世界最高峰のジャズ・ギタリストであるメセニーは、1954年生まれ。ゲイリー・バートンのグループでデビューしたのが74年のことだから、プロとしてのキャリアは来年で45年になる。しかしメセニーは、未だに新しい試みに挑戦し続けている。オーソドックスなジャズ・ギタリストとしての活動、パット・メセニー・グループやユニティ・グループなどでのスケールの大きいサウンド、オーネット・コールマンやデレク・ベイリーなど前衛的音楽家との共演、ジョニ・ミッチェルやデヴィッド・ボウイといったロック・スターとのコラボレーション、リリカルなアコースティック・ギターの演奏、「自動演奏装置」オーケストリオンの試み......。どんなにキャリアを重ね、ジャズ・シーンの頂点に君臨しても、メセニーは常に若々しいチャレンジ精神を失わない。今回2年4ヶ月ぶりにブルーノート東京に出演するにあたっても、メセニーは２つの魅力的なユニットを用意してくれた。１つは"A NIGHT OF DUOS & TRIOS"。気鋭の女性ベーシスト、リンダ・メイ・ハン・オウと、イギリスのピアニスト、グウィリム・シムコックとの共演だ。そしてもう１つは、これが世界初演となる新しいプロジェクト"SIDE EYE" 。64歳になったメセニーが、若いメンバーとどんな新境地を切り開くのか、期待は高まる一方だ。

　公演の前半は"A NIGHT OF DUOS & TRIOS"と題されたプログラムだ。リンダ・メイ・ハン・オウはここ数年のメセニーとの活動をはじめ、さまざまなグループで活動している女性ベーシストだ。マレーシアに生まれ、オーストラリアで育ったリンダは、重厚な音色のベース演奏だけでなく、作曲家としての才能も高く評価され、今まで4作のリーダー・アルバムを発表している。ピアノのグウィリム・シムコックは、1981年イギリス生まれ。イギリス王立音楽院を最優等の成績で卒業し、ピアニスト、作曲家としてイギリスを中心に活躍してきた。5枚のリーダー作以外に、クラシック曲も数多く作曲している。また、ビル・ブルフォードのバンド「アースワークス」のメンバーだったこともある。この二人とメセニーは、ドラムのアントニオ・サンチェスを含むカルテットで2016年から活動しており、同年5月にはそのメンバーでブルーノート東京に出演した。ドラムレス編成で、トリオとデュオ（メセニーとリンダ、メセニーとシムコック、もしかしたらリンダとシムコック？）での演奏となる今回の公演は、より室内楽的で内省的なものになりそうだ。有能な作曲家でもあるサイドの2人の楽曲も演奏される可能性もある。また、シムコックはフレンチ・ホルン奏者でもあるので、ホルンの演奏が聴けるかも。

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　メセニーが寄せたコメントによると、この"SIDE EYE"はメンバーが決まったバンドではなく、メセニーが注目する若手ミュージシャンをその都度呼んで、彼らとの共演で新しい音楽を創造する「プラットフォーム」だとのことだ。メセニーは言う。「故郷カンザスシティの時代から、僕は数多くの先輩ミュージシャンたちに恩恵を受けて、自分の音楽を開発するプラットフォームを与えられてきた。最近自分が注目している若いミュージシャンたちに焦点を当てるプラットフォームを作ろうと思っている」

　今回選ばれたのは、ピアノ＝キーボードのジェイムズ・フランシーズとドラムのネイト・スミス。フランシーズはニューヨークの音楽大学「ニュー・スクール」を卒業して、クリス・デイヴのドラムヘッズやケンドリック・スコットのバンドなどで活動、ブルーノート・レーベルからリーダー作『フライト』を2018年10月にリリースした。ネイト・スミスは1974年生まれ。デイヴ・ホランドのバンドで注目され、クリス・ポッターや黒田卓也、アダム・ロジャースのバンドでも活動している。リーダー作も２枚あり、プロデューサーとしての側面も持つミュージシャンだ。今回の演奏は、エレクトリックでリズムを強調したものになりそうだが、2人とも音楽的な間口が広いタイプなので、展開は予断を許さない。

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11月25日（日）までに、本公演をブルーノート東京HPからインターネット予約された方のみ対象。詳しくは公演ページから。 ※画像のデザインは、多少現品と異なる場合がございます。