季節を先取り、春のスペシャリテ
[MONTHLY BEST CHOICE | SPECIAL MARCH MENU]THIS MONTH'S SPECIAL MENU季節を先取り、春のスペシャリテ
雪解けとともに芽吹きはじめる木々のかおり。少しずつ、やわらかな春の兆しを感じる萌黄の候。
ブルーノート東京では、「須永農園」で出会った力強い味わいの野菜を主役に、
春を待ちわぶ想いをこめた、スペシャルなひと皿が完成しました。
"農園"から直送! ファーマーのこだわりが詰まった野菜を、たっぷり味わう
前菜、サラダ、スープ、メイン料理のガルニと、フランス料理において欠かせぬ存在の美味なる野菜たち。2月某日、朝からの積雪に一時訪問も危ぶまれた「須永農園」に長澤シェフは無事到着。農園の16代目須永慎一郎さんとともにめぐった畑では、目にも舌にも力強い春の到来を感じさせる、風味豊かな野菜との出合いが待っていました。
シェフの頭にまず浮かんだのは、色とりどりの野菜を贅沢に融合したボリュームたっぷりのファーマーズサラダ。ひとつひとつ存在感のある野菜の風味を、フレンチの小ワザを効かせつつもできるだけシンプルに味わってもらいたい。その思いを須永さんに伝えて選んだ野菜は、赤辛子菜、紫カリフラワー、マイクロラディッシュ、フヌイユ、姫にんじん、紫白菜など、全10種超。さっと塩とオイルをかけるだけでも十分楽しいサラダをさらに楽しく。長澤シェフならではのこだわりも融合させます。
中央には雪解けをイメージしたマスカルポーネチーズ、サラダのベースにはフェタチーズを。さらに旨みたっぷりのトマトとおからで作ったディップ、BIOのマスタードとグアンチャーレをのせ、最後はハニーマスタードのビネグレットで仕上げました。混ぜ合わせると、ひと口毎に野菜の旨みや食感が楽しげに展開する、早春限定のひと皿、完成です!
photography = Jun Hasegawa
text = Akari Matsuura
CHEF
長澤宜久(ながさわ・たかひさ)
ブルーノート東京グループシニアシェフ。'91年に渡仏し三ツ星「ラ・コートドール」他、各店で経験を積む。帰国後、'01年南青山「アディング・ブルー」、丸の内「レゾナンス」シェフ、2013年全店舗のシニアシェフに就任した。
《REPORT》畑の上で共鳴しあう料理人とつくり手の夢
生産者をめぐり、そのこだわりや環境・風土をレポートする本企画も2018年がスタート。今回は都内の名店が絶大な信頼が寄せる「須永農園」を訪問。その人気の裏付けは、ただただ"食べておいしい"を求めるシンプルなスタンスにありました。
料理と向き合うこと=つくり手たちと向き合うこと。食の根本を見つめ直す学びの場としてスタートさせた生産者めぐりを、今年もさらに力を注いでいきたいと語る長澤シェフ。今回、シェフが厨房チームとともに訪ねたのは、埼玉県鴻巣市の「須永農園」です。江戸時代より苗業を営む由緒ある農家で、今回お会いした須永慎一郎さんで16代目。種から育む栽培スタイルは、江戸後期から脈々と受け継がれてきたもので、現在は多品目の西洋野菜を中心に栽培。主な卸先は都内のホテル、フードフロアに注力する百貨店、デリカテッセンを軸に店舗を展開するフードブランドなど、いわゆる「注文のうるさい」こだわりの店々ばかり。育苗は、天候によっては分単位での管理が必要なためとてもデリケートだと須永さん。手がかかる苗屋はなかなかやり手が増えないのが現状だと言います。
野菜づくりを通じて1番大切にしていることは?との問いかけに、迷わず"バランス感覚です"と答える須永さん。「当たり前のことですが、食べておいしいこと。いくら有機肥料にこだわっても、おいしくなければ作り手のエゴになってしまいます」。どんな野菜をどんなサイズや状態で使いたいのか、"シェフとの密なコミュニケーション"も欠かせない要素だと微笑みます。
"おいしい野菜の味"をシェフたちの腕を介して伝えていきたいと願う須永さん。その須永さんにしきりに質問をぶつけていた長澤シェフ。「たとえば、"今度サラダにブロッコリーの新芽を使いたい"、なんて、普通だと言い出しにくい細かなオーダーも心おきなく相談できる。洋服でいえばオーダーメイドで自分のイメージしていた洋服を仕立ててもらうのと同じ感覚ですよね」と感動しきり。数年前より温めている「ブルーノート東京の畑をもつ」という夢も、遠くない将来実現できるかもしれません。
photography = Koji Yamano