「虎千代鶏」の極み、ここにあり。
[MONTHLY BEST CHOICE | SPECIAL APRIL MENU]THIS MONTH'S SPECIAL MENU「虎千代鶏」の極み、ここにあり。
長い冬がまだ明けぬなか、長澤シェフが訪れたのは、豪雪地帯としても知られる新潟県長岡市。
ここで出会った食材のひとつが「虎千代鶏(とらちよまる)」です。旨み豊富でぷりぷりとした食感、青森のシャモロックにも似た風味豊かな地鶏を主役に、2018年春の新メニューが完成しました。
にいがた地鶏の魅力をぎゅっとつめた、鶏料理好きのためのひと皿。
パリパリッと香ばしく焼き上げた皮目と、口中でほど良く弾力を感じさせるしっとりとした肉質。鶏肉料理において"鉄板ルール"ともいえるこの黄金比をより一層際立たせたようなひと皿が、この春よりブルーノート東京のグランドメニューに登場します。「虎千代鶏のポワレ スパイスの香り」は、長澤シェフが新潟県長岡市で出会った県産食材「虎千代鶏」の繊細な旨みや力強い肉質を、低温での火入れで丁寧に引き出したひと品。その食味は「青森のシャモロックにも似ている」と長澤シェフが言うとおり、まるで軍鶏のような弾性に富んだ歯ごたえが特徴的で、ストレスフリーのゆったりとした環境で平飼いされていた証ともいえる肉質は脂身は少なく、繊維が細かくてヘルシーな味わい。長澤シェフは、その繊維をほどよく開くためにひと晩マリネし、モモとムネ肉を部位ごとに低温調理。フランス、マルタン・プーレのシェリービネガーと穀物酢、砂糖、塩、しょうゆなどで香り豊かに、ほんのり照り焼きのニュアンスも感じさせる風味に仕上げました。
パリパリッと焼き上げた皮目には、コンディモンとして添えたロックフォールチーズのムースリーヌや、シトロンキャビアの弾ける柑橘香を添えて。噛みしめる毎に旨みあふれる、にいがた地鶏の"極み"をご堪能ください。
photography = Jun Hasegawa
text = Akari Matsuura
CHEF
長澤宜久(ながさわ・たかひさ)
ブルーノート東京グループシニアシェフ。'91年に渡仏し三ツ星「ラ・コートドール」他、各店で経験を積む。帰国後、'01年南青山「アディング・ブルー」、丸の内「レゾナンス」シェフ、2013年全店舗のシニアシェフに就任した。
《REPORT》新メニューに込められた歴史に紐づくストーリー
今回のフードレポートはブルーノート東京のグランドメニュー春夏リニューアルも見据え新潟県長岡市へ。こだわりのあるお客様がわくわくするような新メニューを提供したい、そんな思いを胸にシェフの長澤と小川が生産者を訪問してきました。
ブルーノート東京の食材探しの旅。2018年早春に訪ねたのは、まだまだ雪深い豪雪地帯、新潟県長岡市。今回訪ねた幾つもの訪問先の中から、さっそく春のグランドメニューとして実現することになったにいがた地鶏「虎千代鶏(とらちよまる)」の産地は、長岡市中心部から東へ約18kmに位置する栃尾地域・菅畑(すがばたけ)にあります。春から晩秋にかけて、豊かな緑と長閑な農村風景が広がる菅畑は、県が誇る戦国武将・上杉謙信が幼少期を過ごした場所として知られる土地。「虎千代鶏」という名前は、ここで育った由縁で、謙信の幼名「虎千代丸」にちなんで名付けられたと言います。
そもそも、にいがた地鶏とは、新潟県在来の天然記念物「蜀鶏(とうまる)」に「名古屋種」「横斑プリマストック」を掛け合わせた在来種100%の地鶏のこと。その定義は、ふ化後28日齢以降は1㎡あたり10羽以下での平飼い(雄で90日齢以上、雌は110日齢以上の飼育期間)を経たものとされ、なかでも菅畑が誇る「虎千代鶏」は、地元でとれたコシヒカリを加えた良質な飼料で、きめ細やかな管理のもとにゆったりとした環境で飼育されています。
「持って生まれた良質な肉質を、より良いものにするための秘訣は、えさ、水、温度の管理を徹底することで、鶏に極力ストレスをかけないことです」と、鶏舎内をめぐりながら説明してくれたのは、「虎千代鶏」を提供する食堂「すがばたけ」経営者の一人でもある原 定幸さん。実際その肉質はぷりんと弾むような弾性に富み、細やかな繊維ゆえのしっとりとした食感と、臭みのない繊細な旨みにあふれています。
前出の食堂「すがばたけ」では、この虎千代鶏を使った親子丼や鶏の甘辛煮などが供され、中でも鶏ガラ出汁のスープの奥深い風味にはシェフたちも悶絶。その旨み豊かな虎千代鶏は、P.16にてご紹介のひと皿でぜひご体験ください。
photography = Kei Aotani