[インタビュー|MY INSTRUMENT]ベニー・ゴルソンのお気に入りの1本
ベニー・ゴルソンが愛する金ピカのビンテージ・サックス
1950年代からファンキー・ジャズ・ブームの立役者として活躍し、
87歳となった今も勢力的に活動を続けるベニー・ゴルソン。現在所有する
3本のサックスの中から特にお気に入りの1本について語ってもらった。
自宅をドイツ、ロサンゼルス、ニューヨークの3ヵ所に有するというベニー・ゴルソン。それぞれにサックスを有し、演奏会場に近い自宅から楽器を調達してくるという。今回ニューヨークから東京に持参したのは彼の一番のお気に入り、セルマーのスーパー・バランスド・アクション(SBA)というビンテージ・モデルだ。低音キィのBとBbのキィ・ガードがセパレート式になっており、更にベル部に特徴的で豪華な彫刻が施されていることからフランスで組み上げられた初期モデルであることが分かる。
SBAは1946年から1954年ころまで製造されたが、ゴルソンのサックスはおおよそ70年前の楽器とは思えぬほどにピカピカに輝いている。これは彼がとにかく金ピカに光った楽器が大好きで、36年前にこの楽器を入手した後に、ニューヨークのリペアマンに依頼してラッカー塗装をしなおしたそうだ。その際に行われたと思われるのがベルの上部に施された"Benny Golson"の花文字(クロイスタ)彫刻だ。
ドイツの自宅にも別のSBAがスタンバイ。14歳で入手し、それ以降数々のレコーディングでも活躍してきた最初のSBAは同じサックス奏者のバディ・コレットに譲ってしまったという。
ロサンゼルスの自宅にあるのはセルマーのリファレンス36という比較的新しいモデル。SBAとの違いはキィ・アクションと音色の2点で、車の乗り心地で例えると36はロールス・ロイスで、SBAはメルセデス・ベンツだという。
彼の演奏を聴くと、特注のオットーリンク10番のマウスピースと特注のリコ6番リードの超ハード仕様とは思えないサブトーンとビブラートのコントロールに驚かされる。
"私は自分の音を出すための仕様をコントロールできるように必ず毎日ロング・トーンをやっている"
87歳の向上心に敬服する。
photography = Takashi Yashima
interview & text = Hiroshi Watanabe (Hot River)
interpretation = Miki Nakayama
cooperation = Rittor Music
- Benny Golson(ベニー・ゴルソン)
- 1929年生まれ。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズなどで活躍。サックス奏者としてのみならず作曲家として「ウィスパー・ノット」「アイ・リメンバー・クリフォード」など数々の名曲を手掛ける。
- 渡部 博(わたなべ・ひろし)
- ビデオ・カメラマン、Web編集者などを経てサックス・マガジンのライターとして国内外のサックス奏者のインタビューを担当。本年6月創刊のサックス・ワールドでは編集スタッフ兼ライターとして企画段階から参加。