森の恵みを封じ込めた、豊穣の秋のひと皿。
[MONTHLY BEST CHOICE | SPECIAL NOVEMBER MENU]THIS MONTH'S SPECIAL MENU10種のキノコのマリネ 鶏ササミのフォンダン
ブルーノート東京の長澤シェフが日本各地で出会った食材をテーマに提案する今月のひと皿。
11月は信州・長野の「キノコ」を主役に、
日本有数のキノコ産地で巡りあった森の風景に想いを馳せながら、
晩秋の味覚と香りを封じ込めた季節ならではのひと皿を紡ぎます。
木立の音、森の風景と土の匂いに想いを馳せて
―ひんやり澄み切った空気。肌をしっとりと湿らす独特の湿度。頭上を行き交う木々のざわめき―。そんな森の風景や音に思いを巡らせながら長澤シェフが提案する今月のひと皿がこちら。日本有数のきのこ産地として知られる信州長野で出会った10種のきのこが主役のひと品だ。
シェフが今回訪ねたのは、野生のきのこが多く生息する長野県北部の菅平高原と、そこから南西へ約19km下った千曲(ちくま)市。市をあげてきのこ作りを推し進める、千曲川中流域に広がる里山である。甘シャキトラさん味えのき、とき色ひら茸、バイリング......、森の中で続々登場する珍しいきのことの出会いが創造性をおおいに刺激したとシェフはいう。「色、香り、食感、出会ったきのこはどれも個性が際立っている。正直驚きの連続でした。その素晴らしい風味をできるだけシンプルに味わってもらいたい思い、色や食感を損ねないマリネでの提案しました」。10種のきのこをシンプルに軽くポッシェしたあと温かい米酢に浸けて味を浸透させ、鶏のササミ肉のフォンダンでやさしい動物性の野生味を重ねる。砕いた胡桃と粒マスタード、仕上げに乾ししいたけでとった出汁のムースを添えて。森の恵みを凝縮させた、豊穣の秋のひと皿が完成した。
photography = Jun Hasegawa
CHEF
長澤宜久(ながさわ・たかひさ)
ブルーノート東京グループシニアシェフ。'91年に渡仏し三ツ星「ラ・コートドール」他、名店で経験を積む。'01年に帰国後、南青山「アディング・ブルー」、丸の内「レゾナンス」シェフ、2013年全店舗のシニアシェフに就任した。
《REPORT》 きのこ狩りの聖地・信州
長野で秋の味覚を巡る
日本有数のキノコ産地と言われる長野では、生産量が限られているために市場には多く出回ることのない希少なキノコが多種栽培されている。
シェフが完成させた生産者へのオマージュとも言えるひと皿。
インスピレーションのルーツをたどります。
今回シェフが訪ねた信州・長野は、きのこ好きにおけるきのこ狩りの聖地。野生のきのこはもとより、希少なきのこを栽培するするために種菌づくりから自社で行う生産者も多いことでも知られている地域だ。まず、最初に訪ねた菅平高原では、天然のきのことの出会いを求めて「やまぼうし自然学校」の経験豊富なガイドさんの案内で森を巡る。チャナメツムタケ、ハナイグチ、シロヌメリイグチ、見たことも聞いたこともない名前だが、どれもれっきとした食用のキノコである。
続いて訪ねたのは、人工的に種菌を交配させて珍しいキノコを栽培するふたつの生産者。菅平高原のふもとの長閑な環境に農場を構える「キノコ村」と、そこから南西へ車で約40分ほどの距離にある千曲市の「きのこ王国」だ。野生種えのきと白えのきを交配させた「甘シャキトラさん味えのき」。トキの美しい翼の色に似ていることから名付けられたという「とき色ひら茸」。アガリクス茸の約3倍ほどのβグルカンを含むと言われる「高原山伏茸」。続々登場する強者キノコとの出会いに自ずとシェフのテンションも上がる。他にも、高原バイリング、柳まつたけ、高原ひらたけ、王国超ジャンボしめじなど、色、形状、風味、食感の異なる個性豊かなきのこを計10種ピックアップし、それぞれの森の風景や音・土の匂いなどをたどりながら、希少なきのこづくしのひと皿が完成した。そして、(言うまでもなく)地のものには地のワインを。ソムリエが提案するのは、長野が誇るワインの作り手「小布施ワイナリー」のプレミアムワインだ。旬のマリアージュ、この組み合わせを味わえるのは「今」だけ、である。