[インタビュー|OFFSTAGE]アントニオ・サンチェスにインタビュー
映画音楽の経験が大作を作るスキルを育てた。
初めて自分自身のカルテットを率いての来日公演。
アカデミー賞4部門獲得の映画『バードマン』の音楽を担当。
アントニオ・サンチェスは今もっとも注目されるドラマーだ。
盛り上がった肩、バランスのとれた体形......。
4月に来日公演を行ったドラマー、アントニオ・サンチェスを間近で見ると、まるでアスリートだ。
「実は体操のメキシコ代表選手だった。得意種目は床運動だよ。オリンピックを目指していたけれど、音楽との両立が難しくて、ジャズの道を選んだんだ」
体操で養った筋力、体力、リズム感は、ドラムスを叩く上での大きなアドバンテージになっているという。ブルーノート東京では毎回2時間近いショーを行った。リスナーに特に強い印象を与えたのは「ニュー・ライフ」。ある時はラウドに。ある時はエモーショナルに。まるで人生を描くような作品だ。
「パット・メセニー・グループ、そして、マイケル・ブレッカーやチック・コリアなどのバンドで、僕はドラムスを叩いてきた。それぞれ、まったく違うアプローチを求められてきたよ。パットは頭の中できちんと音楽を組み立てて、それを正確に表現することを求めてくる。一方、マイケルは自由に演奏させてくれた。だからといって、安心はできない。気に入らなかったら次は連絡をしない、僕から電話があるうちはうまくいっていると思ってくれ、といつも言われていた。そして、今回は自分のバンドで日本に来た。演奏の質はもちろん集客についても責任を感じているよ。『ニュー・ライフ』は、バンドリーダーとしての僕の新しい人生であり、プライベートにおける僕の新しい人生も意味している。この曲のオリジナルレコーディングは、僕のフィアンセが歌った。音楽の中で愛情が行き来することは、間違いなく作品のクオリティを高める。ライヴのステージには彼女はいない。それでも、この曲を演奏する時、その音の中には常に彼女が存在しているんだ」
メロディを奏でる弦楽器や管楽器ではなく、アントニオのような打楽器奏者がリーダーを務めることは、バンドにどんなメリットをもたらすのだろう。
「僕はメキシコの音楽院で、5年間ピアノを学んだ。その後、ボストンのバークリー音楽院でドラムスを専攻した。だから、曲を作る時は、僕はピアノでメロディを生み出す。そしてショーでは、ドラマーとして、作品の方向性を強力に牽引するんだ。ドラムスは、バンドの方向性を担う楽器だからね」 さて、アントニオは、アカデミー賞を4部門で受賞した『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の音楽を担当し、今まさに大ブレイク中。
「僕のキャリアにバードマンの音楽が加わったことはものすごく大きい。ジャズシーンのみならず、ポップミュージック全体で知名度が上がったことを肌で感じている。オーディエンスも目に見えて増えているよ。そして、映画音楽を作ったことは僕の音楽性にも大きく影響している。今までは、小説にたとえると短編集を作るイメージで10曲くらい収録するアルバムを作ってきた。でも、6月に予定している新作は5つのチャプターから成る長編になりそう。組曲のような、約1時間の大作の予定だ。これは明らかに、バードマンの音楽で培ったスキルだよ」
Photo by Tsuneo Koga
アントニオ・サンチェス&マイグレーション
2015 4.14 tue.
- ANTONIO SANCHEZ(アントニオ・サンチェス)
- 1971年生まれ。5歳でドラムを始め10代からプロとして活動。90年代よりパット・メセニーをはじめチック・コリア、マイケル・ブレッカー等と共演する。サントラを担当した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のアカデミー賞受賞で話題に。
photography = Hiroyuki Matsukage
text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya