[インタビュー|OFFSTAGE]サム・ムーアにインタビュー
エバーグリーンとはリスナーのための音楽。
生誕80周年のショーを行ったソウルの巨匠、サム・ムーア。
上質の音楽について、忌野清志郎との出会いについて、
ときには熱を込めて、時には瞳を潤ませて話してくれた。
12月2日から3日間6公演行われたサム・ムーア生誕80周年記念ライヴは、トータス松本、ゴスペラーズ、ROY(THE BAWDIES)を日替わりでゲストに迎え、大エンタテインメントになった。
「僕は60年間歌ってきたけれど、世界一温かく迎えてくれる国の1つが日本。大好きだよ。そこで、家族に囲まれるような環境で80歳記念ライヴができるのは、心から幸せを感じている」
サムの初来日は1971年。サム&デイヴの時代だ。 「テレビショウ(『ミュージックフェア』)に出演したら、僕たちの前に日本人の女の子がアレサ・フランクリンの曲を見事に歌って、驚いた。その後、ディナーにも誘いたくなったほどさ。その人こそ和田アキ子さんなんだよ」
サム&デイヴからソロにいたるまで何度も来日公演を行っているサムだが、もっとも深く交流した日本人ミュージシャンは、忌野清志郎である。
「やはり'70年代にサム&デイヴで日本に来た時、少年だった清志郎がホテルを訪ねてきた。子どもだと思ったので、家に帰るように諭したよ。ところが、バスに乗せてくれ! と言ってきかない。結局コンサート会場までついてきて、またホテルまで来て、僕の部屋のソファで眠ってしまったんだ。それからずいぶん経って日本に来ると、彼はプロのミュージシャンになっていた。横浜スタジアムやこのブルーノート東京で共演したよ。彼は僕にとってとても大切な存在だ。彼がこの空のどこにいようとも、僕を見守ってくれていると思う。僕も彼を思い続けている」
今回のサムのショーも、ヒット曲のオンパレードで盛り上がった。「ホールド・オン」「僕のベビーに何か?」「ソウル・マン」......。
「世界中どこへ行っても、この3曲は歌わなくちゃいけない。たとえ気が進まない夜があったとしてもね。この前、エディ・マーフィーのショーに招かれた時にも『ホールド・オン』をリクエストされた。ニューヨークでスティングと共演したときに、何を一緒に歌えばいい? 彼に訊いたら『見つめていたい』と言われた。えっ、それを歌うのかい? 訊き返したよ。この曲を歌わないと客席は満足しないんだ、とスティングは笑っていた。僕は『ホールド・オン』や『ソウル・マン』から、スティングは『見つめていたい』から、一生逃げることはできない(笑)。ただね、これは当然のことなんだ。上質な音楽というのは、その曲の歌い手や作曲家のためのものではない。それを聴くためにお金を払うリスナーやオーディエンスのものだ。どんなにつらい日だったとしても、夜にショウを観たら、気分よく会場を後にできてベッドに入れる。だからこそエバーグリーンなんだ。いつまでも聴かれ、歌われるんだ。そういった意味で、ジョイムス・ブラウンやマーヴィン・ゲイやサム&デイヴの音楽からいいところを抜き取っている今のラップは、僕には理解できない。美しいメロディ、しっかりしたリズム、心にうったえかける歌詞がある音楽こそ素晴らしいと、僕は信じている」
- SAM MOORE(サム・ムーア)
- 1935年、マイアミ生まれ。デイヴ・プレイターとともにサム&デイヴを結成し「ホールド・オン」「ソウル・メン」といった歴史に残るヒットを連発、"メンフィス・ソウル・サウンド"を作り上げた。
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kana Muramatsu