[インタビュー|OFFSTAGE]ジョイス・モレーノ & イヴァン・リンス
音楽ならばブラジルは先進国です。胸を張れます。
イヴァン・リンスとジョイス・モレーノのデュオ。
8月のブルーノート東京で極上のブラジル音楽のショウが実現した。
2人はジョビンの楽曲を中心に歌い、ジョビンの音楽への愛を語った。
「僕たちの初共演が日本だったこと、憶えている?」
イヴァン・リンスが訊ねる。
「1997年の『ゲッツ・ブラジル'97』でしょ? 会場は屋外のよみうりランド オープンシアターEAST。私たちは強風に吹き飛ばされそうになりながらトム・ジョビン(アントニオ・カルロス・ジョビンのことをブラジル人は親愛の情をこめて"トム"と呼ぶ)の『グラン・アムール』を歌った。マイクにビュー! という風の音が入って大変だったのよね」
ジョイス・モレーノが続ける。
「イヴァンと私の2度目の共演は2014年。ブラジルの公共放送、TVブラジルの音楽番組だった」
8月のブルーノート東京のショウは、2人にとって3回目の共演になる。
「僕たちは何十年も前から知り合いだけど、共演の機会は数えるほどなんだ。"ツーリング・アーティスト"と言われているけれど、いつも旅の空の下で、1か所にとどまってはいないからね。今回のショウの内容も、ジョイスがリオ・デ・ジャネイロ、僕がリスボンにいるときに、メールでやり取りをして、選曲して内容を話し合って、決めていった」
そんなブラジル人もうらやむデュオが夏真っ盛りの東京で3日間6公演行われた。その後半に盛り上がったのは「CAMINHOS CRUZADOS」「O MORRO NÃO TEM VEZ」「SAMBA DO AVIÃO」など。アンコールは「CHEGA DE SAUDADE」。つまり、ジョビンの曲が中心のセットになった。
「トム・ジョビンは、ブラジルが誇るべき音楽家であり、偉大な巨匠だからね。ブラジル人が日常的に口にする言葉に"すべてのことには例外がある"という教訓がある。それを引用したミロス・フェルナンデスという著名なジャーナリストが"ジョビンの音楽には例外がない。すべてがパーフェクトだ"と言った。ブラジル人の誰もが賛成したよ」
イヴァンが誇らしげに語り、ジョイスもうなずく。
「できるならば私たちの楽曲はすべて忘れて、トム・ジョビンの曲だけで、ステージを構成したかったほど。そのくらいトムの音楽を愛しています」
「僕たちはブラジルで生まれ、ブラジルで育ち、ブラジル人ミュージシャンであることに誇りを持っている。国内でライヴを行うときは、僕たちの国が抱えている社会的な問題や政治についても意見を言ったり歌ったりしているけれど、海外では音楽そのものを楽しんでほしい。それを思うと、トム・ジョビンの音楽は世界中どこへ行っても誇れる。僕も自分がブラジルを代表していると思って歌うことができる。ブラジル人の血が流れていることを積極的にアピールする自分がいるんだ」
「私もイヴァンとまったく同意見。この前のオリンピックを見てもわかっていただけたと思うけれど、ブラジルは経済的、政治的には今なお発展途上国です。さまざまな深刻な問題を抱えています。でも、音楽に限っては先進国だと思う。世界的に成功を収めた分野だと胸を張って言うことができます」
Photo by Yuka Yamaji
JOYCE MORENO & IVAN LINS
-A Tribute to Rio by 2 Cariocas-
2016 8.27 sat. - 8.29 mon.
- JOYCE MORENO(ジョイス・モレーノ)
- 1948年、ブラジル・リオ生まれ。"ブラジリアン・ミュージックの女王"と称されるシンガー&ソングライター。15歳よりグループに所属し、20歳で初ソロ・アルバムを発表。ジョアン・ジルベルト、ヴィニシウス・ヂ・モライスら、数々の巨星と交流を経て今に至る。
- IVAN LINS(イヴァン・リンス)
- 1945年、リオデジャネイロ生まれ。シンガー・ソングライターとしては60年代から活動。エリス・レジーナによる「マダレーナ」の大ヒット、80年代にはクインシー・ジョーンズやジョージ・ベンソンらがリンスをフィーチャーし世界的な人気を獲得した。
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kan Shirai