[インタビュー|OFFSTAGE]ジョイス・モレーノにインタビュー
20年以上出演を続けるクラブだからこそのショー。
1988年のブルーノート東京のオープン時から出演を続けている ジョイスがこの夏も客席とステージの一体感のあるショーを行った。 最高のパフォーマンスを行える環境とは。メンバーとは。
「ブルーノート東京と私とのお付き合いは、そのへんの夫婦よりもよっぽど長いんですよ。オープン直後からだから、もう20年以上にもなるかしら」
開演前の楽屋で、ジョイスはまるで自宅のリビングにいるかのようにくつろいでいた。
「この店は初出演の時から、客席に完全に受け入れてもらえている実感がありました。お客さんとステージが溶け合っているような思いになれた。オープン時の旧店舗もよく憶えています。あの頃はショーが時間通りに始まらないこともあってね。客席数が少ないから、補助椅子を用意しなくちゃいけないときも多くて。お店のスタッフが開演の遅れを伝えに来るのが満席を越えている証拠。うれしかった。そして今の店舗は、世界中のどのクラブと比べても規模が大きくてグラマラス。とっても快適です」
8月の来日公演も、長年出演しているジョイスだから、客席と心が通う温かいショーになった。
「ブルーノート東京に一番感謝しているのは、私だけでなく、私が一番心地よくやれるメンバー編成を受け入れてくれること。だから、いつも自分のできる最高のパフォーマンスを行えます。実際に今回のショーも、私を理解してくれているバンドと一緒にいる安心感の中で行えました。私が音楽の常識とは違うちょっとクレイジーな発想をしても、彼らは自然に受け入れて演奏をしてくれます。急に依頼した慣れないミュージシャンだったら、ステージの上でもっとあわてていたかもしれません」
ジョイスはこの夏、アルバム『COOL』をリリースした。スタンダードナンバーをブラジルのリオ・デ・ジャネイロで音楽を続けている彼女ならではの解釈でレコーディングした作品だ。ショーでもこの新作のナンバーが何曲も歌われた。
「誰もが知るスタンダードナンバーをオリジナルのままやったり、ボサ・ノヴァのアレンジにしたりという安易なことだけはやりたくありませんでした。私だけのグルーヴやハーモニーや土の匂いを音にしたかった。アレンジは、私がギターを弾きながら考えました。ショーの前半でやった『ラヴ・フォー・セール』もオリジナルとはまったく違うでしょ? あれが今のブラジルのリズムです。『フィーヴァー』のハーモニーも新鮮に聴こえたはず。そもそもビッグバンドが好んで演奏する曲ですから。『インビテーション』には、タンゴのリズムを取り入れてみました。そんな中で、唯一『シャドウ・オブ・ユア・スマイル』だけは、あえてオリジナルに忠実に演奏しています。実は、作者のジョニー・マンデルと1度一緒にやるチャンスがあり、でも残念ながら流れました。その時、ジョニーに直筆の譜面をもらって。だから、彼に敬意を表したかったのです。こういうさまざまなテイストを1つのステージで行うこと、そしてその意義はなかなか言葉では伝えられません。でも、今のメンバーは感覚的にわかってくれます。そんな私がやりやすいメンバー編成を許してくれるのは、ブルーノート東京だからこそです」
ジョイス・モレーノ "Cool"
- 30th Anniversary Celebration since the first visit to Japan -
- Joyce Moreno(ジョイス・モレーノ)
- 1948年、ブラジル・リオ生まれ。"ブラジリアン・ミュージックの女王"と称されるシンガー&ソングライター。15歳よりグループに所属し、20歳で初ソロ・アルバムを発表。ジョアン・ジルベルト、ヴィニシウス・ヂ・モライスら、数々の巨星と交流を経て今に至る。
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya