[インタビュー|OFFSTAGE]ザ・レジデンツ
暗黒時代だから、テーマは"夢"。
3月、ブルーノート東京としては異質のライヴが行われた。
アメリカの前衛系バンド、レジデンツの32年ぶりの来日公演だ。
日本全国からファンが集まり、3日間6公演満席で盛り上がった。
3月半ばの3夜、ジャズクラブとして30年目を迎えようとしているブルーノート東京がいつもと違う雰囲気になった。レジデンツの来日公演だ。ロック仕様のバンド編成、サイケデリックな演出、牛や鳥の仮面とコスチューム。ヴォーカリストは、地獄の底から響くような声で、エキセントリックに歌った。
「客席300ほどのジャズクラブからのオファーに、最初僕たちは耳を疑った。今までにやったことがない環境だったからね。でも、次の瞬間、おもしろくなるかもしれない、と思い直した。ステージと客席が近ければ、それだけ一体感を体験できるからだよ」
そう語るのはレジデンツのマネージャー氏。彼はバンドのビジネス上のパートナーであるだけでなく、メンバーたちと、思想、感情、志向......などを完全に共有。バンドを象徴する存在だという。
「牛のマスクは、Bull(牡牛)であり、Cou(牝牛)でもある、Bullは力の象徴。Couは生命の象徴。レジデンツはその2つを併せ持つ存在だと思ってほしい。鳥のマスクはヨーロッパで黒死病(ペスト)が流行したときの医療用のマスクをモチーフにしているんだ。かつて、黒死病の治療に従事するドクターたちは、自分たちが感染しないように、マスクをしていた。なぜそれが鳥だったのかというと、2つの理由があったそうだ。1つは、おまじないの意味。もう1つは、くちばしの部分にハーブを詰め、感染を防ぐフィルターの役割を果たしていた」
そもそもなぜ、いま、力と生命と黒死病対策のコスチュームなのだろう―。
「現在が黒死病の時のような暗黒の時代だからだよ。先日行われたアメリカの大統領選については、日本でも報道されたはず。あの選挙の結果には失望した。レジデンツは悲しいという感情を通り越して、ショックを受けている。ドナルド・トランプに投票したアメリカ中部の人たちが、あそこまで無知だったとは。しかも、無知な自分たちを誇りに思っているなんて。進んで無知であろうとしているようにも感じる。信じられない事態だ。衝撃的だ。今回はそういう気持ちもこめたライヴだったわけだよ」
ステージ上には巨大な球形のオブジェがあり、そこに映し出されたマザー・テレサやジョン・ウェインに似たデジタル映像が、夢について語っていた。
「今回のライヴのテーマは"夢"。こんな暗黒の時代でも、夢をもつことを忘れてはいけないというメッセージをデジタル映像にこめた。映像のジョン・ウェインは、バレリーナになりたいという夢を延々と語っている。チャーミングだろ? ジョン・ウェインとバレリーナ、そのギャップが楽しいんじゃないかと思ったんだ。レジデンツのライヴはテンションが高くて激しい。客席も、バンドも、緊張を持続しなくてはいけない。だから、途中に2回、マザー・テレサとジョン・ウェインが語ることによって、息を抜くというか、インターバルを置こうと考えたわけだよ。そして、休息の後はまたテンションの高い世界へ戻っていく構成にしたんだ」
Photo by Great The Kabukicho
- In between Dreams -
2017 3.21 tue., 3.22 wed., 3.23 thu.
- THE RESIDENTS(ザ・レジデンツ)
- 1966年、米ルイジアナ州で結成。素顔を公表せず、目玉マスクがトレードマーク。『ミート・ザ・レジデンツ』(74年)でデビュー以来、そのサウンドとビジュアルアートで、ロック~前衛音楽シーン、数多のアーティストに影響を与える。
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya