初出演! カミラ・メサ。ベールを脱ぐ才女の全貌
現代ジャズ界で注目を集める才女
ついにその全貌が明らかに!
パット・メセニーとも重なるギター・プレイと清らかかつ滋味深い歌声で知られるチリ出身のシンガー、ギタリスト、カミラ・メサ。最新作『アンバー』のレコーディングメンバーを伴い、ブルーノート東京に待望の初登場。
photography = Rachel Thalia Fisher
text = Kenichi Aono
自身の歌とギターに、ピアノおよびキーボード、ベース、ドラム、そして弦楽四重奏からなるアンサンブル「ザ・ネクター・オーケストラ」を配した最新アルバム『アンバー』が高い評価を得ているカミラ・メサ。チリ・サンチアゴ出身の彼女は、チリでジャズ、ポピュラー音楽系の大学に進学し、ヴォーカルを専攻。2007年にジャズのスタンダード曲でまとめたデビュー作『Skylark』を発表、2009年にビョーク「Isobel」のカバーを含む『Retrato』をリリースしたのち、ニューヨークに渡り、ニュースクール大学に入学する。
ニュースクール大学では、カート・ローゼンウィンケルと並び現代ジャズ・シーンで存在感を放つギタリスト、ピーター・バーンスタインらに師事し、ジャズギターを学んだ。2013年にはアーロン・ゴールドバーグ(ピアノ)、パブロ・メナレス(ベース)、クラレンス・ペン(ドラム)、ジョン・エリス(サックス、バスクラリネット)という名うてのミュージシャンとともにミニアルバム『Prisma』を録音。このアルバムは、楽曲面こそ前作同様、ジャズやブラジルの名曲カバーにとどまるものの、演奏力は飛躍的に向上し、のちの特徴的な演奏スタイル─ギターのフレーズとスキャットのユニゾン─のベースがこの作品で築かれたことがわかる重要な一枚である。
自作曲で花開いた圧倒的な個性
『Traces』以降のカミラ・メサ
チリ時代に録音した2 作は、綺麗にまとまったジャズ・ヴォーカル・カバー集という印象を拭えないが、前述の通り『Prisma』では演奏力が向上し、「ギタリストの作品」という色合いを濃くしたのと同時に、ヴォーカルの表現力もぐっと高まりを見せた。そうして育まれた個性は2016年のアルバム『Traces』で大きく花開くことになる。このアルバムがそれまでと大きく異なるのは、オリジナル曲を収録している点。全10曲中5曲が自作曲である。カバー曲ではジャヴァンの「Amazon Farewell」や、これまでも何度となく取り上げているチリ・フォルクローレの代表的シンガーソングライター、ビクトル・ハラの「Luchin」などがピックアップされている。
デビュー作および2作目で顕著だったジャズの亡霊とでもいうべき狭義のジャズのムードから解放されて、ジャズ本来の自由さと先進性を存分に表現したこのアルバムでは、とりわけ現代的にアップデートされたリズムと、チェロを配した室内楽的なアプローチが新鮮だが、前作でその片鱗を覗かせた、ヴォーカルパートからスキャットとギターのユニゾンへと滑らかに移ってゆく演奏スタイルが確立され、歌、演奏面でのオリジナリティが発揮されているのも大きな特徴といえるだろう。なお、このアルバムには近年のイスラエル・ジャズ人気を支えるピアニスト、シャイ・マエストロが参加しており、サウンドに個性を与えるのに一役買っていることを申し添えておきたい。
完成度の高いアンサンブルに遊ぶ
伸びやかなヴォーカルとギター
さて、今回の来日公演は最新作『アンバー』のアンサンブルを踏襲したものだ。ピアノとキーボードにエデン・ラディン、ベースはノーム・ウィーゼンバーグ。両者はいずれもイスラエル・テルアビブ出身で現在はニューヨークを拠点に活動し、この1、2年でそれぞれ初のリーダー作をリリースしている注目株である。ドラムスとパーカッションにはグラミー賞受賞歴もあるブルックリンのバンド「スナーキー・パピー」のメンバー、小川慶太で、この3名は全員アルバム録音にも参加している。アルバム中の弦楽カルテットは、ニューヨーク在住のジャズ・ヴァイオリニスト、大村朋子を含む面々だったが、本公演では松本裕香、鈴木絵由子(ともにヴァイオリン)、惠藤あゆ(ヴィオラ)、橋本歩(チェロ)という布陣。いずれも今後の活躍が期待される気鋭の演奏家たちだ。
演目も『アンバー』からの曲が中心だろうから、収録内容に少しだけ触れておくと、まず、チェロを導入した前作の室内楽的アプローチがストリングスカルテットの導入によりさらに明確になり、サウンド全体の表情が実に豊かになった。これはアルバムの1曲目「Kallfu」を聴けば明らかだろう。ストリングス・アレンジは全篇ベースのノーム・ウィーゼンバーグ。曲の持ち味を拡張するいい仕事である。独自の視点で選ばれるカバー曲の中から1曲挙げるならば、デヴィッド・ボウイとパット・メセニーの「This Is Not America」だろうか。原曲は映画『コードネームはファルコン』のサウンドトラックだが、より慈しみ深いアレンジが心をうつ(ちなみに『コードネームは~』では1973年のチリ・クーデターへのCIAの関与について触れている場面がある)。
