映画音楽の巨匠、ミシェル・ルグランの鳴り止まないメロディ | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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映画音楽の巨匠、ミシェル・ルグランの鳴り止まないメロディ

映画音楽の巨匠、ミシェル・ルグランの鳴り止まないメロディ

Photo by Takuo Sato 2013.11.21-11.22 @BULE NOTE TOKYO

フランスが世界に誇る巨匠が
5年ぶりとなる奇跡の来日

昨年、全世界を席巻したミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』に多大な影響を与えた映画音楽の巨匠ミシェル・ルグランが、5年ぶりに来日する。その華麗な演奏と卓越した旋律に身を委ねる至福の時間を体感する贅沢。

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 この夏、映画音楽の巨匠にして、ジャズ・ジャイアンツのひとり、ミシェル・ルグランが、ブルーノート東京に帰ってくる。彼の来日公演は、2013年の11月以来、実に5年振りのことで、まさに待望の再来日といえるだろう。

 昨年は映画『ラ・ラ・ランド』(2016年)が世界的に大ヒット、同作の監督デイミアン・チャゼルは、フランスでの映画公開を前にミシェルのもとを訪れ、自身がいかにミシェルと映画監督ジャック・ドゥミとのコラボレーション作品、とりわけ『シェルブールの雨傘』(1963年)と『ロシュフォールの恋人たち』(1966年)に影響を受けたかを語るとともに、今秋フランスで刊行予定のミシェルの自伝第2作に、その偏愛ぶりを示すコメントを寄せている。『ラ・ラ・ランド』によって、ミシェルの過去作品を発見した観客も多く、それをきっかけにミシェル自身にも再び注目が集まっているのである。

 今年2月に86歳の誕生日を迎え、老いてなお精力的な活動を続けるミシェルだが、実はこの春、過労のため一時体調を崩し、彼にしては珍しく、いくつかの公演がキャンセルになった。これはその長いキャリアにおいて極めて異例なことだ。その仕事量は、この数年、著しく増加の傾向にあり、その内訳を知れば、体調を崩すのも無理からぬことと合点がいくに違いない。それだけ過密なスケジュールに追われる日々を過ごしていたのだろう。生来の好奇心と創作意欲によって仕事に没頭した結果だが、その精神力には驚かされるばかり。幸い大事には至らず、現在は回復して新たな仕事に取り掛かっているとのこと。肉体の衰えに反して、彼の精神はいまだ20代の頃と変わらないのだ。

 ここでプライベートを含め、彼の近年の活動をざっと振り返ってみよう。

 ミシェルは、前回の来日直前、長年連れ添ったハープ奏者のカトリーヌ・ミシェルと別れ、そのあと、およそ50年振りにパリの街角で女優マーシャ・メリルと偶然再会し、2014年9月に再婚。同じ頃、新たな舞台版『シェルブールの雨傘』が、各所から高い評価を受けて、さらに仕事への意欲がいや増した。この5年間、来日こそ実現しなかったが、例年通り世界各国に遠征し、自らのトリオやオーケストラを率いてコンサート活動を行うとともに、複数の新作を発表している。代表的なところでは、世界最高峰のソプラノ歌手ナタリー・デセイと組んだ『ミシェル・ルグランを歌う』(2013年)を筆頭に、前述のカトリーヌ・ミシェルのハープをフィーチャーした『ジャジック・イン・クラシック』(2014年)、シャルル・アズナヴールやヴィンセント・ニクロら多彩なメンバーを迎えたコラボレーション・アルバム『ミシェル・ルグラン・アンド・ベスト・フレンズ』(2015年)、そしてキャリア初の純クラシック・アルバム『ミシェル・ルグラン:ピアノ協奏曲、チェロ協奏曲』(2017年)、さらには、60年代に作詞家コンビのアラン&マリリン・バーグマン夫妻と着手しながらも未完成だったプロジェクトを、前述のナタリー・デセイと共に再始動させて、アルバム『ビトウィーン・イエスタデイ・アンド・トゥモロー〜ある普通の女性の素晴らしい人生』として完成させた。同作は、「女の一生」を主題としたコンセプト・アルバムで、当初はバーブラ・ストライサンドが録音することを前提に創作されたものである。

