[インタビュー|OFFSTAGE]ボブ・ジェームスにインタビュー
一音一音確信をもちメッセージをこめて弾く。
ボブ・ジェームスが自分のバンドを率いて来日公演を行った。
フォープレイの時よりもアコースティックに重きを置き、
新旧の名曲の数々を自由にインプロヴァイズして聴かせた。
ここ数年はバンド、フォープレイとしての来日公演が続いていたボブ・ジェームスが、3月に自分がリーダーのカルテットでショーを行った。
「今回のステージではアコースティックピアノの音を聴いてほしかった。フォープレイではポップなアプローチをやっているので、正直な気持ちを打ち明けると、プレイヤーとしてはフラストレーションがたまっていた。もう少し演奏したいな、と思っていたんだ。でも、自分のプロジェクトでは思う存分ジャズのインプロビゼーションをやることができた。世界の多くのオーディエンスはパーティーライクな曲を喜ぶ。でも、日本の人たちはスロウな曲もじっくりと耳を傾けてくれるから嬉しいよ」
今回のバンドは、ボブより比較的若い世代のミュージシャンを中心に編成されていた。
「ギターのペリー・ヒューズはジョージ・ベンソンとエリック・ゲイルのテイストを併せ持つタイプ。ドラムスのクレランス・ペンはハービー・ハンコックのバンドの影響を受けている。彼とはプログレッシヴなアプローチをやるととてもかみ合うんだ。ベースのカリートス・デルプエルトは、キューバ出身で、自分の祖国の音楽をジャズに盛り込んでいる。そして、演奏が若々しく、好奇心に満ちている。3人とももちろん演奏のスキルは高い。でも、それよりも重要なのは、彼らはとてもポジティヴで、おたがいフィーリングが合うということだ。ツアーは気が合わないとダメ。一緒にいて楽しくないと、演奏する音楽も楽しくなくなってしまうからね」
こうしたメンバーに支えられ、ボブは「Blue Down Under」「Mister Magic」「Westchester Lady」「Angela」など、歌うようにピアノを奏でた。
音楽ビジネスが成立しづらくなっているため、ラリーはますます積極的に世界へ展開している。
「確かに僕のピアノは歌だ。シンガーや管楽器奏者には呼吸するスペースがあるよね。同じように、ピアノもスペースを意識して演奏している。何を弾くかも大切だけど、音楽は何を弾かないかも大切。ピアノでも、シンガーが呼吸するようなスペースをもうけると、歌を感じてもらえる。僕がこういう演奏をするようになったのは、キャリアをスタートした頃にサラ・ヴォーンのバンドにいた影響だよ。僕がピアノのテンポを変えると、サラは呼吸法を変えるんだ。つまり、彼女のスペースが変わる。同じ曲でも、まったく違う響きになる。サラのバンドでの体験がピアニストとしての僕の基礎を作ってくれた」
そこにキャリアを重ね、年齢を重ねて、ピアニストとしてどんなことが身に着いたのだろう。
「僕の演奏技術には限界がある。たとえば、どれだけ速く弾けるか―。アート・テイタムやゴンサロ・ルバルカバのような超絶技巧の演奏はできない。実はね、若い頃はそこに引け目を感じていたんだ。でも、今はスピードよりも、一音一音確信をもち、メッセージをこめて演奏することを大切に考えている。だからこそ、若い頃とは違う、年齢を重ねたからこその音を生むことができている。それが僕の音楽を質の高いものにしてくれているんじゃないかな」
Photo by Yuka Yamaji
ボブ・ジェームス・カルテット
featuring カリートス・デルプエルト、ペリー・ヒューズ&クラレンス・ペン
"CELEBRATING BOB JAMES 75TH BIRTHDAY"
2015 3.5 thu. - 3.7 sat.
- BOB JAMES(ボブ・ジェームス)
- 1939年、ミズーリ州生まれ。キーボード奏者として'60年代からジャズや現代音楽の世界で活躍。'74年の『ワン』でフュージョンの中心的存在に。アール・クルーとの共演作『ワン・オン・ワン』('80)、デヴィッド・サンボーンとの『ダブル・ヴィジョン』('86)でグラミー賞を受賞。
photography = Hiroyuki Matsukage
text = Kazunori Kodate
interpretation = Ryoko Ito