[インタビュー|OFFSTAGE]ニック・ウェスト
フェンダーのジャズベースは私の心臓の鼓動。
ラリー・グラハム、リック・ジェイムス、ルイス・ジョンソン......。
ニック・ウエストは自分の血肉になっているベーシストへの
リスペクトを思いのまま披露するショウを行った。
プリンスのバンドで活躍したベーシスト、ニック・ウエスト。衣装は全身キラキラのシルバー。パープルにそびえるヘアスタイル。それでいて、手にする楽器はトラディショナルな4弦のフェンダーのジャズベース。そのギャップが印象的だ。
「フェンダーのジャズベースは万能。どんな曲をどんな楽器とやっても太い音が突き抜けていく。ジャズベースは私自身。私の心臓の鼓動と同じです」
6月に2日間4公演行われたショウのクライマックスは、ベースをフィーチャーして彼女の血肉になった曲を演奏するメドレーだった。
「まずはマイケル・ジャクソンとスティーヴィー・ワンダーの『悪夢』。スティーヴィーはプリンスがもっともリスペクトするアーティストの1人でした。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『サンキュー』はプリンスがラリー・グラハムの魅力を教えてくれた曲です。『ギヴ・イット・トゥ・ミー・ベイビー』のリック・ジェイムスはラリーと同様私が大好きなベーシスト。『ゲット・オン・ザ・フロア』はマイケル・ジャクソンのナンバー。昨年他界したルイス・ジョンソンへの追悼の意を込めて演奏しました。そして、世界最高のバンド、ビートルズで、ポール・マッカートニーのプレイがいかす『カム・トゥゲザー』です。このメドレーはどうしてもやりたかった」
彼女がベースに魅せられたのはマイケルの「ウォナ・ビー・スターティン・サムシン」だった。「この楽器は何?」。父親に訊くと「ベース・ギターだ」と教えられた。演奏はルイス・ジョンソン。次に夢中になったのはマーカス・ミラー。そして、プリンスに「ラリー・グラハムを聴け!」と言われた。
「プリンスに出会ったのは2012年。彼のペイズリー・パーク・スタジオに呼ばれたの」
手が震えるほど緊張してスライの「サンキュー」を演奏した。その時にプリンスに勇気づけられた。
「僕は君にラリーやマーカスのように演奏して欲しいとは思っていない。僕は君だけのグルーヴが欲しくてここに呼んだんだ。君は君らしくあればいい」
その言葉で、彼女は開き直る。
「ありのままの私で価値があるんだ」
自分を信じることができたのだ。
「あの日、あそこでプリンスが言ってくれたから、今もこうして演奏する私がいる」
ブルーノート東京のショウのアンコールで、ニックはプリンスの「KISS」を演奏した。
「彼への追悼、感謝の気持ちを込めてです。プリンスには、他にも演奏したいナンバーがたくさんある。でも、どの曲も彼が他界した悲しみが蘇ってきて、平常心でやれません。でも『KISS』だけは例外です。しっかりできそうだと思ったの。とてもハッピーな曲だから。彼と一緒に演奏しているときも、いつもハッピーな気持ちになれた曲だから。この曲を演奏していると、プリンスは自分のリスナーやオーディエンスにハッピーになってほしいと心の底から願っていたアーティストだったと思えます」
Photo by Tsuneo Koga
- NIK WEST(ニック・ウェスト)
- 1988年、アリゾナ州出身。ラリー・グラハムやマーカス・ミラーの影響でベースを始める。デビュー作『ジャスト・イン・ザ・ニック・オブ・タイム』(2011)では"プリンスとエリカ・バドゥがファンキーなベース・ラインと共に出会った"と評された。
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya