本州最北端より、"春の香り"をお届けします。
[MONTHLY BEST CHOICE | SPECIAL APRIL MENU]THIS MONTH'S SPECIAL MENUフライドライスと野辺地帆立のソテー、
大鰐温泉もやしと季節の野菜添え
ブルーノート東京・長澤宜久シェフが日本各地の生産者を巡りながら、
食材との出会いをひと皿に紡ぐ「MONTHLY BEST CHOICE」。
今月は本州最北端の地・青森へと足を伸ばし、長く厳しい冬を越えて育まれた、
力強くもはかない春の香りを"無国籍風フレンチ"にてお届けします。
「帆立×温泉もやし×フレンチの技」の意外なる融合
「青森」と言えば、海と山、肥沃な大地が目に浮かぶ。自然の恵みをフルラインナップしたこの土地では言うまでもないことだが、美味なる食材との出会いは数多におよぶ。今回その青森で、山から海へと直線で結ぶこと約90㎞を旅した長澤シェフ。様々な食材との出会いを経て選んだのは、陸奥湾が誇る「野辺地帆立」と、大鰐温泉秘伝の伝統野菜「大鰐温泉もやし」である。"帆立ともやし"とは、少々意表を突く組み合わせだ。
まず大鰐温泉もやしは、ウルイ、セリなど春の山菜とともにオリーブオイル・塩で和え、その繊細な香りと歯ごたえを逃がさぬよう真空調理。これを皿の中央にたっぷり敷き、バター多めに炊いたピラフの表面をカリッと焼きあげた食感香ばしいフライドライスをのせる。その上には、ミネラル感や甘みをふんだんにたたえた旨みたっぷりの野辺地帆立のソテー。
仕上げには、ホタテ貝柱のジュ(出汁)にクコの実、朝鮮人参、ジンジャー、デーツを入れてひと煮立ちさせた、まるで参鶏湯のような旨みあふれるソースをたっぷり注ぐ。手前と奥には、大鰐温泉もやしの「室」にインスピレーションを得てシェフが考案した「竹炭とひじきのパウダー」を添えた。青森の海と山、春の香りに満たされる "無国籍風フレンチ"の完成である。
photography = Jun Hasegawa
text = Akari Matsuura
CHEF
長澤宜久(ながさわ・たかひさ)
'91年に渡仏し三ツ星「ラ・コートドール」他、各店で経験を積む。帰国後、'01年南青山「アディング・ブルー」、丸の内「レゾナンス」シェフ、2013年全店舗のシニアシェフに就任した。
《REPORT》 春の香りを求めて、
北の"食材の宝庫"へ
鉞(まさかり)の形をした下北半島と大きく突起した津軽半島、その間に陸奥湾をかかえたユニークな地形。料理人の心を躍らせる「食材の宝庫」としても知られるこの地で、長澤シェフはどんな旬菜と出会ったのだろう。
その独特な地形から、海・山・里の魅力を一身に抱き込む本州最北端の地・青森県。今回、シェフがまず足を向けたのは、津軽半島の基底部分にある南津軽郡・大鰐町(おおわにまち)。350年以上前から栽培されていたという津軽藩ご用達の伝統野菜「大鰐温泉もやし」の生産者を訪ねた。
作り方は代々継承され、一切口外されることがない秘伝の温泉もやし。現在その栽培を担うのは、「大鰐町もやし組合」に加盟する6名の生産者のみだ。無化学肥料・無農薬、独自ブレンドの土で室(むろ)を作り、天然の土栽培にこだわる。約30㎝にもおよぶ丈で収穫するこのもやしは、水耕栽培では得られない繊細な食感と香りが実に印象的。地元では春、山菜と和える郷土料理などで楽しむことができる。
続いて訪れたのは、下北半島の根っこの部分に位置する野辺地町。2つの半島に抱かれた内海・陸奥湾を誇る野辺地港だ。全国第二位の生産量を誇る陸奥湾で養殖された「野辺地帆立」は、口の中でとろけるような食感と豊富なミネラル感、引き立つ甘みでインパクトを放つ。産卵後の初夏と、冬から春にかけての産卵前、2度の旬が味わえる。
野辺地の帆立養殖の特徴は、まず陸奥湾の親貝から生まれた幼生を集めて、稚貝として育てた後に、貝の耳部分に小さな穴を開けてあらためて耳吊り養殖を行うこと。10もの細かな段階を踏みながら約3年、人間が手間をかけつつも自然の恩恵をたっぷり受けて育つことから、"半天然帆立"とも称される。
「内海の穏やかな海で育った野辺地帆立は味質がやわらかい。繊維に沿って縦に切ると甘みがより一層際立つさ」。漁師の話に耳を傾けると、料理のインスピレーションがじわじわと膨らみはじめた。
photography = Toshiichi Narumi
text = Akari Matsuura