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リムデン、解き放たれた封印のその先へ

リムデン、解き放たれた封印のその先へ

北欧ジャズの重要人物が結成した特別なピアノ・トリオ

 "フューチャー・ジャズの神格"と称されるノルウェーの鬼才キーボード奏者ブッゲ・ヴェッセルトフトと、"新世代ピアノ・トリオの源流"を築いたスウェーデンの伝説的ユニット"E.S.T."のダン・ベルグルンド(ベース)、マグヌス・オストロム(ドラムス)によるピアノ・トリオ"リムデン"が始動。北欧ジャズの双璧と言うべき両者の邂逅が意味するものは。

text=Masaaki Hara

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 1998年にリリースされた『New Conception of Jazz: Sharing』によって、ブッゲ・ヴェッセルトフトの名は、ジャズのみならず、DJやクラブ・ミュージックの世界にも広く知られることとなった。当時、このアルバムについて彼にインタビューをした際に、「長いソロは退屈だし、エゴイスティックだ。もはやコードもそんなに多くを使わない」と、こともなげに答えたことが特に強い印象を残した。エレクトロニクスやプログラミングされたビートが生み出す、無駄を削ぎ落としたミニマリズムと反復性に、卓越した演奏技術を持つミュージシャンも惹かれていた時代だった。



 ジャズ・ミュージシャンの父親のもと、ブッゲは十代でプロとなり、ノルウェーの新世代のジャズ・ピアニストとして頭角を現した。しかし、彼が自身のレーベル"JAZZLAND"からリリースした作品は、ストレートなジャズではなく、クラブ・ミュージックのストラクチャーと生演奏が有機的に絡んだもので、当時はフューチャー・ジャズと呼ばれた。同じノルウェーのニルス・ペッター・モルヴェルやアイヴィン・オールセットらも近いサウンドを志向していた。

 その後、ブッゲはドイツのエレクトロニック・ミュージックのプロデューサー、ヘンリク・シュワルツとの共作で、ピアノとエレクトロニクスの更なる可能性を探る一方、近年はクラシックや民族音楽、ジャズ・スタンダードへのアプローチも見せてきた。それらで聴くことができるブッゲのピアノは、かつて否定した長いソロや多くのコードを少しずつ採り入れ始めているように感じられた。



 そして、ブッゲの新たなプロジェクトであるリムデンのデビュー・アルバム『Reflections and Odysseys』を聴いたときに、そのピアノの変化を確信した。それは、驚くほどエネルギッシュで、エモーショナルだった。これまで封印していたプレイ・スタイルが解かれたかのようだ。潜在していたブッゲの能力をリムデンが遂に引き出したのだと言うべきかもしれない。



 リムデンは、スウェーデンのピアニスト、故エスビョルン・スヴェンソンが率いたトリオ、E.S.T.のベーシスト、ダン・ベルグルンドとドラマーのマグヌス・オストロムと結成された。ゴーゴー・ペンギンが、スヴェンソンに捧げた「Seven Sons Of Björn」という曲を残しているように、スヴェンソンとE.S.T.が現在のジャズ・シーンに与えた影響は計り知れない。エレクトロニクスや音響空間を巧みに使いこなして、テクニカルなだけではない演奏を成立させた。それは、北欧ジャズの中で、ブッゲらが志向したものと双璧を成すと言っていい。

 それだけに、リムデンは特別なプロジェクトなのだ。ジャズからスタートしながら、未知のフィールドへと進んでいった両者が、リムデンでこうして演奏するのは何とスリリングなことだろう。




原 雅明(はら・まさあき)
音楽評論家。ringsレーベルのプロデューサーやLA発のネットラジオdublab.jpのディレクター、DJやホテルなどの選曲も務める。単著『Jazz Thing ジャズという何か』ほか。
https://www.ringstokyo.com

https://twitter.com/masaakihara

RYMDEN featuring BUGGE WESSELTOFT, DAN BERGLUND & MAGNUS ÖSTRÖM
リムデン featuring ブッゲ・ヴェッセルトフト、ダン・ベルグルンド & マグヌス・オストロム
2019 10.7 mon., 10.8 tue.

[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:15pm Start9:00pm
公演詳細はこちら → https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/bugge/

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