[インタビュー|MY INSTRUMENT]スティーヴ・クロッパー
ソウルの名手が抱く、
さりげなく深いギター愛
ブルース・ブラザーズ・バンドのメンバーとして
9年ぶりにブルーノート東京のステージに立った
スティーヴ・クロッパー。偉大な"ミスター・
ソウルマン"の、ギターに対する思いとは?
キルトと呼ばれる杢目が美しい愛器を片手でひょいと持ち上げ、ミスター・ソウルマン=スティーヴ・クロッパーは言う。「リア・ピックアップの音が気に食わなくてね。演奏中に手がスイッチに当たってその音に切り替わってしまうのが嫌で、こんな風に分厚い紙でふさいだんだ」。
これでまったく音が出なくなるわけではないはずだが、どうせ必要ないとの理由で、ギターの心臓と言えるパーツのひとつを自ら使用不可にしたというのだ。しかもボディの一部が割れて歪み、その影響で音色を操作するスイッチももはや動かない。
「自分が運転する車でギターをひいてしまってね。厚紙で覆ったうえにダメ押しでスイッチを潰してしまったんで、永久にリアの音は出ないよ(笑)」。
ほとんどのフレーズをワントーンでこなすギタリストだから、機能的に不足はないのだろうが......それにしてもオーティス・レディングにウィルソン・ピケット、サム&デイヴにエディ・フロイドなど、名門スタックスの大物を支えてきた伝説の名手は、意外にもギターへのこだわりがさほど強くないらしい。
「重要なのはギターじゃない。弾き手だ。音はギターではなく、ここ(指先)から生まれるのさ。どんな楽器だろうと私の音になるよ」。
とは言え、一途なところもある。60年代初頭から一貫してフェンダー・テレキャスターやエスクワイアを弾き続け、テレをモチーフにしたこのピーヴィー製カスタム・モデルも使い始めて早10年。「これじゃなきゃいけないってわけでもない」と語りつつ、その背後にはじわり愛着が滲むのだ。
「65歳の誕生日にプレゼントされた世界に1本だけのギターさ。これを初めてステージで弾いたのが、まさにブルーノート東京でね。だから今回の来日は、こいつの里帰りでもある。ここが気に入ってるみたいで、いい音を出してくれるんだよ」。
photography = Takashi Yashima
interview & text = Kei Tasaka
interpretation = Kazumi Someya
cooperation = Rittor Music
- Steve Cropper(スティーヴ・クロッパー)
- 1941年、米ミズーリ州に生まれ、のちにメンフィスに移住。十代でスタックス・レーベルの専属バンドに加わり、ギタリスト/作曲家として数々の名曲に関わった。ブルース・ブラザーズの活動や故・忌野清志郎との交流も有名。
- 田坂 圭(たさか・けい)
- ギター・マガジン編集部、ベース・マガジン編集長を経て、2014年に独立。企画プランニング/ディレクションを始め、コピーライティングや写真撮影、音楽&楽器関連の取材・執筆・編集もさまざま手がけている。