アルバム・デビューから10年ほどの時を経てたどり着いたカミラ・メサ&ザ・ネクター・オーケストラは、彼女の表現の一つの完成形といえそうなもの。絶妙なアンサンブルにのる、透明感のあるボーカルと自在に歌うギターに間近で触れれば、心に清々しい秋空が広がるはずだ。
その魅力はナチュラルでサウンドと一体化した伸びのあるヴォーカルと圧巻のヴォイス・コントロール、またカート・ローゼンウィンケル以降のモダンかつ飛翔感ある自在なギターと言える。イマジネーション豊かな楽曲の数々もさることながら、ここ数年はザ・ネクター・オーケストラを率いた活動で新たな領域に踏み入り、新作ではその成果が想像以上のものとなって表現されている。今回も4人の弦楽器奏者が揃うオーケストラとのアンサンブルに期待が高まる。
『アンバー』
(コアポート)
青野 賢一( あおの・けんいち)- ビームス創造研究所クリエイティブディレクター、 BEAMSRECORDS ディレクター。文筆家として『ミセス』(文化出版局)、『CREA』(文藝春秋)などに連載を持つ。DJのキャリアは今年で32年。
公演に向け、期待高まるコメントが到着!
彼女の音楽には引力がある。底抜けに明るい曲から息をのむようなドラマチックバラードまで、心こもった彼女の演奏にいつもグインと引き込まれます。歌だけでなくそのギターの腕前も超一級品!長年演奏してきたバンドメンバーとの来日、そしてスペシャル弦楽四重奏との共演で最新アルバム曲も堪能できること間違いなし。どうぞご期待ください。
挾間美帆(作・編曲、ピアノ)
カミラ・メサはあらゆる音楽に完璧に寄り添いつつ、共演者と聴き手を幸せにするアトモスフィアを場に漂わせる稀有な音楽家だ、まるで「音楽」そのものが人のかたちをして天から舞い降り、歌を歌ってギターを弾いているようなカミラにとって、ザ・ネクターオーケストラは理想のユニットなのだと思う。
村井康司(音楽評論家)
姉のフランシスカ・メサもシンガーであるチリ出身のカミラ・メサ。ニューヨークのジャズ・シーンに飛び込んで、ギタリストとしてもヴォーカリストとしても脚光を浴びるようになった彼女だが、何より魅力的なのはジャンルの境界を溶かしていくマジカルな感覚で、そこにはどこか中南米的なサイケデリアを感じることが多い。ミニマルなストリングスと6/8のラテン・ビートが絡む最新作の冒頭などは、キューバ出身のフェビアン・アルマザンとのコラボレーションを経て、完全に新しい世界に突入した感がある。危ういくらいにプログレッシヴな彼女の現在進行形が、ストリングスとの共演となる今回のライヴでは体感できそう。とても楽しみだ。
高橋健太郎(音楽評論家)
ジャズにおけるアンサンブルの面白さがどんどん進化している近年のシーンで、その声とギターのコンビネーションでカミラ・メサへの注目度は目に見えて増している。様々なアーティストがカミラの声とギターを求める状況を経て、彼女はその経験と開花したポテンシャルを自身の作品に鮮やかに落とし込んで見せた。それが『Ambar』だ。ギターや管楽器、弦とも溶け合う彼女の声がストリングスと共演する機会を生で観られることを僕は切望していた。チリ特有の3拍子を織り込んだリズムをスナーキー・パピーでもお馴染みの小川慶太や、(シャイ・マエストロ・トリオにも抜擢された)イスラエル出身の注目の若手ノーム・ウィーゼンバーグが形にする。ミルトン・ナシメントやカエターノ・ヴェローソの愛唱歌を歌うカミラにも期待が膨らむが、アルバムでのサウンドをそのまま体感できるwith Stringで聴かれることが僕は楽しみでしょうがない。
柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
CAMILA MEZA & THE NECTAR ORCHESTRA
カミラ・メサ & ザ・ネクター・オーケストラ
2019 9.9 mon., 9.10 tue.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:20pm Start9:00pm
公演詳細はこちら → https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/camila-meza/