[インタビュー|OFFSTAGE]ビル・フリゼール
今なお夢の中にいるようなチャールスとの共演。
チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルスのメンバーとして
ブルーノート東京のステージに立ったビル・フリゼール。
自由で、多彩で、歌うような演奏を楽しんだという。
「僕がジャズにあこがれの気持ちを持ったのはコロラド州デンバーのハイスクール時代。1968年に初めて『ダウン・ビート』誌を買ったんだ。その時の表紙の写真がチャールス・ロイドだった。翌年、僕の街にチャールスがツアーでやってきた。会場は街の古いシアターだったと思う。ドラムスはポール・モチアン。ベースはロン・マクルーア。そして、ピアノがキース・ジャレット。素晴らしいショウだった。あの時僕はジャズ・ミュージシャンになることを夢見た。そのチャールスと同じステージに立っているなんて、まだ夢の途中を生きている気分だよ」
チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルスのメンバーとして1月に3日間6公演演奏したギタリスト、ビル・フリゼールは誇らしく語った。ステージでは「戦争の親玉」「オフ・コース、オフ・コース」など新作『アイ・ロング・トゥ・シー・ユー』の曲を中心に演奏した。
「チャールスと一緒にやるきっかけは20年前のイタリアのジャズフェスだったと思う。バックヤードで連絡先を交換したんだ。しばらくはすれ違いが続いて、最初の共演は5年前のモントルー・ジャズ・フェスティバル。僕にとってのチャールスの音は、彼が'60年代の前半にギタリストのガボール・ザボやチコ・ハミルトンとやっていたころの演奏。それが僕にとってのマーヴェラスのイメージだよ」
初共演の時、チャールスに挨拶に行くと、満面の笑みで「一緒に歌うのが楽しみだ」と言われた。
「ルールに縛られず、自由に歌うように楽しく演奏しよう、という意味だと思う。信頼してくれていると感じてうれしかったよ。だから、ステージでは、感じるままに、さまざまなトライをしている」
ビルはステージ上ではほとんどしゃべらない。インタビューでは慎重に言葉を選びゆっくりと話す。しかしギターは客席に語りかけ、演奏は挑戦的だ。
「ギターの音が僕の真実の声だと思ってほしい。こういうインタビューでも、実は適切な言葉や比喩が見つからずに苦労している。でも、ギターを手にすると、表現したいことが自分の声のようにすらすらと生まれるんだ。だから、ステージでも、スタジオでも、音楽の現場は僕にとってはアット・ホームなもの。僕がいるべき場所だと思えるからね」
ビルはジャズではあまり見かけないJ.W.ブラックのトレモロ・アーム付きテレキャスターを演奏する。
「J.W.ブラックは、もともとフェンダーのカスタムショップのマスタービルダーでね。素晴らしい技術を持っている。彼の作るテレキャスターはレンジが広い。ハードでラウドな音からソフトな音まで自在に表現できる。多彩だ。つまり、自分の声のように演奏できる。しかも音色はとても自然で、ときどき自分がアコースティックギターを弾いているんじゃないかと錯覚するほどだよ。すぐれた楽器は、演奏者の頭の中で鳴っている音を現実にする。それがまさしくこのギターだ。実は先日、東京の楽器店にJ.W.ブラックのギターが並んでいるのを見てびっくりした。東京はなんでもそろっている街だね」
Photo by Takuo Sato
CHARLES LLOYD & THE MARVELS
featuring BILL FRISELL with REUBEN ROGERS & ERIC HARLAND
2017 1.12 thu., 1.13 fri., 1.14 sat.
- BILL FRISELL(ビル・フリゼール)
- 1951年、米メリーランド生まれ。エルヴィス・コステロをはじめ多数の才人とコラボし、重鎮ギタリストとしての座を不動のものに。6月、昨年リリースした『星に願いを』のコア・メンバー、ペトラ・ヘイデン等とブルーノート東京に出演する。
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya