[インタビュー|OFFSTAGE]エスペランサ・スポルディング
絵を描く気持ちで歌い、演奏しています。
シンガーであり、ベーシストである。ジャズであり、ポップでもある。
3月に行われたエスペランサ・スポルディングのショウは
音楽の自由さ、楽しさを存分に発揮し、客席を楽しませてくれた。
2007年にグラミー賞最優秀新人賞から6年、計3度グラミーを獲得しているエスペランサ・スポルディングが3月にトリオ編成で3日間6公演を行った。
「今回もリラックスしたショウができました。私たちがステージで楽しめたから、客席もきっとハッピーになってくれたんじゃないかしら」
ベースを演奏しながら歌うスタイルのエスペランサ。楽器も太く歌うので、まるで2人のシンガーがデュエットしているかのようだ。
「音楽を始めた頃からずっとベースを弾きながら歌ってきました。演奏と歌が相乗効果をもたらして、技術をあげてきました。コンポーズ面でも、言葉とメロディが一緒に生まれてきます。でも、最近、少し考え方が変わってきた。歌は歌。ベースはベース。どちらかに専念するのもいいのかな、と。新しい音の世界を描けるんじゃないか、とね」
エスペランサは、シンガーでありベーシストであると同時に、ジャズでありポップであることも魅力。
「それは私がとても大切にしていることです。ジャズのフィールドには技術の高い演奏家がたくさんいます。でも、どんなに高度な技術を駆使していても、生まれる音楽が楽しくなくてはいけないと思う。レベルが高いだけではなく、リスナーが純粋に楽しめなくちゃね。さらに、知的であって、エンタテインメントでもあることが理想じゃないかしら。音楽だけではなく、ダンスでもスポーツでも同じ。オリンピックがそうでしょ? 体操競技なんて特に、世界最高レベルの技術を持つ選手たちが、最高レベルのエンタテインメントを披露していると思う」
自分の音楽の中に知性と娯楽性を共存させるために、エスペランサは何を心掛けているのか―。
「画を描く気持ちで演奏して、歌っています。私はフリースタイルの画家なの。リスナーやオーディエンスが音に色彩を感じてくれたらうれしい。ギル・ゴールドスタインやウェイン・ショーターも映像や色彩を感じさせてくれますよね。ギルは音楽の博物館のような人。無数の引き出しからクリエイティヴィティを発揮しています。ウェインの音楽には強い物語性を感じます。彼からは常にありとあらゆる影響を受けています。私にとって、オールタイム・フェイバリット・アーティストです」
この公演を終えると、彼女は次のアルバムの制作に取り掛かるそうだ。
「今は曲作りのさなかです。ウェインからヒントを得たわけではないけれど、リスナーが映画を観ていると感じるようなアルバムをイメージしています。実際に、ストーリーや、登場人物のキャラクター設定も考えて、その上に音楽をつくっていく。レコーディングも、曲ごとに行うのではなく、1曲目から最後まで全曲一発録りするつもりです。今まではアルバム毎に試行錯誤をしてきましたが、最近はっきりとわかったことがあります。それは自己信頼です。自分がいいと思う音は、聴く人も絶対にいいと思ってくれる。それを信じて音づくりをしています」
Photo by Tsuneo Koga
ESPERANZA SPALDING
2017 3.27 mon., 3.28 tue., 3.29 wed.
- ESPERANZA SPALDING(エスペランサ・スポルディング)
- 1984年、米オレゴン州ポートランド生まれ。バークリー音楽院卒で最年少講師を務める。2010年グラミーではジャズ・ミュージシャンとしては初の最優秀新人賞、2013年にも受賞した。キュートな顔立ちとアフロヘアも話題に。
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Keiko Yuyama