公演直前、ニューヨークで山中千尋さんにインタビュー
最新プロジェクト"SPHÈRES"が
いよいよ5月、ワールド・プレミア・デビューを飾る
ニューヨークを拠点に、全米、ヨーロッパ、日本で、多彩なメンバーで精力的な演奏活動を繰り広げる山中千尋。山中の最新プロジェクト、女性3人のエレクトリック・サウンドのパワー・トリオの"Spheres" が日本でワールド・プレミア・デビューを飾る。5月31日、6月1日のブルーノート東京公演への熱い思いを語ってもらった。
ー Spheres 結成の経緯をお知らせ下さい。
ドラムスのカレン・テパーバーグは、バークリー時代によく一緒に演奏してました。IAJE(国際ジャズ教育者会議)の"Sister in Jazz"や、ダウン・ビート誌主宰のコンペティションなど優勝し、各地をツアーしたときのメンバーです。当時はストレート・アヘッドのジャズをプレイしてたのですが、カレンはグルーヴ・ミュージックにも強い関心を持っていました。ケンドリック・スコット(ds)と同時期に在校していて、やはり凄腕のドラマーとして知られています。卒業後は、アメリカではスティングのバックも務め、今はイスラエルに拠点を移し、イスラエルのポップスの大御所アーティストらと共演してます。もちろんジャズも巧いのですが、ロック系の力強いグルーヴを叩き出し、ポップスの豊富な演奏経験から、ストーリーを語るようなドラミングが出来るプレイヤーです。卒業後も交流は続いていて、私がイスラエルを訪れた時や、彼女がニューヨークに来たときに、会っていました。またぜひ一緒に演奏しようと語り合っていたのがいよいよ実現します。ベースはニューヨークで活躍するハガ・ベンアーリーが参加予定だったのですが、彼女が西海岸で TVショウのレギュラーが決まったため、残念ながら出来なくなりました。カレンとハガが、 ダナ・ロスを推薦してくれました。ダナは、まだ学生ですが、イスラエルで活動している強力なグルーヴを生み出す、エレクトリック・ベーシストです。世代が若い彼女が参加することで、サウンドが、はじけるようになると期待してます。
ー Spheres のコンセプトをお聞かせください。エレクトリック・サウンドの強力なグルーヴの上で、実験的なインプロヴィゼーションをするグループです。私もピアノだけでなく、様々なキーボードも弾きます。キーボードは、ジョージ・ラッセル(p,arr)のグループで演奏して以来、大好きです。ホーン楽器のように、音が延びるプレイが出来るのがとても新鮮。実験的と言っても、けっしてフリー・インプロヴィゼーションではなく、物語のあるメロディアスなモチーフも併せ持ち、そこにジャズ的なアプローチを加えていきます。カレンは、子供の頃は、世界レベルのテニス・プレイヤーでした。ミュージシャンになってからも、過密なツアーもこなすタフな体力を誇ります。身体も大きくでもパワフルなだけでなく、しなやかなで華やかなプレイをするドラマーで、初めて聴いた方は、きっと驚かれると思います。カレンはヴァーサタイルなドラマーで、あらゆるスタイルの音楽を演奏出来ますので、彼女と演奏することはとても愉しく、いろいろな方向に向かうアイディアに充ちています。ダナも一緒に爆発するような瞬間があるグループなので、楽しみにしています。ジャズ・シーンでもロバート・グラスパー(p,kb)の登場以降、ヴィジェイ・アイヤー(p)やファビアン・アルマザン(p)ら、グループで創造する音楽に、私も強い関心をよせています。そして Spheresを結成したのです。今までの私の音楽とは、最初の一音から全く違う世界観の音楽になると思います。
ー Spheres のバンド名の由来とは?
イスラエルとニューヨークで距離があるために、リズム・トラックのファイルを交換して、それぞれのアイディアを載せて曲を完成させたり、スカイプでリハーサルをしたりしています。地球を意味する球体(Sphere)の中にいる私たち、球体のように完成された美しい音楽、ジャズとかに限定されるのではなく球体のようにすべてを包み込んだ音楽を創造したいという意志を込めて名付けました。
ーレパートリーはどのような構成でしょうか。
3人のオリジナルと、50年代から70年代ぐらいのアメリカ、ヨーロッパ、イスラエルのオールド・ポップスを私たちのカラーで染めたカヴァーを演奏します。もちろん3人ともジャズの演奏が基本のミュージシャンですが、今回はストレート・アヘッドのフォーマットでのジャズは演奏しません。ジャズ・スタンダードのカヴァーも、今まで聴いたことのないヴァージョンになると思います。
ー Spheres は今後どのような展開になるでしょうか。
ブルーノート東京公演のあとに、何カ所かツアーに廻りサウンドを研ぎ澄まし、最終的にはライヴ・アルバムを制作しようと計画してます。アルバムをリリースしたあとは、ぜひニューヨークでも演奏したいですね。最初のメンバーだったハガもぜひ、参加してもらいたいです。
ーファンの皆様にメッセージをお願いします。
3人の女性リズム・セクションが創る、フィジカルな分厚い音圧の音楽を体感できます。そして何よりも華やかでダイナミックなステージをご期待下さい。
- スフィアズ
フィーチャリング 山中千尋、カレン・テパーバーグ、 ダナ・ロス
2015 5.31 sun. - 6.1 mon. - グルーヴィーでスリリング!山中千尋を筆頭に
気鋭の3人が集結したユニットの日本初公演
→詳細はこちら
- 常盤武彦(ときわ・たけひこ)
- 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、「ジャズでめぐるニューヨーク」(角川oneテーマ21、2006)、「ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ」(私のとっておき、産業編集センター、2010)がある。
photography / interview / text = Takehiko Tokiwa