とうもろこしのサイフォンでふわり、とろける「あつぎ豚」
[MONTHLY BEST CHOICE | SPECIAL JULY MENU]THIS MONTH'S SPECIAL MENUとうもろこしのサイフォンでふわり、とろける「あつぎ豚」
今月のひと皿の主役は、おいしいと評判の豚肉の産地・神奈川県厚木市で出会った「あつぎ豚」。
特徴はふっくらジューシーでやわらかい赤身と、キレがよく甘みのある脂身。
その魅力を最大値引き出した、長澤シェフの真骨頂を感じさせるひと皿が完成した。
融点ギリギリの火入れと、醪醤油の香りがサイフォンで融合する
ほどよくサシが入った赤身と、さらりと口どけ良く甘み豊かな脂。なかでも"脂のおいしさ"を追求した「あつぎ豚」の魅力をフルに表現するには、"脂も丸ごと愉しめる料理"に仕立てなければならない。シンプルなようで、なかなかの難問と対峙した長澤シェフ。一般的な豚肉より低いあつぎ豚の脂の融点も計算しつつ、肉の部位や厚み、調理法などの試作を重ね、遂に到達したのは、約1.8mm厚にスライスしたロース肉。「すき焼き肉を卵にくぐらせた、あの食感をフレンチで再現したい」と、融点ギリギリ。口の中でふわりととろけるような絶妙な食味を目指した。
醪醤油でひと晩マリネし、柔らかさをさらに際立たせた肉は低温真空調理でゆっくりと火を入れ、軽くローストする。下に敷く白茄子のローストは、豚肉の旨みを吸った醪醤油で風味付けする。醪が醸す奥深い香りと、旨み成分グルタミン酸をふっくらたたえたあつぎ豚。ふわりと包み込むのは、きめ細かく泡立てたとうもろこしのサイフォンとジュー・ド・ポーだ。エアリーなサイフォンで包み込むことで肉の旨みが際立ち、まるで雲の上にいるような幸せな食味を実現する。脇に添えたのは「こだわりカボチャ」のニョッキと、大地をイメージしたカカオのクランブル。旅で出会った原風景を丁寧に重ね合わせた、「あつぎ豚」に捧ぐひと皿だ。
photography = Jun Hasegawa
text = Akari Matsuura
CHEF
長澤宜久(ながさわ・たかひさ)
ブルーノート東京グループシニアシェフ。'91年に渡仏し三ツ星「ラ・コートドール」他、各店で経験を積む。帰国後、'01年南青山「アディング・ブルー」、丸の内「レゾナンス」シェフ、2013年全店舗のシニアシェフに就任した。
《REPORT》神奈川の豊かな土壌が育む"山の幸"を訪ねて
西部には丹沢山地や足柄山地・箱根山などの緑が連なり、南東部には湘南の海が広がる神奈川県に到達する。自然豊かな土壌を体感しながら、丹沢の麓・厚木市で養豚を営む生産者と、三浦丘陵の麓で三浦野菜を育てる作り手たちを訪ねた。
古くから養豚が盛んだった神奈川県厚木市。30年前には300軒もあった養豚業者が今ではたった3軒に減少したが、その歴史が紡いだ良質な豚は今でも健在だ。今回訪ねた臼井農産は、恩曽川沿いに構える3つの豚舎で約4,000匹を飼育。"繁殖から加工まで"を一手に手がける「あつぎ豚」は、日本の名水100選にも選ばれる丹沢の豊かな水脈と、100%自家ブレンドのえさで丁寧に育まれている。豚舎を案内していただいた代表取締役の臼井欽一さんによると、適度にサシが入ったやわらかい赤身と、さらりとしつつ甘み豊かな脂の秘密はその"えさ"にあるという。小麦・大麦をベースに、とうもろこしや大豆、蕎麦粉やビールのモルトなど、食品メーカーの製造過程で生まれた約20種類のフードロスを買い取って自家ブレンドするえさは、「豚たちが食べておいしい風味」に配合。母豚のえさはさらにビタミンやミネラルを強化し、生まれたての子豚期にはしっかりと母豚の母乳で育てられる。特に脂のおいしさを追求して育てられたあつぎ豚の脂は、すっきりと雑味がなく甘い。「脂を食べてこそ」分かるあつぎ豚の魅力は「今月のひと皿」で詳細を記すとしよう。
港町としても知られる横須賀市は、スイカや大根など三浦野菜の産地としても有名だ。三浦半島の農水産物の大型直売所「すかなごっそ」店長・塚原さんに案内していただいた畑では、「三浦かぼちゃ」がちょうど収穫の時期を迎えていた。平均は約1.5kg。大きいものでは2.5kgほどのものもある。ホクホクと豊かな甘みはどんな世代にも愛される味だ。ともに『かながわブランド』に登録される「あつぎ豚」と「三浦かぼちゃ」。神奈川の豊かな土壌が叶える食のハーモニー。7月の「ブルーノート東京」でぜひ味わってみて欲しい。
photography = Jun Hasegawa
text = Akari Matsuura