 このほか、日本でも公開されて話題になったグザヴィエ・ボーボワ監督による『チャップリンからの贈り物』(2014年)そして同監督による『ガーディアンズ』(2017年)、日本未公開の『Le Point Culture/Le Corps Humain』、『Butterfly Love』、さらに今年は、巨匠オーソン・ウェルズの未完の遺作『The Other Side of the Wind』と、ディディエ・ヴァン・コーベレール初の長編監督作『J'ai perdu Albert』の公開が控えている。

 また、ジョン・ノイマイヤーが芸術監督を務めるハンブルク・バレエ団のために、『回転木馬』の原作をバレエ化した『リリオム』の公演を大成功させたほか、シャルル・ペローの『ロバの皮』のバレエ化など、新境地開拓にも余念がなく、あたかも彼が多忙を極めた70年代を彷彿とさせる多作ぶりだ。

 前回の来日時、私はブルーノートの楽屋で彼にこう尋ねた。「半世紀に渡って作曲を続けてきて、メロディが枯渇したことはないの?」

 すると彼は即座にこう答えたのだ。「ない。なぜなら私の頭のなかでは常に音楽が鳴っているからだ。私はそれを捕まえて、ただ譜面に書き留めるだけでいいんだよ。厄介なのは、鳴り響くメロディのどの部分を捕まえるか。頭のなかのメロディはひと続きで終りがないんだ」

 汲めども尽きぬ泉のごとく、ミシェルの頭のなかはメロディが溢れている。ライヴ前後の楽屋や自宅での食事中、はたまた取材中でさえ、何かしらメロディをつぶやき、あるいは指先で椅子の肘掛けをはじき、スニーカーは常にリズムを刻んでいるのだ。

 別れ際に彼はこう付け加えた。

「ここ(ブルーノート東京)は、日本における私のホームグラウンドだ。また必ず戻って来るよ」

 彼との再会の日はもうすぐ。この機会をお見逃しなきよう。

interview & text = Takayuki Hamada

左/『シェルブールの雨傘』 右/『ロシュフォールの恋人たち』
(© Ciné-Tamaris/DVD・BDともに発売・販売元ハピネット)

左/『シェルブールの雨傘 オリジナル・サウンドトラック』 右/『ロシュフォールの恋人たち(オーケストラ・ヴァージョン)』(ともにユニバーサル ミュージック)

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  • 細野晴臣(音楽家)

    小学生の頃毎朝ラジオで大好きな音楽を聴いていました。それはミュゼットと口笛の音楽で、大人になってその旋律が「A Paris」という名曲だと知りました。そして時が経ち、ラジオで聴いていたのがミシェル・ルグラン版だと知ったのです。子供の頃に音楽の郷愁や豊かな情緒を伝えてくれたそれは、自分の核になっています。

  • 村井邦彦(作曲家)

    ミシェルにとって生きることと音楽をやることは同じ意味を持っている。彼が呼吸したり、生牡蠣を食べたり、飛行機を操縦したり、すこし睡眠をとる事は、音楽を書いたり、歌ったり、ピアノを演奏したりすることの助走にすぎない。86歳の彼の演奏を見ることのできる聴衆はフランスが生んだ最高の音楽家のなかの一人の人生=音楽を目撃することが出来る幸せな人たちだ。

  • 湯山玲子(著述家、プロデューサー)

    ルグランの有名曲たちのほとんどは短調。マイナーコードでありながら、自由なメロディーの跳躍と官能的なアレンジで、すれ違い、届かぬ気持にため息をつく恋愛状態を思い起こさせる。言葉にすると「切なさ」ですかね。これ、実は今のJポップには全く無い感覚。(アチラには悲しさと辛さはてんこ盛りですが)だから、私たちは渇いた喉を潤すように彼の音楽に溺れるのです。


『ミシェル・ルグラン クロニクル』
(立東舎)

濱田高志(はまだ・たかゆき)

アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは500タイトルを数える。ミシェル・ルグランからの信頼が厚く、1995年以降、日本の窓口を担当。彼に関する書籍/CDの大半を監修するほか公認の著書も執筆。

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