまでにアントニオ・カルロス・ジョビン、ヴィニシウス・ヂ・モライスの作品集を発表してきた。そして今年リリースしたニューアルバム『ある旅をした』は、ドリヴァル・カイミの作品集だ。
ブラジル北東部、バイーア出身のドリヴァル・カイミ(1914~2008)は、30年代末にリオに出て、国民的歌手のカルメン・ミランダとのデュエットで録音した自作のサンバ「O que é que a baiana tem ?(バイーア女が持っているものは?)」がヒットしてスターの座に着いた。以来、数多くのヒット曲を放ってきた、サンバ100年の歴史に欠かすことのできない偉大な作詞作曲家/歌手/ギタリストだ。
ドリヴァル・カイミの作風は、小粋で軽快なサンバから、サンバ・カンサォンと呼ばれるロマンチックな歌もの、故郷バイーアの風土を描いたフォークロア調の曲まで幅広い。サンバのヴォーカル・グループからアントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトといったボサノヴァの開祖、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルら同郷の後輩にあたるMPBの大御所まで、大勢の歌手がカイミの作品を歌い継いできた。
「ドリヴァル・カイミの音楽は、私の幼い頃の音です。それは海と、海を生業とする人々。それは50年代のボヘミアン・リオ・ナイト。それは神話の創造と、神話的なバイーア。彼の曲をレコーディングすることは、私が生まれ育ち、彼も暮らしていたことのある地域への再訪でした。彼の曲を通じて歌やギターを学んでいた、少女の頃の自分を見る思いで、私の子供時代の心の中に深く入りこむような気持ちでした」。
ジョイス・モレーノは、新作のブックレットにこのような一文を寄せていた。彼女が生まれ育った地域はリオを代表するビーチエリア、コパカバーナ地区で、近所にドリヴァル・カイミの家もあった。彼女にとってカイミの音楽は、まさに幼少時の記憶そのもの。例えば新作で歌った曲「土曜日のコパカバーナ」の歌詞は、先の文にあった"50年代のボヘミアン・リオ・ナイト"を描いており、当時は幼かった彼女にとって、まだ見ぬ大人の世界への扉のようなものだったのではないだろうか。
しかし『ある旅をした』でのジョイス・モレーノは、決してノスタルジーの海に耽溺してはいない。最愛のパートナーであるバイーア出身のドラマー、トゥチ・モレーノをはじめ、名手が揃った不動のバンドと共に、サンバ・ジャズ的なアプローチも交え、これまで大勢の歌手が歌い継いできたカイミの名曲に新たな生命力を吹きこんでいる。来日するバンドも新作と同一のメンバーで、カイミが作ったサンバの名曲もジョイスのオリジナル曲も、すべてジョイスとそのバンドの音楽として聴かせてくれるに違いない。
さらに今回、ジョイス・モレーノは"サンバ100周年記念"のライヴ・タイトルにふさわしいゲストを連れて来日する。パンデイロを叩きながら、ふくよかな味わい深い声でサンバを歌う、ペドロ・ミランダ。テレーザ・クリスチーナ&グルーポ・セメンチの中心メンバーとして活動を始め、リオの音楽文化の発信地、ラパのライヴ・シーンのアイコンとなった、21世紀のサンバ新世代を代表する要人であり、現在はソロで活躍している。テレーザ・クリスチーナ&グルーポ・セメンチで初来日して以来、実に14年ぶりの来日だ。
ジョイス・モレーノは以前から、ラパのライヴ・シーンから羽ばたいたサンバ新世代に注目しており、彼らを賛美したオリジナル曲「Puro ouro(純金)」も作っている。この曲を2012年のアルバム『トゥード』でバンド編成で録音した際には、ペドロ・ミランダら、サンバ新世代の4人の男性歌手をコーラスに迎えた。ちなみにこのアルバムには、ジョイスがテレーザ・クリスチーナと初めて共作した曲も入っている。
歴史上初めて"サンバ"と表記された曲「Pelo telefone(電話で)」が楽曲登録されたのが、1916年11月のこと。翌年1月にレコードが発売されてカーニヴァル時期に大ヒットし、ここからサンバの名で呼ばれる音楽の歴史がスタートした。そしてサンバ100年を迎えた今年、ジョイス・モレーノとペドロ・ミランダは、100年の歴史を回顧するのではなく、歴史を踏まえた上で100年を迎えたサンバの "今" を歌う。そんなメモリアルなライヴになることを期待したい。
『Fiz Uma Viagem ある旅をした』
(Rambling RECORDS)
PEDRO MIRANDA
Pedro Miranda
『Samba Original』
(Tratore)
『Samba Original』がブラジル音楽賞を受賞!
カエターノ・ヴェローゾ、アート・リンゼイをゲストに迎え、サンバの名曲に現代の鼓動を加えたペドロ・ミランダの最新作「Samba Original」。7月19日に発表された、ブラジルで最も伝統のあるアワード「第28回ブラジル音楽賞(Prêmio da Música Brasileira)」でベスト・サンバ・アルバムを受賞した。
- 中原仁(なかはら・じん)
- J-WAVEの番組「SAÚDE! SAUDADE...」の選曲/制作をはじめ、ブラジル音楽を中心にプロデューサー、選曲家、ライター、DJ、MCとして活動。ジョイスの『Bossa Duets』(2003年)の共同プロデューサーもつとめた。