[インタビュー|MY INSTRUMENT]マイク・スターン
20年以上も共に歩んで来た愛器
2016年7月に転倒して両腕を骨折、右手に麻痺が残ったものの不屈の精神で復活したマイク。その彼が1997年頃から使い続けているのがヤマハのシグネイチャー・モデルだ。今回はその愛器に迫ってみる。
「最初の頃(1970年代後半)はフェンダー製テレキャスターを弾いていて、それは元々はロイ・ブキャナンが、次にダニー・ガットンが持っていたものなんだ。ところが、その頃はまだ故郷ボストンに住んでいたんだけど、リハーサルの帰りにバス停で強盗に拳銃を突きつけられて持って行かれてしまった。で、その前に友人がそのフェンダーに似たギターを作ってくれていて、盗まれてしまってからはそれを使っていた。今使っているヤマハ製パフィシカはその友人が製作したギターを基にヤマハが製作してくれたんだ」
そう希有なエピソードを語ってくれたマイクは、'97年頃からこのシグネイチャー・モデル一筋。普段は気さくで明るいマイクだが、反面、サウンドには異常なこだわりがあり、例えばレコーディングではエンジニア泣かせだという。それだけに製作段階においてもヤマハ側とシビアなやり取りが交わされたのは想像に難くない。以前に製作を担当した人に話を聞いた。特にマイクがこだわったのが次の3つ。①余計な倍音はカット、②1弦が細い音は絶対にNG、③ウォームなサウンド、というもので、最後にマイクから「フェンダーよりも良い音がするぞ」と言われたときは感激しました、と言っていた。
もう1つの特徴が、ネックが弓なりに反っていて、そのために指板フレットと弦の間が異様に空いている点だ。「ブキャナンやガットンもそうだったんだよ。これじゃないとグットなトーンは得られない」とは言うものの、実際に見ると、よくこれであんな凄いフレーズが弾けるなと思うほどの弦高である。
最後に右手の具合を聞いてみると「3回目の手術でかなりよくはなったけれど、また受けるつもりで、さらに右手に力が入るようになるはずだよ」という。そのポジティヴな姿勢には頭が下がる思いだ。今後も愛器と共に素晴らしい音楽を提供し続けてくれるのは間違いない。
photography = Takashi Yashima
interview & text = Koji Ishizawa
Interpretation = Kazumi Someya
cooperation = Rittor Music
- Mike Stern(マイク・スターン)
-
1953年1月10日、マサチューセッツ州ボストン生まれ。'81年にマイルス・デイヴィスのグループに抜擢されて注目を集めて以来、トップ・ギタリスト街道を邁進中。2017年に発表した『トリップ』が単独リーター作としては通算16枚目を数える。
- 石沢功治(いしざわ・こうじ)
- 音楽アナリスト&ライター。音楽雑誌での取材&寄稿、アルバムのライナーノーツを手掛ける。著書に『NEW YORKジャズギター・スタイルブック』『ジャズ・ギターの巨匠に学ぶ』など。