[インタビュー|MY INSTRUMENT]ニルス・ペッター・モルヴェル
ニルス・ペッター・モルヴェルの
エレクトリック・トランペット
フューチャー・ジャズの体現者が長年愛用するトランペットと、 ライブでのサウンド・メイクに欠かせないエフェクター・システムに迫る。
去る9 月、レゲエ界の重鎮スライ&ロビーと共に来日し、ダブとジャズの融合とも言える幽玄なサウンドで観客を魅了したニルス・ペッター・モルヴェル。マイルス・デイヴィスが切り拓いた『エレクトリック・ トランペット』の現代の旗手でもある彼の愛器は、エクリプス製のトランペットとエフェクター用のノート PC という組み合わせである。ライブでは PC に接続された MIDI コントローラー(写真 PC 手前)を直感的に操作し、リアルタイムでエフェクティブなサウンドを構築するのがスタイルだ。システムは少々複雑だが、接続順はトランペット→マイク→ワイヤレス・システム→オーディオ・インターフェイス→エクスプレッション・ペダル→ワーミーで、ワーミーからオーディオ・インターフェイスへと戻り、そこから DI 経由でPA卓へと出力されているそう。
「 PC に入れている音楽ソフトはエイブルトンライブとギターリグだよ。ライブではハーモナイザー、ディレイ、リバースなどを使うことが多いね。でもこれらは僕にとって楽器と言うより、あくまでツールという感覚かな」
冒頭でもふれた愛用のトランペットは、ロンドン近郊の街ルートンにあるハンドメイド・ブランド、エクリプスのもの。もはやニルスのトレード・マークとも呼べる逸品だ。
「尺八やフルートのように空気をたっぷりと含んだエアリーな音色が好みなんだ。もちろん、これも音楽を作る道具のひとつなんだけど、それと同時に僕の声そのものとも言えるね」
トランペットという伝統的な楽器を「声」としながら、急激な進化を遂げるエレクトリック・サウンドを表現するニルス。最後は彼の信条ともとれる、こんな言葉で締めくくろう。
「どんなエフェクティブな音色を使おうと同じだよ。その先に誰がいるか、誰と一緒に音楽を作っているのか。それが大事なんだ」
photography = Takashi Yashima
interview & text = Ken-ichiro Kawahara
interpretation = Keiko Yuyama
cooperation = Rittor Music
- Nils Petter Molvaer(ニルス・ペッター・モルヴェル)
- 1960年9月18日生まれ。ノルウェー出身のジャズ・トランペッター。10 代の頃よりジャズを学び、いくつかのプロジェクトを経て1997年にソロ・デビューを果たす。「フュー チャー・ジャズ」と称される、エフェクターを駆使したエレクトロニックなスタイルが特徴。
- 河原賢一郎(かわはら・けんいちろう)
- 編集者/ライター。リットーミュージック刊行のサックス&ブラス・マガジン、ベース・マガジンを経て、現在はギター・マガジン編集部に在籍中。