青森の澄んだ空気と滋味あふれる食材。山海の幸を味わいつくす
青森の澄んだ空気と滋味あふれる食材。
山海の幸を味わいつくす
料理を作ることは、素材と対話すること。ブルーノート東京で8月から提供が始まったグランドメニューに、青森の食材を主役にした3品が登場。2022年初夏に訪れた青森県で出会った、豊かな自然が育む食材たち。暑い季節に涼感や心地よい刺激を運ぶ、シェフ渾身の料理をご紹介します。
photography = Jun Hasegawa
text = Tomoko Kawai
野性味と洗練、みずみずしさと凝縮感。
相反する要素を美しくあわせ持つ
「食べものが生まれ育った地に立つことで、アイデアが溢れ出す」と語るブルーノート東京シェフの畠山。自身も青森県出身。故郷の食材に触れる喜びと生産者への敬意を込めた、スペシャルな料理が完成しました。
三沢漁港から直送された平目を味わう「天然平目のカルパッチョ フロマージュブランと山わさび」は、フレッシュな前菜。平目はあえて数日寝かせ、旨味のピークでご提供します。厚めに切られた平目は程よい歯ごたえを残しながら、ねっとり濃厚。仕上げにまとわせる「津軽海峡の塩」のまろやかな塩味が平目の味わいを引き立たせます。添えられた緑の山菜は青森産の「みず」。昆布でマリネして、シャキシャキ食感に海の香りをプラスしています。酸味のあるソースに、山わさびの香りと刺激が小気味よいアクセントです。
青森が誇る地鶏「シャモロック」は一羽をすべて味わえるよう、伝統的なフランス料理「ガランティーヌ」に。シャモロックを丸ごと背開きにし、ラングスティーヌとドライトマトを巻き込みました。厚みのある皮をこんがりと焼き付け、エストラゴンのソース、オレンジのピュレと共に。力強い旨みと絶妙な弾力、噛みしめるとじわりと広がるコクを爽やかなソースが引き立てます。
「青森県産平爪蟹のフリット チョリソーと蟹味噌のディップ」は、夏に旬を迎える「平爪蟹」を殻ごと揚げた逸品。豪快に手で持って頬張ると、思いのほかやわらかな甲羅がパリリ。表面にまぶされた数種のスパイスがふわっと香り、濃厚な蟹肉と調和します。
青森の海と大地の雄大さと、そこで生きる人々のひたむきな思いが詰まった3品の料理はいずれも繊細で大胆、軽いのに濃厚。食材のもつさまざまな表情から、目が離せません。
※食材は時期や仕入れの状況により変更となる可能性があります
(右上から時計回りに)
青森県産平爪蟹のフリット チョリソーと蟹味噌のディップ / ¥1,600(税込)
天然平目のカルパッチョ フロマージュブランと山わさび / ¥2,800(税込)
青森県産シャモロックとラングスティーヌのガランティーヌ / ¥2,800(税込)
大いなる自然への敬意と愛情が、
食のいとなみへのエネルギー源となる
「青い森」という美しい響きをもつ青森県。本州の最北端で三方を海に囲まれた地形が、豊かな海の幸と山の実りをもたらしています。ブルーノート東京の食材探しの旅、精力的に生産者を訪れた2日間をリポートします。
2022年6月中旬。寒の戻りで冷たい風が吹く下北半島に降り立ったエグゼクティブシェフの長澤とブルーノート東京シェフの畠山。「駒嶺商店」を最初に訪れ、ウニの加工作業と塩作りを見学しました。真昆布を食べて育ったキタムラサキウニは、上品な甘みと磯の香りが特徴。「津軽海峡の塩」は、風間浦沖の地下海水を熟練の職人が薪火で炊きあげて作ります。海水が塩になる工程を初めて目にするシェフたちは、興味深く釜をのぞき込んでいました。
天然のきのこや山菜を探しに向かったのは、むつ市にある「下北カンブリア農場」。この時期は山菜の全盛期。ここでは収穫したてのミズ、ササダケ、根曲竹を試食しました。ゆでただけの山菜のみずみずしさと鼻に抜ける香りに感激。秋以降に採れるタマゴダケや松茸への期待も高まり、新メニューのアイデアがふくらみます。
太平洋沿岸の三沢沖は親潮と黒潮がぶつかり合う絶好の漁場。この地で漁師をしながら三沢市漁業協同組合などで三沢の魚の普及に努める白銀さんを訪ねました。用意してくれた平爪蟹は、繊細な蟹肉と濃厚な味噌の味が重なり合います。シンプルに茹であげ、豪快にかぶりつくのが地元流と聞き、さっそく実践するシェフたち。「現地ならではの食べ方を取り入れたメニューを作りたい」と目を輝かせました。青森が全国屈指の漁獲量を誇る平目。三沢漁港では出荷のタイミングから逆算して神経抜き活締めを施すことで鮮度を保ち、旨みを最大限に引き上げることができるそう。海で育まれた命を大切に届け、おいしく食べてもらうための工夫と心意気に感動しきりでした。
古くから畜産が盛んで「肉の町」とも呼ばれる五戸町で、20年の歳月をかけて開発された地鶏「青森シャモロック」。生産から加工までを手がける「グローバルフィールド」では、平飼いでじっくりと飼育しています。肉質はしっとり、噛みしめれば濃厚なコクがじわり。シェフ畠山は「一羽丸ごとをひと皿で味わえる料理は何だろう?」と料理人心を駆り立てられた様子。
「生産者に実際に会い、話を聞くことで食材への思いが変わり、作り出す料理も変わる」としみじみ語るエグゼクティブシェフの長澤。青森の気候風土が生み出す多彩な食材と、自然への敬意を忘れない誠実な作り手たちに感銘を受けた2日間。食の仕事に携わることの責任と喜びを再認識する旅となりました。
photography = Eiji Miyaji
1.塩作りの様子を見学。薪火で炊かれる塩水の釜を覗き込むシェフ長澤と畠山。2.キタムラサキウニのシーズンは8月上旬まで。磯焼けの影響で今年は漁獲量が少ないという。3.「下北カンブリア農場」にて収穫されたばかりのわらび。むつ市や八甲田山周辺などで収穫された天然物の山菜やキノコが持ち込まれる。4.ミズ、ササダケ、根曲竹を試食。柔らかくみずみずしい食感と豊かな香り。5.水蛸、平目、カワハギなど三沢港は新鮮な魚介の宝庫。6.三沢港の平爪蟹。甲羅にHマークがあるのが特徴。7.三沢市漁業協同組合の理事、白銀水産の代表でもある白銀さん。三沢の魚への熱い想いは尽きない。8.「グローバルフィールド」にて青森シャモロックの特徴を伺い、料理のイメージが膨らむ。