栄光のメンバーたちが再会を果たすジ・オリジナル・ジプシーズ"リユニオン"
photo by Henk Van Cauwenbergh
栄光の"ジプシー・キングス" 中心メンバーが奇跡の再会!
チコ・ブーチキー、カヌート・レイエス、ポール・レイエス、パチャイ・レイエス、 歴史を創り上げたメンバーが、チコ&ザ・ジプシーズを従え待望の来日を果たす。 昨年よりヨーロッパを席巻してきた迫力のギター・アンサンブルを賞味したい。
text = Kazunori Harada
「彼らからまた一緒にやらないかと打診された。そう言ってもらえたことが嬉しかったので、すぐに 快諾した。関係を修復するいい機会になっていると思う。2018年にアルバムを発表する予定だ」
もう半年以上も前になるが、ブルーノート東京のウェブでこのインタビューを見たとき、ぼくは驚きと喜びで飛びあがった(https://www.bluenote.co.jp/jp/news/8717/ 聞き手は服部のり子氏)。発言の主はチコ&ザ・ジプシーズを率いるチコ・ブーチキー、"彼ら"とはチコの古巣であるジプシー・キン グスの面々を示す。独立したチコがジプシーズを結成したのは1992年のことだ。「残っ たメンバーはジプシー・キングスの名前を継ぎ、私は魂を継承した」と、彼から直接聞いたことがある。
再会の予感がなかった、といえば嘘になる。2016年のチコ&ザ・ジプシーズ公演にジプシー・ キングスの一員カヌート・レイエスがゲスト参加し、場内を沸かせたことは記憶に新しい。だが9月24日から始まるステージには、さらにポール・レイエスとパチャイ・レイエスが加わるのだから気分は盆と正月。"ジ・オリジナル・ジプシーズ・リユニオン"とはよく言ったものだ。
偉大なジプシー音楽家たち
ジプシー・キングスは、スペインから南フランス に移ってきたジプシー・ファミリーであるレイエス一家とバリアルド一家によって結成された。フラメンコ、ラテン、ロック等を融合した情熱的な音作り(ジプシー・ルンバ)は不動の人気の源だ。器楽曲『インスピレ―ション』がテレビドラマ『鬼平犯科帳』(2016年まで放送)のエンディングに流れた時、誰もがジプシー・サウンドと時代劇の絶妙な相性に驚いたのではなかろうか。
20世紀のレジェンドでは、いわゆるマヌーシュ・スウィングの開祖としても知られるギター奏者ジャンゴ・ラインハルトが筆頭に挙がるだろう。旅芸人の両親がベルギーに滞在していた時に生まれ、独自の運指による狂おしいまでにメロディアスなギター演奏でファンを虜にした。映画『永遠のジャ ンゴ』(エチエンヌ・コマール監督)ではアルジェリア・ チェコ・イタリアの血を引く俳優レダ・カテブがこの天才に扮し、ナチスのジプシー迫害に立ち向かうジャンゴ像を描き出した。
日本では2008年に公開された映画『ジプシー・ キャラバン』(ジャスミン・デラル監督)は、ジプシー音楽のショウケース的一作。ルーマニア・クレジャニ村出身のタラフ・ドゥ・ハイドゥークス、スペインのアントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブル、(ロマの起源といわれる)インドからやってきた"マハラジャ"、ルーマニア北西部のゼチェ・プラチニ村で活動を開始した管楽器主体のユニット"ファンファーレ・チォカリーア"らのステージが楽しめる。ロマの家族のもとブルガリア王国のスコピエ(現・マケドニア)に生まれた大御所エスマ・レジェポヴァ("ジプシー・クイーン")のパフォーマンスには、オマーラ・ポルトゥオンドにも通じる"後光がさしている感"がある。上記アーティストの演唱をチェックしつつ、リユニオン公演を楽しみにするのも有意義であろう。
リユニオンを記念する新曲も披露か?
そこでステージの見どころだが、何しろ今回は8人ものギタリストが集う。チコ&ザ・ジプシーズの公演では、ギター奏者が横一列に並んで演奏するシーンも圧巻だった。さて、こんどはどういう配置になるのか。8本のギターが一斉にかき鳴らされたときのインパクトたるや、それがいかに圧倒的なものになるかはライヴを体験してのお楽しみというところだが、従来以上に、破天荒なまでに熱いジプシー・フィエスタが炸裂する夜になることは保証できたも同然だ。
もちろんセットリストも大いに興味をそそる。リユニオンを記念するポップな新曲『La Guapa』はいうまでもなく楽しみだが、『ヴォラーレ』『ジョビ・ジョバ』などは必ずプレイしてほしいところだし、『インスピレーション』の"泣き"も恋しい。オリジナル・メンバーが集まって大定番の楽曲を目の前で繰り広げる機会など、そうあるものではない。いくら期待してもお釣りが来る、そんな公演になること間違いなし!
『La Guapa [feat. Rio Santana]』
( ユニバーサル ミュージック)
- 原田和典(はらだ・かずのり)
- ジャズ雑誌の編集長を経て、2005 年に独立。新聞、 雑誌、ウェブ、CD ライナーノーツ等に寄稿を続ける。 著書に「世界最高のジャズ」等。ブルーノート東京の ウェブサイトにライヴ・レポート掲載中。