interview & text = Kenichiro Kawahara
photography = Takuo Sato

　パンクにルーツを持つ彼の口から、ロベンの名前があがるのは少々意外だが、その出会いはレコーディング中のひとコマだったという。

「ギター・テックさんが、当時の最新作だった『truth』（2007年）をかけていたんですよ。それを聴いた瞬間に、"何だコレは!?"と思いましたね。あんな音色は今まで聴いたことがなかったし。そこから改めて、ギターのトーンに注目するようになったんです。それが28くらいかな」

ロベン・フォード『Truth』

　元々、父親がジャズやブルース、シャンソン、タンゴなどの愛好家だったため、自身も幼少期からそれらのサウンドを耳にしていたとのこと。ある意味では、音楽の原体験に回帰していると言えるかもしれない。

　以降、どっぷりとロベンの音色にハマっていく。

「基本的には大人のサウンドなんだけど、爆発力や遊び心があったり、どこか少年っぽさも残っていたりして。フレーズに優しさがにじみ出ているんです。」

► 10月、ツアーの合間を縫ってブルーノート東京で行われたインタビュー。

　初めて『truth』を耳にしてから2年後、ついにthe HIATUSが始動。それまでのキャリアの中でも、より自由度の高いサウンド・メイクが求められる中、ロベンの"あのトーン"から着想を得た試行錯誤が始まる。

「まず機材面で言えば、アンプではなくエフェクターがメインの音作りをするようになったんです。当時は相当いろいろなものを買いましたね」

　ロベンの愛用アンプは通称"ブティック系"と呼ばれるもので、個人工房ならではの少々マニアックでこだわりの逸品たち。

　masasucksも同路線のトーンを得ようと、同じく"ブティック系"と呼ばれるエフェクターを求めたのだ。

　ギタリストにとって"声そのもの"と言ってもいいアンプ類のシステムを根幹から変えたのだから、どれほどの大きな挑戦だったか想像できるだろう。

　それが結実したのが、the HIATUSの3rdアルバム『A World Of Pandemonium』である。

「指弾きでタッチを意識して、歌に寄り添うアンサンブルにチャレンジしました。ギターの音の違いって言われないとわからないと思うんですけど、そういう目線で改めてアルバムを聴いてもらうのも面白いんじゃないでしょうか」

　2009年には、ロベンとラリー・カールトンによるブルーノート東京公演が行なわれる。当然、客席には"生ロベン初体験"のmasasucksの姿もあった。

「いや〜ヤバかったですね。音圧じゃなくプレイで沸かせるというか、ギターやバンドのグルーヴでオーディエンスを熱くさせる感じで。何なんだこの世界は？って衝撃でした。あとは客席とステージが近いから、終演後に足下の機材を観に行きましたね（笑）」

► まさにギターの醍醐味、ラリー節&ロベン節が炸裂したステージ。

　そして2016年、自身もthe HIATUSでブルーノート東京のステージに立つ。

「会場の箱鳴りと一緒にギターの音やアンサンブルのグルーヴが表現できて、それにお客さんが反応してくれるんです。オーディエンスと僕らの間に、新しい何かが生まれるような気がしましたね。the HIATUSのツアーで初めてブルーノートに来るっていう人もいると思うんですけど、こういう機会にロベン・フォードも観に行ってもらったりすると、何かが繋がっていくんじゃないでしょうか」

► 昨年10月に初登場、ザ・ハイエイタスの世界観にブルーノート東京が包まれた。

　最後に、オススメの名盤を聞いてみた。

「最初の出会いでもある『truth』から何枚か聴き漁って、『Blue Moon』（2002年）が一番聴きましたね。今でも車で聴きますよ」

ロベン・フォード『Blue Moon』

masasucks（マササックス）

98年、メロディック・パンク・バンドのFULLSCRATCHでデビュー。以降、J（LUNA SEA）、木村カエラなどのサポートを経て、09年に細美武士（vo.g）率いるthe HIATUSへ参加する。
その他レコーディングセッションの活動も行いながら、2016年RADIOTSに加入。

河原賢一郎（かわはら・けんいちろう）

1982年生まれ。編集者／ライター。サックス＆ブラス・マガジン、ベース・マガジン、ギター・マガジン、耳マン、大型ロック・フェスのパンフ、教則本、Webなどを中心に、編集・執筆を行なっている。