カクテルにあふれるモンティ・アレキサンダーの叡智
[MONTHLY BEST CHOICE | SPECIAL MARCH MENU]"ワンナイト"から広がる、とっておきの話
ジャマイカが生んだ偉大なジャズ・ピアニスト、モンティ・アレキサンダーがカリブの風を運んでくれました。アーティスト自らがネーミングする当店"名物"ワンナイト・カクテルは名盤『Rass』より"Yellow Bird"。 公演初日2月6日がボブ・マーリー生誕75周年ということもあって、カクテルを片手に自身の物語が語られました。
photography = KINYA OTA(MILD)
interview & text = Minako Ikeshiro
"Yellow Bird"の実物を手にして、「花が入っているの!きれいだねぇ」と笑顔を見せ、グラスを下から覗き込んで赤、緑、黄色の色彩の妙を眺めるモンティの表情は、無邪気そのもの。Yellow Birdと名づけたのは、彼自身です。「3色の色合いの中で、下の部分の黄色が鮮やかだったから "Yellow Bird"にした。まぁ、今回の公演ではやらないんだけどね」。「Yellow Bird」は、1974年のアルバム『Rass』の収録曲。やはりジャマイカを代表するギタリストであり、盟友のアーネスト・ラングリンを迎えた、ゆったりしたロックステディの要素を入れた曲です。46年前に作られた『Rass』ですが、ラージ・プロフェッサーやQティップなど、ヒップホップの大物プロデューサーたちがこぞってサンプリングし、レアグルーヴものの「定番」としても知られる作品です。
カリブ海を代表するお酒、ホワイトラムに砂糖、ライムジュース、ミントを加えたモヒートも、カクテルの定番。ブルーノート東京バーテンダー、五十嵐が「ジャマイカン・モヒートって言ってみたかったんです」と少し笑いながら説明した"Yellow Bird"は、その定番を大胆にアレンジ。ラム酒にりんごジュースの淡いイエロー、クランベリー・ジュースの赤、ミントの緑を組み合わせ、ライムと花が浮かべた華やかな仕上がりです。キューバ生まれのモヒートですが、実はジャマイカのリゾートホテルや、アップタウンのクラブでも人気があります。ジャマイカの人は甘党なので、名産のブラウンシュガーを入れるのが特徴。また、ラム酒をクランベリー・ジュースで割るのもポピュラーな飲み方なので、鼻腔をくすぐるフレッシュなミントの香りの先に甘味が広がる"Yellow Bird"は、舌の上だけ、キングストンまでひらひらと飛んで行くような気分になりました。
60年近くピアノを弾いているモンティに、長く活躍する秘訣を聞きました。「もう世界中を飛び回るような年齢じゃないんだけど......」とモンティ。ロン・カーターの写真(手元にあった本誌vol.213)を指差しながら、「ロンなんか年上だし、音楽に触れていると若くいられる」ときっぱり。お酒も週に1、2回は嗜むそう。最新作『ワレイカ・ヒル』のコンセプトも、伺いました。「セロニアス・モンクの、ワッキーな(wacky=奇抜な)メロディの中にカリブの島の要素を感じたんだ。それで、子どもの頃に近所から聴こえた、ラスタファリアンたちの太鼓の音を合わせてみた。ジャマイカのルーツ、ボブ・マーリーが持っていたスピリットとジャズを合わせたんだね」。その言葉の通り、今回のステージは4ヶ月間だけ同じ年になるボブ・マーリーの名曲をダブル・ドラムで再解釈した曲目を中心に、モンクの曲を挟む構成でしたが、違和感はありません。ボブの曲でもメッセージ性が強い「リデンプション・ソング」にあえてヴォーカルを入れず、ベースの演奏だけでボブのメッセージを表現するなど、モンティの並外れた曲への理解が伝わり、震えました。毎回、すばらしい演奏を披露する秘訣を尋ねると「音楽を通して、物語を語れることが大事だと思う。ボブ・マーリーの曲を弾いているときも、"ライブリー・アップ・ユア・セルフ"という歌詞を念頭において、そのスピリット、メッセージを弾いている」。チャーミングな素顔から、天才ピアニストの叡智がこぼれた瞬間でした。
3月1日よりオンメニュー!
2020年春の新ドリンクメニューよりオススメをご紹介
- Golden Pleasure
from DAVE KOZ & VALERIE SIMPSON
¥1,600(税抜)
ホワイトサングリア、シードル、グレープフルーツのスムースな飲み口。
- Sweetie!
from BILL FRISELL
¥1,500(税抜)
ペルノリキュールの香りが、ラズベリーの甘酸っぱさを引き立てる一杯。
- モンティ・アレキサンダー
- 1944 年、ジャマイカ生まれ。オスカー・ピ ーターソンの流れを汲む正統派ジャズ・ピアニストとしての活動や、アーネスト・ラングリン等ジャマイカ人ミュージシャンとの共演も。ラテン的なパワフルさと、一方で決して泥臭くない品格あるプレイが魅力。