冬の名残、石川の旬をバーガーで
[MONTHLY BEST CHOICE | SPECIAL NOVEMBER MENU]THIS MONTH'S SPECIAL MENU冬の名残、石川の旬をバーガーで
カジュアルながら、フレンチの技を緻密に重ね合わせた冬の名残(早春)の風味絶佳。ライヴ前の高揚感を煽るように、
ボリュームたっぷりのバーガーにかぶりつく。そんなイメージで完成した3月のMONTHLY BEST CHOICE。
石川県は加賀・能登の旅で出会った食材をもとに、「ブルーノート東京」長澤宜久シェフが提案する。
サクッ。ふわっ。脂をたたえた旬の鱈にかぶりつく
越冬中の能登半島・七尾の漁港で、長澤シェフが出会った日本海の旬は"真鱈"。
「フレンチではよくポワレしますが、この時期ならではのやわらかい身質と脂の旨みを際立たせるには、フリットするのが1番おいしい食べ方なんです」。旬の鱈のおいしさそのものをダイレクトに味わって欲しいと、シェフは石川で出会った食材を繊細かつダイナミックに抱き合わせる。真鱈の旨みに丸ごとかぶりつくイメージで考案したひと皿は、「加賀能登食べるバーガー」と名付けられた。
鱈の上にはホタテと白身魚のすり身をのせ、スライスアーモンドとパン粉を合わせた薄い衣を纏わせて高温でカラリと揚げる。熱々のうちに自家製の甘辛ソースにくぐらせ、バルサミコと蜂蜜でさっと炊いた加賀れんこんと山葵のピリリ感、バジルの爽やかなアクセントを重ねる。さらに厚切りトマトで旨みと瑞々しさを加え、具材を「これでもか」と重ね合わせて完成する。
東京ではまだ希少な県特産の伝統野菜「加賀丸いも」のビールマリネも小気味よい間の手を入れ、サクッ、ふわっ、シャキシャキ、ひとくちごとに異なる食感・風味が口の中を巡る。最後のひとくちまでただただ夢中でかぶりつきたい、贅沢極まりない加賀・能登・冬の名残のコンピレーションだ。
photography = Jun Hasegawa
text = Akari Matsuura
CHEF
長澤宜久(ながさわ・たかひさ)
'91年に渡仏し三ツ星「ラ・コートドール」他、各店で経験を積む。帰国後、'01年南青山「アディング・ブルー」、丸の内「レゾナンス」シェフ、2013年全店舗のシニアシェフに就任した。
《REPORT》海の恵み、山の恵み、石川の旬を巡る旅。
北陸の冬は長い。その長さ・寒さゆえに、"冬の名残"と"春の走り"の食材は緩やかに重なり合う。入り組んだ地形ゆえの豊富な魚介類と、滋味あふれる加賀野菜。この時期ゆえに味わえる、加賀・能登の「旬のおいしい」を巡った。
冬の朝、石川県小松空港からまず目指したのは、能登半島の中ほどに位置する七尾市。街が誇る良港には厳冬の富山湾と山々に囲まれる七尾湾で獲れる豊富な魚介類、朝獲れの近海魚が集まる「七尾市公設市場」がある。さっそく朝の競りを見学。「おさしみ直送便」でその名を知られる「川端鮮魚」川端海富理さんのアテンドで場内を巡った。
「この時期の旬と言えば、真鱈(マダラ)です。冬場には産卵のため水深200~500mの海底から沿岸へとやってきます。海底でしっかり栄養を蓄えたこの時期の真鱈は、言うまでもなく美味ですよ」と川端さん。地元では鍋の主役に欠かせない魚だが、おそらく最高においしいフィッシュ&チップスになるだろう。また雄の白子はクリーミーで濃厚。雌の真子は「子付けのお刺身」として能登を代表する冬の珍味となる。
翌朝訪れたのは、金沢市北部・河北潟干拓地でれんこん畑を営む「北ファーム」。この時期に旬を迎える加賀野菜「加賀れんこん」は、でんぷん質が多いため粘り気が強く、滋味豊かな力強い食感にインパクトがある。能美市の岡元農場で初めて味わったのは、地元特産の伝統野菜「加賀丸いも」。「加賀丸いも」は"地理的表示(GI)保護制度"のもとに登録される地域特産物のひとつで、食感は長芋に近いが、独特の粘りと栄養の素となっている"ムチン"は長芋のそれを上回る。水分量が多いため採れたては瑞々しく、収穫後1年ほどの熟成を経ると濃厚な味わいに変化するという興味深い食材だ。
この時期の加賀・能登の「おいしい」は冬場ならではの豊かな風味と栄養をたたえ、言うならばこの時期だからこそ味わえる最高の贅沢となる。長澤シェフのフレンチの技とアイデアとの融点は、思いもよらぬワイルドなひと皿へと展開する。
photography = Kota Yamada
text = Akari Matsuura