キューバン・ジャズ、トップピアニスト特集 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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キューバン・ジャズ、トップピアニスト特集

キューバン・ジャズ、トップピアニスト特集

キューバン・ジャズのトップピアニストたちが来日

近年には新世代のピアニストやボーカリストも台頭し、再び新たな黄金期を迎えつつあるキューバのジャズ。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ以降の盛り上がりを支えてきた若い世代の逸材たちから、その礎を築いてきた巨匠同士による夢のデュオまで。キューバン・ジャズの尽きない魅力を堪能したい。

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text = Hidesumi Yoshimoto



 アフロ・キューバン・ジャズが盛んに奏でられたビバップの時代から現在に至るまで、メインストリームのジャズの変遷に影響を受けつつも、逆にいつの時代にもシーンの流れに大きな刺激を与えるような逸材を輩出して存在感を示してきたキューバ発のジャズ。

 70年代後半のフュージョン全盛期に圧倒的なサウンドで旋風を巻き起こしたイラケレをはじめ、驚異的な演奏テクニックとマンボやルンバからソン、フィーリン、サンテリアなどに至る多種多様なリズムとメロディに満ちたキューバ音楽のエッセンスを背景に繰り出される自在なサウンドは、ラテン・ジャズの中でもひときわ豊かなインパクトと創造性を放ってきた。さらには2015年に54年ぶりに米国との国交が回復し、より開かれた新時代到来への期待も高まる中で、近年のキューバン・ジャズを活性化させてきた新旧の逸材ピアニストたちがこのたび相次いで来日。ハイブリッドな新潮流を示す気鋭の若手から、シーンの両横綱と呼べる重鎮同士による夢のようなデュオまで。ジャズの変遷と歴史を語る上で避けて通ることができない"もうひとつの王国"のスーパー・プレイヤーたちの豊かさを、この機会に再認識してほしい。

 まず、その先陣を切ってコットンクラブに登場するアロルド・ロペス・ヌッサは、83年生まれのニュー・ジェネレーション組。2005年にモントルー・ソロ・ピアノ競技会で優勝して頭角を現し、その後にはオマーラ・ポルトゥオンドのツアーのバックを3年間務めながら、プエルトリコ出身のサックス奏者のダヴィッド・サンチェスやクリスチャン・スコットらの実力派とも共演を重ねてきた彼だが、近年にはザヴィヌル・シンジケート人脈との共演多数なセネガル出身のベース奏者のアリューン・ワドを自身のトリオに迎えて、より多国籍的で自由度の高い境地を深化させてきた。昨年にリリースされた3年ぶりのリーダー作『エル・ビアッヘ』では、アフリカ音楽色の強いチャントやリフなども自在にアンサンブルの中に溶け込ませた斬新なサウンドを提示。躍動的なリズムと優美なメロディに満ちたキューバ音楽の遺産をしっかりと継承した初期を経て、よりハイブリッドでフレキシブルな多国籍グルーヴを確立してきた現行トリオでの音世界は、文字通りに"アフロ・キューバン・ジャズ"の最新型だ。

 続いて、90年代後半に映画の世界的大ヒットによってキューバ音楽の豊かさを改めて広く知らしめたブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのツアー・メンバーとしても活躍し、2009年と2011年に英国のジャイルス・ピーターソンの主導でキューバの若い才人たちにスポットを当てた新感覚のセッション作『ハバナ・クルトゥーラ』シリーズの2作でも中心的存在として大きく貢献したロベルト・フォンセカ(75年生まれ)は、名実ともに2000年以降のキューバの顔役を担ってきた存在。近年にはマリのファトゥマタ・ジャワラをはじめとするアフリカ勢とのコラボを積極的に展開してアグレッシヴな新境地を示してきた彼だが、昨年に名門インパルスから発表した最新作『ABUC』では、トロンボーン・ショーティーやダイメ・アロセナにエリアデス・オチョア、オルケスタ・アラゴーンのメンバーといったキューバ音楽界の重鎮たちまでもゲストに迎えて、古き良き多彩なキューバ音楽の遺産を現代にアップデートしたような、彼ならではのサウンドをゴージャスに展開。ヒップホップ以降のコンテンポラリーな感覚と、親しみやすいキューバ音楽らしさに満ちたオーソドックスなスタイルも流麗にこなすスキルを持ち合わせたフォンセカのプレイは、キューバン・ジャズ入門にも最適だろう。

 そして、キューバン・ジャズ・ピアノの真髄を示した歴史的アクトとして記憶されることになるだろう真打ち的な公演が、チューチョ・バルデス(41年生まれ)とゴンサロ・ルバルカバ(63年生まれ)の両雄が繰り広げる頂上決戦的なピアノ・デュオ。精鋭集団イラケレのリーダーとして70年代以降のシーンを牽引し、90年代以降はブルーノートからもジャズ色を強めたソロ名義作をリリースして衰えを知らないマエストロぶりを発揮してきたチューチョと、チャーリー・ヘイデンとポール・モチアンがバックを固めるトリオで80年代末に衝撃的な世界デビューを飾り、前代未聞の超人的なピアノで聴く者すべてのド肝を抜いたゴンサロ。ともに超絶技巧的なテクニック面の凄さばかりがフォーカスされ過ぎてジャズ文脈では"別枠"として語られがちではあるが、音数を絞ったリリカルでメロウな楽曲でも成熟した巧さを発揮しているのは、近年に発表されてきた両者のピアノ・ソロ作や故ヘイデンとのコラボ音源あたりに耳を傾ければ明らかなところ。今年はハバナで開催されて全世界に向けて放映されたユネスコ主催の"インターナショナル・ジャズ・デイ・グローバル・コンサート"でも大きな喝采を集めた至宝のデュオを間近で堪能できるまたとない機会を、どうかお見逃しなく。

チューチョ・バルデス&ゴンサロ・ルバルカバ "トランス" CHUCHO VALDÉS & GONZALO RUBALCABA "TRANCE" 2017 10.22sun. - 10.24tue. BLUE NOTE TOKYO

 

Chucho Valdés
『Chucho Valdés Tributo a IRAKERE』
(Comanche/Harmonia Mundi)

 

Gonzalo Rubalcaba
『Charlie』
(5Passion)

ロベルト・フォンセカ ROBERTO FONSECA 2017 9.18mon. - 9.19tue. BLUE NOTE TOKYO

 

『ABUC』
(Impulse!)

アロルド・ロペス・ヌッサ・トリオ HAROLD LÓPEZ-NUSSA TRIO 2017 9.12tue. - 9.14thu. COTTON CLUB

キューバの重鎮ピアニスト、エルナン・ロペス・ヌッサを叔父に持つアロルド・ロペス・ヌッサ。昨年8月の公演も白熱のステージで観客を沸かせた。

吉本秀純(よしもと・ひですみ)
ワールド・ミュージックを中心に様々なジャンルや媒体で執筆する大阪市在住の音楽ライター。これまでに『GLOCAL BEATS』『アフロ・ポップ・ディスク・ガイド』を監修。『Jazz The New Chapter』でもワールド色の強いジャズを担当。

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