[インタビュー|OFFSTAGE]ギル・ゴールドスタインにインタビュー
音楽の不完全性から色気が生まれることもある。
ボビー・マクファーレンの音楽ディレクターとして来日した
ギル・ゴールドスタインはずっと瞳を閉じて演奏していた、
視覚を遮断し、聴覚をとぎすませて、音楽を作り上げていったのだ。
ときに歌いかけ、ときにささやくようなピアノを奏で、ギル・ゴールドスタインはずっと瞳を閉じていた。ブルーノート東京で、3月に4日間8公演行われたボビー・マクファーレンのショー。ギルはそこでピアノを弾き、アコーディオンを弾き、ミュージックディレクターとアレンジャーも務めた。
「演奏する時、僕はできるだけ目を閉じているんだ。視覚からの情報をシャットアウトすると、聴覚がとぎすまされて、ステージの上で鳴っている音が全部聴こえてくるからね。ボビーのしぐさやアイコンタクトも、音で察することができる。それから、僕の演奏が人の声のように聴こえるのは、おそらく微妙にビブラートをかけているからだろう。これはアコーディオンの技術だよ。僕はもともとアコーディオン奏者。今でも、自分をピアニストではなくアコーディオン奏者だと思っている。アコーディオンの小さなボディには、木管楽器、金管楽器、弦楽器の役割がつまっている。音楽のもつすべてがあるんだ」
ギルは8歳だった1958年からずっと、同じアコーディオンを演奏している。
「母親が買ってくれたんだ。ハーモニウムというブランドで$80だった。子ども用だから小さい。僕のふところにすっぽり収まって、今は完全に体の一部だね。一緒に呼吸をする気持ちで演奏しているよ」
さて、今回のメンバーはギルの主導で集められた。
「ドラムスのルイス・ケイトーのスケジュールを押さえられた段階で、いいステージは約束されたようなものだった。彼はどんなタイプの音楽でも高いレベルで演奏できるドラマー。歌も抜群だ。ただし、1つだけ問題がある。忙しいんだよ。マーカス・ミラーやジョン・スコフィールドなど多くの一流のミュージシャンが彼を必要としているからね。今回一緒に日本に来ることができたのはミラクルだ。ギターのアーマンド・ハーシュはパット・メセニーの推薦。ベースのジェフ・カーニィはボビーと35年一緒にやっているからコミュニケーションが抜群だよ。僕は、主役ではなく、バンド内のプロデューサー的立場が一番落ち着く。客席の気持ちはボビーに集中している。その中で時々演奏者としての僕の個性を発揮する時間をもらえると、それで十分に幸せだよ」
そんなギルが、ミュージックディレクターとして大切にしているのはどんなことなのだろう―。
「ディレクターは完璧な音楽を目指すよね。それでも、作り過ぎないというか、どこかに本人やメンバーですら予期できない何かが起こる余地を作ることが重要だと思う。未完成な作品のほうがいいとは、僕の口からは言えない。でも、完璧に作り込んでしまうと、音楽に色気がなくなってしまうことも真実だよ。これは、1981年にギル・エヴァンスと出会って気づいたんだ。直接会うまでは、彼に対して厳格な完全主義者というイメージを持っていた。ところが、実際に会うとけっこうおおざっぱなんだ。仕事部屋には譜面が散乱している。性格のラフさからも、彼の魅力的な音が生まれたんだと僕は思った」
Photo by Tsuneo Koga
今回の来日ではミュージックディレクターでもあり、ボビーの信頼も厚く、その存在感の大きさを示した。
ボビー・マクファーリン
2015 3.20 fri. - 3.23 mon.
- GIL GOLDSTEIN(ギル・ゴールドスタイン)
- 1950年生まれ。アコーディオンをきっかけに音楽の道に。パット・メセニーやジャコ・パストリアス、パット・マルティーノ、リー・コニッツ等との共演、'80年代にはギル・エヴァンスの元で編曲の才能を磨いた。現在は作編曲、演奏、音楽教育、 映画音楽の分野で多忙な日々を送る。
photography = Hiroyuki Matsukage
text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya